猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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婚約編

32.バルコニー

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開け放たれた窓からバルコニーへと出ると、そこにはちらほらと人影があった。

「ここでは、人目が気になってゆっくりと話が出来ませんね。あちらへ参りましょか」

ラファエロは周囲を見渡してから、人の姿が見えない、バルコニーの最奥へとリリアーナを導いた。

こういった場所が、「意中の相手」とのひと時を過ごすための場所ということを知らないわけではない。それに、ラファエロとは既に想いも通じているのだから、二人きりで過ごすことに全く異議はない。……むしろ歓迎なはずなのに何だか気恥ずかしくて、リリアーナは借りてきた猫のように大人しくラファエロに従うだけだった。

「踊った後の夜風は心地がいいですね」

バルコニーの端まで来ると、ラファエロは足を止め、天を仰いだ。
微かに潮の香りを含んだ風が、ふわりとラファエロの金髪を撫でていく。

「ええ、本当に」

リリアーナがにこりとほほ笑むと、ラファエロがゆっくりとリリアーナに向き直る。
夜目にも鮮やかなエメラルド色の瞳が、リリアーナを捉えた。

今日は何度この瞳と見つめ合えたのだろう。
殆ど一日中、彼の隣にいられるだけで心が踊り、乱れ、そして満たされるのだということを思い知った。

「この素晴らしい日を、あなたと共に過ごせたことを、本当に嬉しく思います」

ラファエロはゆっくりと手を伸ばすと、リリアーナを抱きしめた。
ラファエロの体温と、微かに鼻孔を擽るラファエロの香りに包まれ、リリアーナは一瞬で思考回路が飛んでしまうような感覚を覚えた。

それが嬉しいような恥ずかしいような、微妙や感情を呼び覚まして、リリアーナはどんな風に振る舞えばよいのかも分からなくなっていた。
大広間の方から漏れてくる灯りでも、これだけ頬が赤くなっているのは確認できるだろう。

「照れているのですか?………確かに、照れるあなたも可愛らしいですが………」

そう言ってラファエロはリリアーナに微笑みかけてから頬に優しいキスを落とした。

「私は、他の何よりもあなたの笑っている顔が、一番好きです」

言葉と同じくらいの………、いや、それ以上に甘さを含んだ甘い声でラファエロが囁いた。

「……………っ!!」

リリアーナの顔が瞬時に真っ赤に染まっていく。
本当に、今日のラファエロは何かが違っているような気がしてならなかった。
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