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ラファエロ編
88.告白(1)
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「リリアーナ嬢?」
グロッシ侯爵家の執事に案内してもらい、リリアーナの部屋に辿り着いたラファエロは逸る気持ちを抑えながら彼女に声を掛けた。
「ラファエロ様………?お父様とのお話は済んだのですか?」
リリアーナが驚いたようにこちらを向いてから、ラファエロに微笑みかけてくれた。
「ええ、お陰様で。………お父上から許可を頂きましたので、少し庭を案内して下さいませんか?」
平常心を保ちながら、いつも通りの穏やかな笑顔を浮かべるラファエロの提案に、リリアーナは素直に頷いた。
『許可』とは庭園の散策のことだとでも思っているのだろうか。
ラファエロは目を細めると、優しい眼差しでそんな彼女を見つめた。
※※※※※
リリアーナを庭に誘い出したのは、告白をするのにはリリアーナの自室ではあまりにも情緒がないと考えたからだった。
幸いな事に、グロッシ侯爵邸の庭は実に素晴らしいもので、隅々まで手入れが行き届いていた。
「本当に見事ですね。リリアーナ嬢は毎日このような景色を眺めて育ったのですか………」
「この庭園は母の自慢ですから、そう言って頂けると母も喜びますわ」
「あなたのお母上は確かカンチェラーラ侯爵の………」
「はい。分家筋の出ですわ。………本当に、ラファエロ様は何でもご存知ですわね」
リリアーナが微笑みながら、尊敬の眼差しを向けてきた。
………そろそろ、いい頃合だろうか。
ラファエロはじっと周囲の様子を窺うと徐ろに口を開いた。
「何でも、ではありませんよ」
庭園の丁度真ん中辺りで立ち止まると、ラファエロはリリアーナに向き直る。
「人の心の中を窺い知る事は出来ません。………だからこそ、もっと知りたくなりますし、不安にもなるのです」
ゆっくりとした口調で、慎重に言葉を紡いでいく。
「………それは、誰しも同じだと思いますわ」
リリアーナは切なげな視線をラファエロに向けてきたことに気が付いて、ラファエロもエメラルド色の瞳でじっとリリアーナの様子を窺うと、互いに見つめ合うような形になった。
「………リリアーナ嬢」
ラファエロは意を決して、囁くような優しい声でリリアーナの名を口にした。
「………私が、あなたのことをどのように想っているかご存知ないでしょう」
「え…………?」
ラファエロが今日二度目の真顔になった。
リリアーナが自分のことを好いているという確信があってもなお、不安な事には変わりなかった。
笑顔が消えたラファエロの表情は笑顔の時よりも穏やかに、しかしどこか不安そうね雰囲気を醸し出している。
黙り込んだラファエロは二、三度瞬きをしてから、腹を括ったように深く息を吸い込んだ。
「リリアーナ・グロッシ侯爵令嬢。私は、あなたが好きです。………あなたと言葉を交わしてから、ずっとあなたを見ていました。困難に負けない強さも、クラリーチェ嬢へ向ける優しさも、全てが愛おしい。グロッシ侯爵が、あなたとジュストを結婚させるつもりがないと分かっていても、婚約者であるのが牴牾かしくて仕方ありませんでした。………ですがその足枷がなくなった今、こうして堂々とあなたに想いを告げることが出来る事が、嬉しくて堪りません」
意を決したように伝えられた言葉は、静かな、けれども強い想いの籠もったもので、それを聞いたリリアーナは、抜けるような紺碧の瞳を、これ以上無いくらいに見開いていた。
グロッシ侯爵家の執事に案内してもらい、リリアーナの部屋に辿り着いたラファエロは逸る気持ちを抑えながら彼女に声を掛けた。
「ラファエロ様………?お父様とのお話は済んだのですか?」
リリアーナが驚いたようにこちらを向いてから、ラファエロに微笑みかけてくれた。
「ええ、お陰様で。………お父上から許可を頂きましたので、少し庭を案内して下さいませんか?」
平常心を保ちながら、いつも通りの穏やかな笑顔を浮かべるラファエロの提案に、リリアーナは素直に頷いた。
『許可』とは庭園の散策のことだとでも思っているのだろうか。
ラファエロは目を細めると、優しい眼差しでそんな彼女を見つめた。
※※※※※
リリアーナを庭に誘い出したのは、告白をするのにはリリアーナの自室ではあまりにも情緒がないと考えたからだった。
幸いな事に、グロッシ侯爵邸の庭は実に素晴らしいもので、隅々まで手入れが行き届いていた。
「本当に見事ですね。リリアーナ嬢は毎日このような景色を眺めて育ったのですか………」
「この庭園は母の自慢ですから、そう言って頂けると母も喜びますわ」
「あなたのお母上は確かカンチェラーラ侯爵の………」
「はい。分家筋の出ですわ。………本当に、ラファエロ様は何でもご存知ですわね」
リリアーナが微笑みながら、尊敬の眼差しを向けてきた。
………そろそろ、いい頃合だろうか。
ラファエロはじっと周囲の様子を窺うと徐ろに口を開いた。
「何でも、ではありませんよ」
庭園の丁度真ん中辺りで立ち止まると、ラファエロはリリアーナに向き直る。
「人の心の中を窺い知る事は出来ません。………だからこそ、もっと知りたくなりますし、不安にもなるのです」
ゆっくりとした口調で、慎重に言葉を紡いでいく。
「………それは、誰しも同じだと思いますわ」
リリアーナは切なげな視線をラファエロに向けてきたことに気が付いて、ラファエロもエメラルド色の瞳でじっとリリアーナの様子を窺うと、互いに見つめ合うような形になった。
「………リリアーナ嬢」
ラファエロは意を決して、囁くような優しい声でリリアーナの名を口にした。
「………私が、あなたのことをどのように想っているかご存知ないでしょう」
「え…………?」
ラファエロが今日二度目の真顔になった。
リリアーナが自分のことを好いているという確信があってもなお、不安な事には変わりなかった。
笑顔が消えたラファエロの表情は笑顔の時よりも穏やかに、しかしどこか不安そうね雰囲気を醸し出している。
黙り込んだラファエロは二、三度瞬きをしてから、腹を括ったように深く息を吸い込んだ。
「リリアーナ・グロッシ侯爵令嬢。私は、あなたが好きです。………あなたと言葉を交わしてから、ずっとあなたを見ていました。困難に負けない強さも、クラリーチェ嬢へ向ける優しさも、全てが愛おしい。グロッシ侯爵が、あなたとジュストを結婚させるつもりがないと分かっていても、婚約者であるのが牴牾かしくて仕方ありませんでした。………ですがその足枷がなくなった今、こうして堂々とあなたに想いを告げることが出来る事が、嬉しくて堪りません」
意を決したように伝えられた言葉は、静かな、けれども強い想いの籠もったもので、それを聞いたリリアーナは、抜けるような紺碧の瞳を、これ以上無いくらいに見開いていた。
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