猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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ラファエロ編

86.許可(1)

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ブラマーニ一家破落戸どもへの断罪がお気に召したようで何よりです」

通された部屋の長椅子に腰を下ろすなり、ラファエロは穏やかな笑顔を浮かべた。

「………ふ。あの開港祭からのえげつない茶番劇は楽しませていただきましたが………あの程度ではまだまだ生温いような気がしますな。どうせなら全身の毛を全て毟り取ってから縛り上げて、騎士団の弓の的にでもしてやって失禁させてやるくらいでも、罰は当たりませんぞ」

グロッシ侯爵はそう言って豪快な笑い声を上げた。
えげつない茶番劇とはまた辛辣な評価を下されたものだ。
流石はリリアーナの父親と言うべきなのか、それともこの父にしてこの子ありということなのかとラファエロはぼんやり考えた。

「………冗談はさておき、お忙しい王弟殿下は、そんな事を言うためにわざわざ我が屋敷まで足を運んだ訳ではないでしょう?」

僅かに声を低くしたグロッシ侯爵は、リリアーナと同じ、キエザの海を思わせる紺碧の瞳をすっと細める。
声と同じく、侯爵の纏う気配も変化したことにラファエロは気がついた。

「わざわざ尋ねなくとも、もう、ご用件はお分かりでしょうが………」

ラファエロは小さく呼吸を整え、背筋を伸ばすと、その端正な顔から笑顔を消した。
いつもの穏やかな笑顔と引き換えに浮かんだのは、グロッシ侯爵でさえも見たことのない、真剣な表情だった。

「本日は、ご息女を私の妃に迎えたく、そのお願いに参りました」

実に丁寧な、淀みのないはっきりとした口調で、ラファエロは告げた。

「………それは、王命ですか?」

ラファエロの懇願に対して是でも非でもなく、質問を返すグロッシ侯爵の瞳が鋭い光を帯びた。

「いいえ。兄には既に報告しましたが、これはあくまでもラファエロ・レアーレ・キエザ個人としての意向です。ですがまだ、リリアーナ嬢にも伝えてはおりません。………先に、侯爵お父君の許可を得るのが筋かと思いまして」

ラファエロもグロッシ侯爵に怯むことなく、エメラルド色の強い視線を侯爵へとぶつける。
二人から放たれるピリピリとした際どい空気が、部屋の中を満たしているようだった。

「………ご存知の通り娘は、昨日婚約解消となったばかりで、まだ正式な手続きも済んでいないというのに、次の婚約を結ばせるなど酷な話だとはお思いになりませんか?」

それはまるで、ラファエロを試すかのような言葉だった。
だが、その程度で折れるようなラファエロではなかった。
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