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ラファエロ編
83.祝杯
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ラファエロはすぐに自分の執務室を開放し、軽食と酒を用意させた。
「リリアーナ嬢も、疲れたでしょう。本当に、大変な一日でしたね」
当然のように自分の向かいの席に座らせたリリアーナに、ラファエロは柔らかな口調で労いの言葉をかける。
「私は先程王弟殿下にお気遣い頂いて休ませて頂きましたから、大丈夫ですわ。殿下こそ、大変な思いをされたでしょう?お体は何ともありませんの?」
リリアーナが心配そうに紺碧の瞳をラファエロに向ける。
「こう見えても、兄上と共に鍛えているので全く問題ありませんよ。不測の事態というのは突然やって来るものですからね。彼らにも良い訓練になったでしょう」
隣のテーブルで楽しそうに騒ぐ近衛騎士達やリディア達にちらりと視線を送ってから、大したことではないと言うようにラファエロは軽く笑う。
そして、ふと真顔になるとリリアーナを真っ直ぐに見つめた。
「ああ………それから、私の事はどうぞラファエロとお呼び下さい。遠慮することはありませんよ。私だってあなたのことを『リリアーナ嬢』と呼ばせて頂いているのですから、おあいこです」
少しずつ、だが確実にリリアーナとの心の距離を縮めていくように、ラファエロは慎重に言葉を選びながら口にした。
「お申し出は大変嬉しく存じますけれど………」
「まさか畏れ多くて呼べないなどとは言いませんよね?」
深い笑みを浮かべて、ラファエロが念を押す。
どれほどに自分がリリアーナの事を想っているのか、彼女は知らないだろう。
こうして彼女を前にするだけでも息苦しくなるほどに狂おしい感情が湧き上がってくる。
だからこそ、リリアーナを絶対に逃さないようにラファエロは動いていた。
「………はい、ラファエロ様………」
観念したかのようにリリアーナが自分の名前を口にするのを聞いて、ラファエロは嬉しそうにふわりと微笑んだ。
「ふふ、リリアーナ嬢との距離が少し縮まった気がしますね。………ああ、そうでした。改めて、ジュスト・ブラマーニとの婚約解消、おめでとうございます」
ラファエロは葡萄酒の入ったグラスを傾け、乾杯の仕草をしてみせた。
「ありがとうございます。………それに、ブラマーニ家の面々に対する断罪の場でも、色々とお気遣い頂いて、本当に感謝しておりますわ」
リリアーナの方も作り笑いではない、心からの笑顔をラファエロへと向ける。
「あなたには何の非もないというのに、ずっと理不尽な扱いを受けてきたのですから、当然ですよ。まぁ正直生温い罰でしたけれど、あなたの心からの笑顔が見れたので良しとしましょうか」
ラファエロもリリアーナに、心からの笑顔を返した。
こうしていつも笑い合える日が来るのが、待ち遠しくて仕方がない。
「グロッシ侯爵も今回ばかりは後悔していたようですし、今日の事件が無かったとしても、遅かれ早かれ婚約解消にはなったでしょう。それでも、あなたがお父上の期待に応える為に努力し、目標を達成した事は本当に素晴らしいと思います」
「そんな………」
ラファエロが手放しで褒めると、リリアーナは少し考え込むように眉根を寄せる。
その表情を見て、ラファエロは直感的に彼女の思考を感じ取る。
口にしたのはグロッシ侯爵や彼女の兄であるウルバーノから聞いた話や、密かに王の影達に探らせていた情報だったせいか、ラファエロがリリアーナの婚約の内情について詳しく知っていることを不思議に思ったのだろう。
「………兄上と私の許には、様々な情報が集まってきますからね」
ラファエロは得意げな笑みを浮かべると、葡萄酒を一気に煽る。
「………といっても、大体はグロッシ侯爵やウルバーノから聞いたのですが」
ラファエロは情報源を正直に打ち明けた。
隠しておく必要はないだろうし、誤魔化しても、遅かれ早かれリリアーナにもその事実は伝わるだろう。
それに何よりも、リリアーナに隠し事をしたくなかった。
「そうだったのですね」
「………まぁ、あのような方法で婚約解消を勝ち取るというのは、………ほんの少し予想外でしたが」
リリアーナがジュストの頬をを殴った時の様子を思い出しながらラファエロは小さく笑い声を上げる。
実に堂々としたリリアーナの様子とは対照的に、この上なく無様なジュストの姿は本当に愉快としか思えなかった。
「………それは………っ」
リリアーナは恥ずかしそうに頬を染めながら俯く。
強かさも度胸も持ち合わせているリリアーナの、ふとした拍子に見せるこういった可愛らしさがラファエロには堪らなかった。
「恥じる必要などありませんよ。本当に見事でしたし、あの行為のお陰でブラマーニの面々に隙が生まれましたしね。………それに言ったでしょう。私は強い淑女が好きなんです」
「…………っ!」
ラファエロが甘い声で囁くと、リリアーナは驚いたように息を呑み、そして真っ赤になった。
そしてどう反応したら良いのかわからないと言ったように黙ったまま、ぎゅっと目を瞑っている。
(本当に、どこまでも可愛いひとですね………)
ラファエロはそんな事を考えながら穏やかな笑顔を浮かべ、リリアーナとの夜をゆったりと過ごしたのだった。
「リリアーナ嬢も、疲れたでしょう。本当に、大変な一日でしたね」
当然のように自分の向かいの席に座らせたリリアーナに、ラファエロは柔らかな口調で労いの言葉をかける。
「私は先程王弟殿下にお気遣い頂いて休ませて頂きましたから、大丈夫ですわ。殿下こそ、大変な思いをされたでしょう?お体は何ともありませんの?」
リリアーナが心配そうに紺碧の瞳をラファエロに向ける。
「こう見えても、兄上と共に鍛えているので全く問題ありませんよ。不測の事態というのは突然やって来るものですからね。彼らにも良い訓練になったでしょう」
隣のテーブルで楽しそうに騒ぐ近衛騎士達やリディア達にちらりと視線を送ってから、大したことではないと言うようにラファエロは軽く笑う。
そして、ふと真顔になるとリリアーナを真っ直ぐに見つめた。
「ああ………それから、私の事はどうぞラファエロとお呼び下さい。遠慮することはありませんよ。私だってあなたのことを『リリアーナ嬢』と呼ばせて頂いているのですから、おあいこです」
少しずつ、だが確実にリリアーナとの心の距離を縮めていくように、ラファエロは慎重に言葉を選びながら口にした。
「お申し出は大変嬉しく存じますけれど………」
「まさか畏れ多くて呼べないなどとは言いませんよね?」
深い笑みを浮かべて、ラファエロが念を押す。
どれほどに自分がリリアーナの事を想っているのか、彼女は知らないだろう。
こうして彼女を前にするだけでも息苦しくなるほどに狂おしい感情が湧き上がってくる。
だからこそ、リリアーナを絶対に逃さないようにラファエロは動いていた。
「………はい、ラファエロ様………」
観念したかのようにリリアーナが自分の名前を口にするのを聞いて、ラファエロは嬉しそうにふわりと微笑んだ。
「ふふ、リリアーナ嬢との距離が少し縮まった気がしますね。………ああ、そうでした。改めて、ジュスト・ブラマーニとの婚約解消、おめでとうございます」
ラファエロは葡萄酒の入ったグラスを傾け、乾杯の仕草をしてみせた。
「ありがとうございます。………それに、ブラマーニ家の面々に対する断罪の場でも、色々とお気遣い頂いて、本当に感謝しておりますわ」
リリアーナの方も作り笑いではない、心からの笑顔をラファエロへと向ける。
「あなたには何の非もないというのに、ずっと理不尽な扱いを受けてきたのですから、当然ですよ。まぁ正直生温い罰でしたけれど、あなたの心からの笑顔が見れたので良しとしましょうか」
ラファエロもリリアーナに、心からの笑顔を返した。
こうしていつも笑い合える日が来るのが、待ち遠しくて仕方がない。
「グロッシ侯爵も今回ばかりは後悔していたようですし、今日の事件が無かったとしても、遅かれ早かれ婚約解消にはなったでしょう。それでも、あなたがお父上の期待に応える為に努力し、目標を達成した事は本当に素晴らしいと思います」
「そんな………」
ラファエロが手放しで褒めると、リリアーナは少し考え込むように眉根を寄せる。
その表情を見て、ラファエロは直感的に彼女の思考を感じ取る。
口にしたのはグロッシ侯爵や彼女の兄であるウルバーノから聞いた話や、密かに王の影達に探らせていた情報だったせいか、ラファエロがリリアーナの婚約の内情について詳しく知っていることを不思議に思ったのだろう。
「………兄上と私の許には、様々な情報が集まってきますからね」
ラファエロは得意げな笑みを浮かべると、葡萄酒を一気に煽る。
「………といっても、大体はグロッシ侯爵やウルバーノから聞いたのですが」
ラファエロは情報源を正直に打ち明けた。
隠しておく必要はないだろうし、誤魔化しても、遅かれ早かれリリアーナにもその事実は伝わるだろう。
それに何よりも、リリアーナに隠し事をしたくなかった。
「そうだったのですね」
「………まぁ、あのような方法で婚約解消を勝ち取るというのは、………ほんの少し予想外でしたが」
リリアーナがジュストの頬をを殴った時の様子を思い出しながらラファエロは小さく笑い声を上げる。
実に堂々としたリリアーナの様子とは対照的に、この上なく無様なジュストの姿は本当に愉快としか思えなかった。
「………それは………っ」
リリアーナは恥ずかしそうに頬を染めながら俯く。
強かさも度胸も持ち合わせているリリアーナの、ふとした拍子に見せるこういった可愛らしさがラファエロには堪らなかった。
「恥じる必要などありませんよ。本当に見事でしたし、あの行為のお陰でブラマーニの面々に隙が生まれましたしね。………それに言ったでしょう。私は強い淑女が好きなんです」
「…………っ!」
ラファエロが甘い声で囁くと、リリアーナは驚いたように息を呑み、そして真っ赤になった。
そしてどう反応したら良いのかわからないと言ったように黙ったまま、ぎゅっと目を瞑っている。
(本当に、どこまでも可愛いひとですね………)
ラファエロはそんな事を考えながら穏やかな笑顔を浮かべ、リリアーナとの夜をゆったりと過ごしたのだった。
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