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ラファエロ編
47.決定的な言葉
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「あら、婚約破棄………ですの?私ももうあなた様と婚約関係を続けるのは不可能だと思っておりましたから、『婚約解消』が正しいのではありませんこと?」
ジュストに立ち向かうリリアーナは、喜びをひた隠しにしているように見えた。
感情を押し殺しているその表情すらも可愛らしく、ラファエロは彼女を静かに見守り続ける。
「何だと………?」
「あら、ご存じないのかしら?一方的に婚約を取り消す場合は婚約破棄ですけれど、双方合意の上ならば、婚約解消になりますの。………尤もその場合は、慰謝料などは請求できませんけれど………まさかブラマーニ公爵家ともなれば、慰謝料など全くアテにしていないでしょうけれどね。本当でしたら、こちらが慰謝料を請求したいくらいですけれど………」
左手を頬に当て、ほうっと悩まし気に溜息をついてから表情を一変させ、ぎろりとジュストを睨みつけた。
成る程、リリアーナが『婚約破棄』ではなく『婚約解消』を望んでいたのは、慰謝料のためだったのかと納得する。
グロッシ侯爵家程の貴族となれば、資金繰りに困るような事は有り得ないが、ブラマーニ公爵家に払うような金は持ち合わせていない、ということだろう。
「金輪際、クラリーチェ様と私に近づかないとお約束いただけるのならば、大人しく何もせず、婚約解消といたしましょう」
リリアーナは穏やかな、けれど冷たい口調でそう告げた。
「………こちらが大人しくしていれば、随分と好き勝手な事を言ってくれるじゃない?」
突如艶めかしい声が響き渡った。
聞きたくもない声の主が誰なのか、見なくても解ってしまった事に多少の苛立ちを感じながらラファエロは兜の下でひっそりと溜息をついた。
「何て野蛮な娘なのかしら。………あぁ、可哀想なジュスト………」
ジュストに歩み寄るブラマーニ公爵夫人の言葉が、ラファエロの神経を逆撫でする。
立場を弁えない浅ましい逆賊が、と内心で罵りながら、まるで魔女のようにリリアーナを睨め付けるディアマンテに、ニクシミの籠もった視線を向けた。
「躾のなっていない小娘だと思っていたけれど………ここまでだとはね………。全く、嘆かわしいこと。………自分が何をしたのか、分かっているのかしら?」
ディアマンテの氷のような侮蔑の視線にも、リリアーナは全く怯む様子を見せず、ディアマンテを見据えていた。
「お兄様、私はジュストの判断を支持致しますわ。このような娘は未来の国王には相応しくありませんもの」
ディアマンテはもう一度リリアーナを睨むと、わざと「未来の国王」という言葉を強調するように言い放った。
その一言こそ、エドアルドとラファエロが待ち望んでいた言葉だった。
「お言葉ですが、ブラマーニ公爵子息様が未来の国王と決まったわけではございませんのに、それを断言するというのは、どういったご了見でしょうか?まさか、議会も通さず、大司祭への報告もなしに国王を挿げ替えようとなされているのですか?」
クラリーチェの声は、驚くほど冷静に感じられた。
「………クラリーチェ様も頑固ねぇ。先程フェラーラ侯爵やジュストが言った通り、エドアルドが存命である見込みはないのよ?そして、次に玉座に相応しいのはブラマーニ公爵よ。その息子を『将来の国王』と表現して何が悪いというのかしら?………もしかしてあなた、焦っているのかしら?エドアルドが死んだらもうこの王宮にいられなくなるから?………それなら心配いらないわ。あなたはジュストの妃になるのだもの」
決定的な言葉が飛び出したことで、全てが整った。
ラファエロはちらりとエドアルドを見ると、水色の瞳に静かに怒りを湛えたまま、ディアマンテを睨んでいた。
ジュストに立ち向かうリリアーナは、喜びをひた隠しにしているように見えた。
感情を押し殺しているその表情すらも可愛らしく、ラファエロは彼女を静かに見守り続ける。
「何だと………?」
「あら、ご存じないのかしら?一方的に婚約を取り消す場合は婚約破棄ですけれど、双方合意の上ならば、婚約解消になりますの。………尤もその場合は、慰謝料などは請求できませんけれど………まさかブラマーニ公爵家ともなれば、慰謝料など全くアテにしていないでしょうけれどね。本当でしたら、こちらが慰謝料を請求したいくらいですけれど………」
左手を頬に当て、ほうっと悩まし気に溜息をついてから表情を一変させ、ぎろりとジュストを睨みつけた。
成る程、リリアーナが『婚約破棄』ではなく『婚約解消』を望んでいたのは、慰謝料のためだったのかと納得する。
グロッシ侯爵家程の貴族となれば、資金繰りに困るような事は有り得ないが、ブラマーニ公爵家に払うような金は持ち合わせていない、ということだろう。
「金輪際、クラリーチェ様と私に近づかないとお約束いただけるのならば、大人しく何もせず、婚約解消といたしましょう」
リリアーナは穏やかな、けれど冷たい口調でそう告げた。
「………こちらが大人しくしていれば、随分と好き勝手な事を言ってくれるじゃない?」
突如艶めかしい声が響き渡った。
聞きたくもない声の主が誰なのか、見なくても解ってしまった事に多少の苛立ちを感じながらラファエロは兜の下でひっそりと溜息をついた。
「何て野蛮な娘なのかしら。………あぁ、可哀想なジュスト………」
ジュストに歩み寄るブラマーニ公爵夫人の言葉が、ラファエロの神経を逆撫でする。
立場を弁えない浅ましい逆賊が、と内心で罵りながら、まるで魔女のようにリリアーナを睨め付けるディアマンテに、ニクシミの籠もった視線を向けた。
「躾のなっていない小娘だと思っていたけれど………ここまでだとはね………。全く、嘆かわしいこと。………自分が何をしたのか、分かっているのかしら?」
ディアマンテの氷のような侮蔑の視線にも、リリアーナは全く怯む様子を見せず、ディアマンテを見据えていた。
「お兄様、私はジュストの判断を支持致しますわ。このような娘は未来の国王には相応しくありませんもの」
ディアマンテはもう一度リリアーナを睨むと、わざと「未来の国王」という言葉を強調するように言い放った。
その一言こそ、エドアルドとラファエロが待ち望んでいた言葉だった。
「お言葉ですが、ブラマーニ公爵子息様が未来の国王と決まったわけではございませんのに、それを断言するというのは、どういったご了見でしょうか?まさか、議会も通さず、大司祭への報告もなしに国王を挿げ替えようとなされているのですか?」
クラリーチェの声は、驚くほど冷静に感じられた。
「………クラリーチェ様も頑固ねぇ。先程フェラーラ侯爵やジュストが言った通り、エドアルドが存命である見込みはないのよ?そして、次に玉座に相応しいのはブラマーニ公爵よ。その息子を『将来の国王』と表現して何が悪いというのかしら?………もしかしてあなた、焦っているのかしら?エドアルドが死んだらもうこの王宮にいられなくなるから?………それなら心配いらないわ。あなたはジュストの妃になるのだもの」
決定的な言葉が飛び出したことで、全てが整った。
ラファエロはちらりとエドアルドを見ると、水色の瞳に静かに怒りを湛えたまま、ディアマンテを睨んでいた。
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