猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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ラファエロ編

23.我慢の限界

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「………そんなやせ我慢をしなくても、素直に言えばいいのに……。余程私の気を引きたいようだね?ならば少しバルコニーのほうへ行かないか?」

そんな言葉が聞こえた瞬間、ラファエロは思わず目を見開いた。
普通の婚約者同士なら当たり前の言葉だが、ジュストとリリアーナはその「普通」には当てはまらない。
つい先程まではリリアーナに近づくことすらしなかったジュストがそのような提案をするということは、おそらく何か良からぬことを企んでいるに違いないとラファエロは思った。

「折角ですけれど、お断りいたしますわ。私もう少しこの雰囲気を楽しみたいですもの」

リリアーナはその可憐な声で、きっぱりとジュストの提案を突っぱねる。

「……リリアーナ?少し顔色が優れないようだ。私が介抱してやるから、一緒に行こう?」

これだけ声もしっかりしているというに、「顔色が悪い」などとはいくら何でも無理があるだろうと内心でジュストを嘲ると、ラファエロは更に彼らとの距離を詰め、リリアーナの隣に佇むリリアーナの兄・ウルバーノの斜め後ろへと移る。

「まあ、お心遣いありがとうございます。でも私、疲れてもおりませんし、気分も悪くありませんわ。ジュスト様の方がお疲れになっているのでは?私は大丈夫ですので、お休みになるのであればお一人でいかがです?」
「この………っ!」

リリアーナの態度に痺れを切らしたのか、ジュストはリリアーナの手を掴もうと近寄ってきたのを確認し、ラファエロは素早く動いた。

「おや、失礼」

リリアーナの手首をジュストが無理やり掴もうとしたちょうどその瞬間、偶然を装ってリリアーナの肩にぶつかる。

「あっ………!」

リリアーナが小さく声をあげるのを聞いて、強くぶつかってしまったのかと心配になりながらも、柔らかな笑みを浮かべてリリアーナに声を掛けた。

「大丈夫ですか、レディ?」
「王弟殿下………⁉」

驚いたように呟いたのは、ジュストの方だった。
リリアーナも慌てたように自分の方に視線を向けてくれるのを感じ、自然と口元に浮かべた笑みが深くなった。

「私の不注意で、可愛らしいレディに危うく怪我をさせてしまうところでしたね。申し訳ありません」

あくまでも紳士的に、完璧に感情を隠した笑顔を浮かべて見せる。

「こちらこそ、お気遣いいただきありがとうございます」

するとリリアーナの方も完璧な笑顔を返してくれた。
先程見たような、心からの美しい笑顔ではないにしても、負の感情が含まれていないことを確認したラファエロは頷き、そしてリリアーナの後ろにいるジュストを一瞥した。

「ああ……ジュスト。あなたの母君があなたを探しておられましたよ。可愛らしい婚約者にをするよりも、早く行ったほうがいいのではないですか?」

クラリーチェとのダンスを終えたジュストをブラマーニ公爵夫人が探していたのは事実で、この男を追い払うにはちょうどいい口実ができたと考えていたのを思い出し、ジュストに告げる。
それからラファエロのエメラルド色の瞳が、中途半端に差し出されたジュストの右手を捉えると、ジュストははっとしてから気まずそうに右手をおろす。
そしてラファエロに向かって一礼をし、リリアーナを睨んでからその場を立ち去っていったのだった。
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