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ラファエロ編
16.月夜の灰かぶり姫
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悩みに悩んだエドアルドがラファエロを訪ねてきたのは、その翌日のことだった。
「………ラファエロ。少し、いいか?」
妙に神妙な面持ちのエドアルドが、申し訳無さそうに顔を出した。
「………そろそろ来る頃かと思っていましたよ」
ラファエロは微笑みながら手招きをする。
兄が何の為に、どういう目的で自分を訪ねてきたのかは分かりきっていた。
「頼む。教えてくれ。私はどうすればいい?」
あまりにも予想通りなエドアルドの質問に、ラファエロは呆れたように溜息をついた。
「兄上は、莫迦ですか?」
「何だと?」
驚いたようにエドアルドは目を見開いた。
そういえば真正面から兄に向かって暴言を吐いたのは初めてだったとラファエロは思い出す。
「少しは自分で考えてきたのかと思えば丸投げとは………完全無欠の国王陛下が聞いて呆れますね」
「む………」
返す言葉が見つからないようで、エドアルドは押し黙った。
悔しそうに唇を噛むエドアルドを見て、ほんの少しだけ、ラファエロは笑い、囁いた。
「恥もプライドも捨てて、自分自身を曝け出すのですよ。彼女の心以外、欲しいものは何もないのでしょう?その気持ちを、包み隠さず、心のままに伝えるんです」
「心のままに………か」
流し読みした恋物語から聞き齧った知識を、さも自分のもののように伝えながらラファエロは頷く。
「それと、重要なのは想いを伝える場所やシチュエーションですね。こう、乙女心を擽る………」
「その乙女心とやらが理解できていれば、お前に頭を下げていない」
「………そうでした。………全く、どうしてこんなカタブツに育ったのやら………。………あぁ、そういえば二人の出会いは、月の綺麗な夜でしたね?手紙でも書いて、夜の散歩にでも誘ってみてはいかがです?」
「なるほどな………」
エドアルドは納得したように頷いた。
やはり、兄には具体的なイメージが必要だったようだと、ラファエロは満足気に笑いながら先日ダンテから受け取った恋物語を手渡す。
「流石に、手紙の内容までは指導しませんよ?………このあたりの本でも読んで、勉強して下さい」
何も知らないエドアルドは、じっとその本の表紙を見つめた。
「ラファエロ、恩に着る」
渡された本を大切そうに脇に抱えると、エドアルドはそそくさと退散していった。
「………全く世話の焼ける兄ですね。私自身恋愛経験ゼロだと言うのに、何が悲しくて実の兄に恋愛の手解きをする為に恋物語で勉強など………」
ラファエロは去りゆく兄の背中を見つめながら独りごちた。
だが、自分とて全く無関係ではない。
エドアルドとは状況は異なるが、これから試練に立ち向かっていかなければならないのだ。
「………書店の主人の言うとおり、人生の勉強という意味では役に立つのかもしれませんね」
そう呟いて、机の傍らに置かれた恋物語に視線を移す。
これらの本を参考に、エドアルドとクラリーチェをモデルにしてラファエロが書いた恋物語こそが「月夜の灰かぶり姫」、………まさに先程エドアルドに手渡したものだった。
一般に出回っていない本だと怪しまれる可能性があると思い、休憩も睡眠も削り、全力で書き上げた珠玉の逸品だった。
それをマリカに命じて大急ぎで本に仕立て、例の書店の主人に掛け合って本を置かせてもらったのだ。
すると、何故か店頭に並ぶ日には貴族令嬢や平民の娘が行列を作り買い求める事態になったらしい。
お陰で「夜に出回っている」という既成事実が出来た訳だが、本の売れ行きには興味は無かった。
「中々物好きな方もいたものですね」
ラファエロは恋物語の山を見つめたまま、そっとそう呟いたのだった。
「………ラファエロ。少し、いいか?」
妙に神妙な面持ちのエドアルドが、申し訳無さそうに顔を出した。
「………そろそろ来る頃かと思っていましたよ」
ラファエロは微笑みながら手招きをする。
兄が何の為に、どういう目的で自分を訪ねてきたのかは分かりきっていた。
「頼む。教えてくれ。私はどうすればいい?」
あまりにも予想通りなエドアルドの質問に、ラファエロは呆れたように溜息をついた。
「兄上は、莫迦ですか?」
「何だと?」
驚いたようにエドアルドは目を見開いた。
そういえば真正面から兄に向かって暴言を吐いたのは初めてだったとラファエロは思い出す。
「少しは自分で考えてきたのかと思えば丸投げとは………完全無欠の国王陛下が聞いて呆れますね」
「む………」
返す言葉が見つからないようで、エドアルドは押し黙った。
悔しそうに唇を噛むエドアルドを見て、ほんの少しだけ、ラファエロは笑い、囁いた。
「恥もプライドも捨てて、自分自身を曝け出すのですよ。彼女の心以外、欲しいものは何もないのでしょう?その気持ちを、包み隠さず、心のままに伝えるんです」
「心のままに………か」
流し読みした恋物語から聞き齧った知識を、さも自分のもののように伝えながらラファエロは頷く。
「それと、重要なのは想いを伝える場所やシチュエーションですね。こう、乙女心を擽る………」
「その乙女心とやらが理解できていれば、お前に頭を下げていない」
「………そうでした。………全く、どうしてこんなカタブツに育ったのやら………。………あぁ、そういえば二人の出会いは、月の綺麗な夜でしたね?手紙でも書いて、夜の散歩にでも誘ってみてはいかがです?」
「なるほどな………」
エドアルドは納得したように頷いた。
やはり、兄には具体的なイメージが必要だったようだと、ラファエロは満足気に笑いながら先日ダンテから受け取った恋物語を手渡す。
「流石に、手紙の内容までは指導しませんよ?………このあたりの本でも読んで、勉強して下さい」
何も知らないエドアルドは、じっとその本の表紙を見つめた。
「ラファエロ、恩に着る」
渡された本を大切そうに脇に抱えると、エドアルドはそそくさと退散していった。
「………全く世話の焼ける兄ですね。私自身恋愛経験ゼロだと言うのに、何が悲しくて実の兄に恋愛の手解きをする為に恋物語で勉強など………」
ラファエロは去りゆく兄の背中を見つめながら独りごちた。
だが、自分とて全く無関係ではない。
エドアルドとは状況は異なるが、これから試練に立ち向かっていかなければならないのだ。
「………書店の主人の言うとおり、人生の勉強という意味では役に立つのかもしれませんね」
そう呟いて、机の傍らに置かれた恋物語に視線を移す。
これらの本を参考に、エドアルドとクラリーチェをモデルにしてラファエロが書いた恋物語こそが「月夜の灰かぶり姫」、………まさに先程エドアルドに手渡したものだった。
一般に出回っていない本だと怪しまれる可能性があると思い、休憩も睡眠も削り、全力で書き上げた珠玉の逸品だった。
それをマリカに命じて大急ぎで本に仕立て、例の書店の主人に掛け合って本を置かせてもらったのだ。
すると、何故か店頭に並ぶ日には貴族令嬢や平民の娘が行列を作り買い求める事態になったらしい。
お陰で「夜に出回っている」という既成事実が出来た訳だが、本の売れ行きには興味は無かった。
「中々物好きな方もいたものですね」
ラファエロは恋物語の山を見つめたまま、そっとそう呟いたのだった。
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