猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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リリアーナ編

76.見えない本心

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「手慣れているというか………手際が良いですわね」
「私の夫が近衛騎士団に所属しておりますので、怪我の手当は日常生活の一部なのです」

右手の手当をしてくれたのは、ラファエロ付きの侍女で、マリカいう名の、ラファエロより少し年上の女性だった。
とても落ち着いた雰囲気の女性で、どこかクラリーチェ付きの侍女であるリディアと似ている気がする。

「それは上手な筈ですわね」

リリアーナが納得したように頷くと、マリカは笑みを零した。

「それにしても、殿下のあのようなお姿を見る日が来るなんて驚きました」
「え…………?」

マリカは包帯を巻き終えると、薬箱を片付け、手際よくお茶の準備をしてくれた。

「お嬢様の事をとても気に掛けていらっしゃったではありませんか。私は殿下付きの侍女となって数年経ちますけれど、何と申し上げたら良いのでしょうか………。………殿下はとても物腰の柔らかいお優しい方ですが、………その誰にでも、同じように接する方ですので、特別どなたかに………という事がなかったのです。縁談の類は一切お受けになりませんでしたし、社交の場でご令嬢方とお話することはあったようですけれど、お手紙のお返事は全て代筆で済ませておられて………」

マリカは溜息をつくと湯気の立ち上るティーカップをリリアーナの前に差し出した。

「私のような者が口を出すような事では無い事は重々承知しておりますけれど………陛下だけではなく殿下もご結婚されるつもりがないのではないかと心配しておりましたが、どうやらいらぬ心配だったようですね」

リリアーナに向かって満面の笑みを零したマリカに、リリアーナは慌てる。

「あの………っ、仰られる意味が良く分かりませんわ?私はまだ………っ」

いつもラファエロを間近で見ているマリカにそう言われると、何と返したらいいのか分からない。

「ここに私を待機させたのも、殿下なのですよ。お嬢様が困らないように、と仰って…………」

ふふ、と含み笑いを浮かべるマリカに、リリアーナは恥ずかしそうに俯いた。

本当に、ラファエロが自分の事を「特別」だと思ってくれているのであれば、素直に嬉しい。
先程の断罪の場で、自分の事を庇い、気遣って、怒りを顕にしてくれたのを目の当たりにして、マリカの言うとおり、彼が自分に好意を持ってくれているという期待を抱いていない訳でもない。

だが、マリカの話を聞いてもなお、その期待が確信に変わることはなかった。
………笑顔の奥に隠された彼の、本心は見えないからだ。
その不安と、彼への好意でリリアーナの心は掻き乱される。
リリアーナは差し出されたティーカップを手に取ると、その熱を感じながら琥珀色の液体をじっと見つめるのだった。
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