猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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リリアーナ編

57.屈辱

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リディアの手によって後手に縛られ、エドアルドの足元に転がされたジュストは、屈辱に顔を歪める。

「結果が全てのあなたにとって、これはさぞかし不本意でしょうね」

リリアーナが最大限の侮蔑を込めた目でジュストを見下ろしながら呟くと、ジュストは瞳孔を開いたまま、仄暗い視線を向けてきた。
この男に視線を向けられることすらも虫酸が走るが、この際仕方がないと自分に言い聞かせる。

「不本意………?そんなものではすまない。………この上ない屈辱だよ………。お前にそんな顔で見下されるのもね………」

ジュストは、低い声を吐き出した。

「あら、私は物凄く気分がいいわ」

リリアーナは満面の笑みを浮かべた。
ジュストの口から屈辱という言葉を引き出せる日が来るとは思いもしなかったからだ。

「黙れ、リリアーナ」

ジュストは縛られた無様な姿を見られてもなお、強気な姿勢は崩さない。
屈辱は与えられても、あの自尊心を打ち砕くのは容易ではないらしい。
リリアーナはすっと目を細めてジュストを睨みつけたその時。

「何の罪もない淑女に対して、その態度はいただけませんね」

突然ラファエロの声がして、リリアーナを庇うようにして彼の体がジュストとの間に割り込んできた。
エメラルド色の瞳が、後ろへと下がるように合図を送ってきた事に気が付き、リリアーナはそのとおりにする。

「………でも、一つあなたを褒めて差し上げなければなりませんでした」

ラファエロはそう言い終えると、突然ジュストの腹部を蹴り上げた。

「ガハッ!」

ラファエロが身につけているのは、いつもの青い軍服ではなく鎧で、当然その足も鉄靴ソルレットで覆われている。
ディアマンテの手の骨を粉砕したエドアルドの行い程ではないにしても、その一撃は無抵抗なジュストには強烈だったようで、ジュストの体は一瞬浮き上がり、地面へと転がっていく。
そんなジュストにリリアーナは冷ややかな視線を浴びせた。

「ブラマーニ公爵家の面々の中で唯一、あなただけは明確な罪を犯していなかったので、どうしたものかと考えていたのですよ。………罪人でなければ、ブラマーニ公爵家から爵位を取り上げて、あなたを平民に落とすことは出来ても、捕らえて処罰する事は叶いませんからね………。それが、クラリーチェ嬢の美しさに目が眩んだあなたが、わざわざ騒ぎを起こして捕らえる理由を与えてくれたのですからね」

ラファエロの言葉に、ジュストは大きく目を見開いたようだった。
指摘されて初めて、その事実に気が付いたらしい。

「そん………な………、莫迦な………!」

みるみるうちに、ジュストの顔から血の気が失せていく様子を見ても、リリアーナの心には同情すら浮かばなかった。

「私を、嵌めたのか………?!」
「嵌めた?………勘違いするな。これは全てそなた自身が招いた事だ」

エドアルドが、突き放すように冷たく言い放つのを聞いて、ジュストの体は小刻みに震えているようだった。
それが怒りの為なのか、それとも別に理由があるのかは分からなかったが、リリアーナは別に知りたいとも思わなかった。

「私の最愛を、お前は傷付け、汚そうとした。………後で両親同様、ゆっくりと話を聞かせてもらおう。………こやつも連れて行け」

エドアルドはジュストを振り返ることもなく、クラリーチェの体を抱え上げると、彼女の額に口付けを一つ落とし、連行されていくジュストに見せつけたのだった。
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