猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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リリアーナ編

54.制裁 ※暴力描写あり

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「兄上、そのように喉元に刃を当てていたら、話せないではないですか」

その笑顔を兄に向けたまま、ラファエロはやんわりとエドアルドを窘めた。
ディアマンテがその言葉に安堵したの様子を見せたが、それは瞬時にさらなる絶望へと塗り替えられた。
エドアルドが喉元から刃を離した途端に、目にも留まらぬ速さで動き、腰に下げた剣を抜き去ったラファエロが、ディアマンテの結い上げた髪を断ち切り、それをディアマンテの目の前に投げ捨てたからだ。
人間離れした速さに、リリアーナは信じられないといったように抜けるような碧の瞳を精一杯見開いた。

完全無欠の王太子と呼ばれたエドアルドの唯一の同母弟。
彼もまた、並外れた才能の持ち主であるという事を改めて思い知る。

「こうしておけば、罪人であることが一目瞭然ですし、手間が省けるでしょう?」

さも親切心からの行為のように、ラファエロはにこりと微笑んでみせた。

キエザをはじめ、周辺国に住む女性は、皆一様に腰のあたりまで髪を伸ばしている。
その女性の髪が切られるのは、斬首刑に処される場合のみ。………つまり、罪人である証拠だ。

「………まだ、斬首にすると決めた訳ではないがな」

切ってしまったものは仕方がないと言うかのように、エドアルドは肩をすくめてからディアマンテに向き直ると、床に付いているディアマンテの手を、一切の躊躇いもなく踏みつけた。
同時に、ボキボキと鈍い音が耳に届いた。
近衛騎士に扮していたエドアルド達が身につけているのは金属製の甲冑で、当然足元も重厚な金属製の鉄靴ソルレットに覆われている。
その足で石の床に踏みつけにされたのだから、間違いなく骨は粉砕されただろう。

「ぎゃあああっ!」

聞いたこともないような恐ろしいディアマンテの悲鳴に、リリアーナは思わず体を竦ませた。

「………痛いか?………痛いだろう。だが、そなたの行いによって人生を踏み躙られた者達の痛みは、そんなものではない。………それを理解した上でもなお、知らなかっただのと騒ぎ立てられるか?」

畳み掛けるように言葉を紡ぐと、エドアルドは更に足へ力を込めたようだった。

「ゔぁ……ああっ!!」

彼女が今まで踏み躙ってきた人々の恨みを晴らすかのように、容赦なく力を込めるエドアルドは、無様にのたうち回る、ただの露出狂の中年女を、汚い物でも見るかのように見下ろしていた。
そして、それはラファエロも同じだった。

「………エドアルド様、………もう止めてください………」

突然、クラリーチェがエドアルドの背中へと縋り付いた。
途端に、エドアルドの動きがぴたりと止まる。

「全ての事実を、明らかにして下さっただけで、充分です」

クラリーチェは、微かに肩を震わせながら、精一杯訴えた。
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