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リリアーナ編
49.母殺しの王子
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「本当に子が出来ない体だったなんて………」
リリアーナが小さく呟くと、ラファエロは小さく笑う。
「我がキエザ王家は子の出来にくい体質、と昔からいわれてきましたが、そんなものは迷信です。………我が父は少し極端な例ですが、少なくとも全く子が出来ないというのはありえないですよね」
ラファエロのその時の表情が、何故かとても悲しそうに見えて、リリアーナは胸の奥がずきりと痛むのを感じた。
「黙れと言っている!」
全てを白日の下に晒そうと証言を続けるフェラーラ侯爵の言葉を遮るように、ブラマーニ公爵は絶叫した。
だがそれは、ざわついていた貴族達を黙らせ、静寂を呼ぶきっかけとなった。
しんと静まり返った広間は、異様な雰囲気に包まれた。
それを待っていたように、フェラーラ侯爵は宣言するように、再び口を開く。
その隣で、フェラーラ侯爵夫人は震えながら、項垂れた。
「リオネッラ妃に、少量ずつ毒を盛ったのです。………どうやら胎内のラファエロ殿下には影響は及ばなかったようですが、リオネッラ妃が命を落としたのは、産褥によるものではないのです」
リリアーナは驚きのあまり、吸い込んだ息が喉をひゅっと鳴らす。
そして、隣にいるラファエロの様子を窺うが、特に驚いた様子も、動揺も伺えないところを見ると、既にそのことを知っていたのだろう。
証拠を集めている途中で知っていたのか、或いはもっと前から知っていたのかは分からない。
有能なラファエロを妬んだ、庶子となった王子たちや一部の貴族たちから『母殺しの王子』と揶揄されていたことは知っている。
幼かった彼がその言葉にどれほど傷つき、母親への慕情をどう押し殺していたのかと想像するだけでも胸が痛むのに、それはすべてブラマーニ公爵らの陰謀によるものだと知った彼は、果たしてどのような心境なのだろう。
周囲の貴族たちから上がるどよめきが耳に入らないくらいに、リリアーナは息苦しさを感じた。
クラリーチェに対して感じるような、いや、それよりも更に強くラファエロの力になりたいと、願ってしまう。
リリアーナは人知れず、ぎゅっと両手を前で握りしめた。
「………妻に罪を被せて、私達を悪者に仕立て上げるだなんて、大したものね。………誰のお陰で、侯爵になれたと思っているのかしら」
青褪めた顔に不釣り合いな、真っ赤なディアマンテの唇が動いた。
「………確かにその当時、我がフェラーラ家はまだ力の弱い、伯爵位の一貴族でした。そんな家の嫡男であった私に、たまたまブラマーニ前公爵が目をかけて下り、重用してくださった。私は、前公爵のお陰で今の地位を手に入れることが出来たのです。………その恩義に報いる為に、私は今までブラマーニ公爵家の為に尽くして参りました。ですが、仕える相手を見誤ったようです」
自嘲の笑みを浮かべたフェラーラ侯爵は、懺悔のような言葉を、静かに落とした。
今更そんなことを言っても遅すぎるということは、フェラーラ侯爵も分かっているのだろう。
「黙りなさい、侯爵風情が!崇高なるブラマーニ公爵家を、どこまで侮辱すれば気が済むというの⁉」
どこかで聞いたことがあるような台詞を、ディアマンテが物凄い形相で吐き捨てるのを聞いて、リリアーナは冷笑した。
「………『崇高』と『強欲』は同義語でなかったと思いますが………それはさておき、兄上はジャクウィント前侯爵夫妻の死についてお尋ねになっているのです。今はあなたのプライドも、誇りもどうでもいいことなのですよ、元正妃。………ですから、そのうるさい口を閉じてください」
ラファエロの優しく窘めるような口調は、あくまで紳士的なのに言葉の内容は辛辣だった。
そして彼の表情にははっきりと嫌悪感が浮かんでいるのが見える。
さらにエドアルドに射殺されそうなほど鋭く冷たい視線を向けられたディアマンテは悔しそうに押し黙った。
リリアーナが小さく呟くと、ラファエロは小さく笑う。
「我がキエザ王家は子の出来にくい体質、と昔からいわれてきましたが、そんなものは迷信です。………我が父は少し極端な例ですが、少なくとも全く子が出来ないというのはありえないですよね」
ラファエロのその時の表情が、何故かとても悲しそうに見えて、リリアーナは胸の奥がずきりと痛むのを感じた。
「黙れと言っている!」
全てを白日の下に晒そうと証言を続けるフェラーラ侯爵の言葉を遮るように、ブラマーニ公爵は絶叫した。
だがそれは、ざわついていた貴族達を黙らせ、静寂を呼ぶきっかけとなった。
しんと静まり返った広間は、異様な雰囲気に包まれた。
それを待っていたように、フェラーラ侯爵は宣言するように、再び口を開く。
その隣で、フェラーラ侯爵夫人は震えながら、項垂れた。
「リオネッラ妃に、少量ずつ毒を盛ったのです。………どうやら胎内のラファエロ殿下には影響は及ばなかったようですが、リオネッラ妃が命を落としたのは、産褥によるものではないのです」
リリアーナは驚きのあまり、吸い込んだ息が喉をひゅっと鳴らす。
そして、隣にいるラファエロの様子を窺うが、特に驚いた様子も、動揺も伺えないところを見ると、既にそのことを知っていたのだろう。
証拠を集めている途中で知っていたのか、或いはもっと前から知っていたのかは分からない。
有能なラファエロを妬んだ、庶子となった王子たちや一部の貴族たちから『母殺しの王子』と揶揄されていたことは知っている。
幼かった彼がその言葉にどれほど傷つき、母親への慕情をどう押し殺していたのかと想像するだけでも胸が痛むのに、それはすべてブラマーニ公爵らの陰謀によるものだと知った彼は、果たしてどのような心境なのだろう。
周囲の貴族たちから上がるどよめきが耳に入らないくらいに、リリアーナは息苦しさを感じた。
クラリーチェに対して感じるような、いや、それよりも更に強くラファエロの力になりたいと、願ってしまう。
リリアーナは人知れず、ぎゅっと両手を前で握りしめた。
「………妻に罪を被せて、私達を悪者に仕立て上げるだなんて、大したものね。………誰のお陰で、侯爵になれたと思っているのかしら」
青褪めた顔に不釣り合いな、真っ赤なディアマンテの唇が動いた。
「………確かにその当時、我がフェラーラ家はまだ力の弱い、伯爵位の一貴族でした。そんな家の嫡男であった私に、たまたまブラマーニ前公爵が目をかけて下り、重用してくださった。私は、前公爵のお陰で今の地位を手に入れることが出来たのです。………その恩義に報いる為に、私は今までブラマーニ公爵家の為に尽くして参りました。ですが、仕える相手を見誤ったようです」
自嘲の笑みを浮かべたフェラーラ侯爵は、懺悔のような言葉を、静かに落とした。
今更そんなことを言っても遅すぎるということは、フェラーラ侯爵も分かっているのだろう。
「黙りなさい、侯爵風情が!崇高なるブラマーニ公爵家を、どこまで侮辱すれば気が済むというの⁉」
どこかで聞いたことがあるような台詞を、ディアマンテが物凄い形相で吐き捨てるのを聞いて、リリアーナは冷笑した。
「………『崇高』と『強欲』は同義語でなかったと思いますが………それはさておき、兄上はジャクウィント前侯爵夫妻の死についてお尋ねになっているのです。今はあなたのプライドも、誇りもどうでもいいことなのですよ、元正妃。………ですから、そのうるさい口を閉じてください」
ラファエロの優しく窘めるような口調は、あくまで紳士的なのに言葉の内容は辛辣だった。
そして彼の表情にははっきりと嫌悪感が浮かんでいるのが見える。
さらにエドアルドに射殺されそうなほど鋭く冷たい視線を向けられたディアマンテは悔しそうに押し黙った。
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