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リリアーナ編
23.再会
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それからリリアーナとクラリーチェは、自分の昔話や好きなものについて、ひとしきり話をした。
クラリーチェの過去は、リリアーナの想像を上回るほど凄惨なもので、聞いているだけで胸が痛んだ。
だがそれ以上に、その苦難を乗り越えて結ばれたエドアルドとの馴れ初めは、大好きな恋物語の内容以上にリリアーナの心をときめかせた。
人物像やそれぞれの背負った背景もやはり、「月夜の灰かぶり姫」を彷彿とはさせるが、実際にそんなロマンチックな展開があったと想像するだけでうっとりとしてしまう。
一方のクラリーチェも穏やかな表情を浮かべてリリアーナの話に耳を傾けてくれた。
そうして時間を忘れるほど夢中になって話に花を咲かせていると、ふと扉がノックされる音が聞こえた。
「クラリーチェ嬢、いらっしゃいますか?」
侍女のリディアが素早く扉を開けると、ラファエロが顔を出した。
「おや、グロッシ侯爵令嬢もご一緒でしたか。これは失礼いたしました」
「いいえ、お気になさらず。………むしろお会いできて嬉しいですわ」
入室してきたラファエロが優雅な仕草で挨拶をするのを見て、リリアーナは慌てて立ちあがるとラファエロに向かってカーテシーをした。
予想だにしなかったラファエロの訪問に、リリアーナの心臓がどくどくと脈を打って自己主張するのを感じながらも、何故自分がこんなにも動揺しているのかわからなかった。
それでも平静を装い、完璧な笑顔を顔に張り付ける。
「兄上も、貴女がクラリーチェ嬢と交流を深めてくださる事を、歓迎しております。私から申し上げるのも何ですが、未来の義姉上の事を、どうぞよろしくお願い致しますね」
穏やかな笑顔を湛えたラファエロに向かって、リリアーナはゆっくりと呼吸をすると、満面の笑みを浮かべた。
「勿論ですわ」
「心強い味方が増えて良かったですね、クラリーチェ嬢」
そう言ってほほ笑むラファエロを、リリアーナはまじまじと見つめた。
恐ろしいほどに整った顔立ちは、実兄であるエドアルドとよく似ているが、いつもこうして笑顔を浮かべているせいか柔らかい印象を受ける。
それなのにエメラルド色に輝く美しい瞳の奥には底知れない何かが潜んでいるような気がして、胸がざわついた。
今彼が纏っているのはシンプルで動きやすい軍服だが、細身で長身の体つきを強調しており、不思議と好印象を与える。いつも必要以上に着飾っているジュストとは大違いだと思った。
「ご令嬢方の楽しい時間をお邪魔するわけにはいきませんから、また改めてお伺いすることにします」
「………ラファエロ様がいらっしゃったということは、何かあったのですか?」
「いいえ? 晩餐のために食堂へ行こうとこの部屋の前を通り掛かったところ、とても楽しそうな可愛らしい声が聞こえてきたもので、気になって顔を出しただけです。問題などありませんよ」
クラリーチェが怪訝そうに眉を顰めるのを見て、リリアーナはすぐに考えを巡らせた。
お茶会が始まって、もうかなりの時間が経っている。もしかしたらクラリーチェを待っているエドアルドにでも催促されて、ラファエロは迎えに来たのかもしれない。
名残惜しい気はするが、自分は退席するのが賢明だ。
リリアーナははっと窓の外を見て、大袈裟なくらいに声を上げた。
「まあ、大変!私ったらクラリーチェ様とのお話に夢中になって、こんな時間まで居座ってしまいましたわ。そろそろ帰らないと父に叱られてしまいますので、失礼致しますね」
慌てたように立ちあがると、ラファエロが感心した様子でほほ笑んだ。
「………どうやら噂以上のご令嬢のようですね」
その言葉に、リリアーナはピクリと反応した。
噂、とは一体何のことだろうか。
リリアーナの「本性」を知るのは家族のほかにはクラリーチェくらいしかいない。ブラマーニ公爵家の面々にも、もちろんジュストにも猫被りの姿しか見せていないはずだ。
だが、ラファエロの言葉からはリリアーナの本性を知っているような雰囲気を感じられる。
「………不良債権の相手を務めていれば、自然とこのようになりますのよ?」
彼になら、ほんの少しだけ「本性」を見せてもいいのかもしれない。
リリアーナはクラリーチェとラファエロに向かって、よそ行きの仮面を被った笑顔を浮かべ、挨拶をした。
クラリーチェの過去は、リリアーナの想像を上回るほど凄惨なもので、聞いているだけで胸が痛んだ。
だがそれ以上に、その苦難を乗り越えて結ばれたエドアルドとの馴れ初めは、大好きな恋物語の内容以上にリリアーナの心をときめかせた。
人物像やそれぞれの背負った背景もやはり、「月夜の灰かぶり姫」を彷彿とはさせるが、実際にそんなロマンチックな展開があったと想像するだけでうっとりとしてしまう。
一方のクラリーチェも穏やかな表情を浮かべてリリアーナの話に耳を傾けてくれた。
そうして時間を忘れるほど夢中になって話に花を咲かせていると、ふと扉がノックされる音が聞こえた。
「クラリーチェ嬢、いらっしゃいますか?」
侍女のリディアが素早く扉を開けると、ラファエロが顔を出した。
「おや、グロッシ侯爵令嬢もご一緒でしたか。これは失礼いたしました」
「いいえ、お気になさらず。………むしろお会いできて嬉しいですわ」
入室してきたラファエロが優雅な仕草で挨拶をするのを見て、リリアーナは慌てて立ちあがるとラファエロに向かってカーテシーをした。
予想だにしなかったラファエロの訪問に、リリアーナの心臓がどくどくと脈を打って自己主張するのを感じながらも、何故自分がこんなにも動揺しているのかわからなかった。
それでも平静を装い、完璧な笑顔を顔に張り付ける。
「兄上も、貴女がクラリーチェ嬢と交流を深めてくださる事を、歓迎しております。私から申し上げるのも何ですが、未来の義姉上の事を、どうぞよろしくお願い致しますね」
穏やかな笑顔を湛えたラファエロに向かって、リリアーナはゆっくりと呼吸をすると、満面の笑みを浮かべた。
「勿論ですわ」
「心強い味方が増えて良かったですね、クラリーチェ嬢」
そう言ってほほ笑むラファエロを、リリアーナはまじまじと見つめた。
恐ろしいほどに整った顔立ちは、実兄であるエドアルドとよく似ているが、いつもこうして笑顔を浮かべているせいか柔らかい印象を受ける。
それなのにエメラルド色に輝く美しい瞳の奥には底知れない何かが潜んでいるような気がして、胸がざわついた。
今彼が纏っているのはシンプルで動きやすい軍服だが、細身で長身の体つきを強調しており、不思議と好印象を与える。いつも必要以上に着飾っているジュストとは大違いだと思った。
「ご令嬢方の楽しい時間をお邪魔するわけにはいきませんから、また改めてお伺いすることにします」
「………ラファエロ様がいらっしゃったということは、何かあったのですか?」
「いいえ? 晩餐のために食堂へ行こうとこの部屋の前を通り掛かったところ、とても楽しそうな可愛らしい声が聞こえてきたもので、気になって顔を出しただけです。問題などありませんよ」
クラリーチェが怪訝そうに眉を顰めるのを見て、リリアーナはすぐに考えを巡らせた。
お茶会が始まって、もうかなりの時間が経っている。もしかしたらクラリーチェを待っているエドアルドにでも催促されて、ラファエロは迎えに来たのかもしれない。
名残惜しい気はするが、自分は退席するのが賢明だ。
リリアーナははっと窓の外を見て、大袈裟なくらいに声を上げた。
「まあ、大変!私ったらクラリーチェ様とのお話に夢中になって、こんな時間まで居座ってしまいましたわ。そろそろ帰らないと父に叱られてしまいますので、失礼致しますね」
慌てたように立ちあがると、ラファエロが感心した様子でほほ笑んだ。
「………どうやら噂以上のご令嬢のようですね」
その言葉に、リリアーナはピクリと反応した。
噂、とは一体何のことだろうか。
リリアーナの「本性」を知るのは家族のほかにはクラリーチェくらいしかいない。ブラマーニ公爵家の面々にも、もちろんジュストにも猫被りの姿しか見せていないはずだ。
だが、ラファエロの言葉からはリリアーナの本性を知っているような雰囲気を感じられる。
「………不良債権の相手を務めていれば、自然とこのようになりますのよ?」
彼になら、ほんの少しだけ「本性」を見せてもいいのかもしれない。
リリアーナはクラリーチェとラファエロに向かって、よそ行きの仮面を被った笑顔を浮かべ、挨拶をした。
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