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リリアーナ編
11.ジュストからの招待状
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リリアーナはその後すぐに両親やウルバーノと共に帰路へとついたが、後から聞いた話によるとクラリーチェが疲労のせいか倒れてしまったという話を聞き、気を揉んでいた。
幸い緊張と疲労の蓄積による貧血だったらしいが、ジュストと踊っている時のクラリーチェの様子を見る限り、少なからずあのダンスはクラリーチェに負担を掛けたに違いなかった。
「ダンスなんか踊れないようにしてやれば良かったかしら………?」
「………お嬢様、一体何を企んでおいでですか?」
不穏な笑みを浮かべるリリアーナに温かい紅茶を差し出しながら、侍女のエラが怪訝そうに眉を顰めた。
「あら、失礼ね。企んでなんていないわ?ただクラリーチェ様に危害を加える輩をどう始末すべきか考えていただけよ」
「それだけで充分企みだと思いますけれど………。それにしてもお嬢様のその『クラリーチェ様』に対する愛は尋常ではありませんね。もしかしてお嬢様、男性よりも女性の方がお好きだったりします?」
「それは違うわ!私のクラリーチェ様への気持ちは恋愛だとかではなくて強い憧れなのよ。それに男性が嫌いなのではなくてあの男が嫌いなだけなの。世の中には素敵な殿方がいるって事くらい、分かっているわ………」
素敵な殿方という言葉を口にした途端、ラファエロの顔が頭に浮かんできて、胸の鼓動が強く、早くなる。
その感覚は、恋物語を読んでいる時の胸のときめきと似ている気がして、余計にどぎまぎしてしまう。
「お嬢様?」
「あ………何でもないわ。それより、今日の予定は?」
自分の中で燻る奇妙な感情を隠すように、リリアーナは誤魔化しの笑みを浮かべた。
「本日は新調するドレスの採寸とデザイン決めがございますが、その他は特には予定はございません。………それから、こちらを………」
何故か気まずそうな表情を浮かべたエラが、一通の手紙をリリアーナの前に差し出した。
蜜蝋に押された印璽が目に入った途端に心に鉛が撃ち込まれた気分になる。
「今度は一体何ですの………?」
差出人は、勿論ジュストだ。
これ以上ないくらいに関係は拗れているのに、やたらとちょっかいを出してくる所がまた腹立たしい。
ジュストだってリリアーナと結婚するつもりなど微塵もないだろう。
それでも婚約破棄だと騒ぎ立てないのはやはり醜聞を気にしているのだろう。
つくづく虚栄心の塊のようだとリリアーナは溜息をつき、乱暴に封を切ると畳まれた手紙を広げて文字を辿った。
「はっ…………!」
途中まで読んだところで、リリアーナは思わず莫迦にしたように腹の奥から息を吐き出した。
「先日の舞踏会で君に恥をかかせてしまったお詫びに、特別なお茶会に招待したい、ですって………?また碌でもない事を企んでいるに違いないわ」
リリアーナは天井を仰ぐと、もう一度溜息をつく。
そして読みかけの手紙を床に投げ捨てようとした瞬間、クラリーチェの名が見えた気がして、慌てて手紙に意識を戻す。
「え………、お茶会にはクラリーチェ様もいらっしゃると書いてあるけれど………」
「国王陛下の婚約者の姫君がですか?………もしかしたら、公爵様の妹君が一枚噛んでいる可能性もありますね。………お返事は、如何致しますか?」
エラの指摘した可能性は、大いに有り得るだろう。もしかしたらディアマンテだけではなくジュストの母親である公爵夫人も関わっているかもしれない。
いずれにしても、何かしらの陰謀が渦巻く危険なお茶会には変わりなかったが、もし本当にクラリーチェが参加するのだとしたら、一人で参加させる訳にはいかなかった。
「………謹んでお受けしますと、お返事してちょうだい」
何かを決意したような表情を浮かべたリリアーナの澄み渡った碧の瞳に、鋭い光が宿った。
幸い緊張と疲労の蓄積による貧血だったらしいが、ジュストと踊っている時のクラリーチェの様子を見る限り、少なからずあのダンスはクラリーチェに負担を掛けたに違いなかった。
「ダンスなんか踊れないようにしてやれば良かったかしら………?」
「………お嬢様、一体何を企んでおいでですか?」
不穏な笑みを浮かべるリリアーナに温かい紅茶を差し出しながら、侍女のエラが怪訝そうに眉を顰めた。
「あら、失礼ね。企んでなんていないわ?ただクラリーチェ様に危害を加える輩をどう始末すべきか考えていただけよ」
「それだけで充分企みだと思いますけれど………。それにしてもお嬢様のその『クラリーチェ様』に対する愛は尋常ではありませんね。もしかしてお嬢様、男性よりも女性の方がお好きだったりします?」
「それは違うわ!私のクラリーチェ様への気持ちは恋愛だとかではなくて強い憧れなのよ。それに男性が嫌いなのではなくてあの男が嫌いなだけなの。世の中には素敵な殿方がいるって事くらい、分かっているわ………」
素敵な殿方という言葉を口にした途端、ラファエロの顔が頭に浮かんできて、胸の鼓動が強く、早くなる。
その感覚は、恋物語を読んでいる時の胸のときめきと似ている気がして、余計にどぎまぎしてしまう。
「お嬢様?」
「あ………何でもないわ。それより、今日の予定は?」
自分の中で燻る奇妙な感情を隠すように、リリアーナは誤魔化しの笑みを浮かべた。
「本日は新調するドレスの採寸とデザイン決めがございますが、その他は特には予定はございません。………それから、こちらを………」
何故か気まずそうな表情を浮かべたエラが、一通の手紙をリリアーナの前に差し出した。
蜜蝋に押された印璽が目に入った途端に心に鉛が撃ち込まれた気分になる。
「今度は一体何ですの………?」
差出人は、勿論ジュストだ。
これ以上ないくらいに関係は拗れているのに、やたらとちょっかいを出してくる所がまた腹立たしい。
ジュストだってリリアーナと結婚するつもりなど微塵もないだろう。
それでも婚約破棄だと騒ぎ立てないのはやはり醜聞を気にしているのだろう。
つくづく虚栄心の塊のようだとリリアーナは溜息をつき、乱暴に封を切ると畳まれた手紙を広げて文字を辿った。
「はっ…………!」
途中まで読んだところで、リリアーナは思わず莫迦にしたように腹の奥から息を吐き出した。
「先日の舞踏会で君に恥をかかせてしまったお詫びに、特別なお茶会に招待したい、ですって………?また碌でもない事を企んでいるに違いないわ」
リリアーナは天井を仰ぐと、もう一度溜息をつく。
そして読みかけの手紙を床に投げ捨てようとした瞬間、クラリーチェの名が見えた気がして、慌てて手紙に意識を戻す。
「え………、お茶会にはクラリーチェ様もいらっしゃると書いてあるけれど………」
「国王陛下の婚約者の姫君がですか?………もしかしたら、公爵様の妹君が一枚噛んでいる可能性もありますね。………お返事は、如何致しますか?」
エラの指摘した可能性は、大いに有り得るだろう。もしかしたらディアマンテだけではなくジュストの母親である公爵夫人も関わっているかもしれない。
いずれにしても、何かしらの陰謀が渦巻く危険なお茶会には変わりなかったが、もし本当にクラリーチェが参加するのだとしたら、一人で参加させる訳にはいかなかった。
「………謹んでお受けしますと、お返事してちょうだい」
何かを決意したような表情を浮かべたリリアーナの澄み渡った碧の瞳に、鋭い光が宿った。
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