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リリアーナ編
4.憧れのお姫様
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数週間後。
ジュストの言っていた舞踏会が、王宮で盛大に開かれた。
リリアーナは宣言通りグロッシ侯爵夫妻、それから兄のウルバーノと共に王宮へと向かった。
「リリアーナ!」
王宮へ到着すると、ジュストが優しげな笑顔を浮かべながら駆け寄ってくるのが目に入った。
予想していた事とはいえ、ジュストの顔を見ただけで、空腹時に葱を生で囓らせられるようなムカつきを覚えた。
「君の屋敷に迎えをやったら断られたというから………。どうしてそんな事をしたんだい?酷いじゃないか」
柔らかな、けれどもわざと周囲に聞こえるような大声でジュストが訊ねるのを聞いて、グロッシ侯爵がぴくりと眉を跳ね上げた。
ジュストがリリアーナを悪者に仕立てようとしている事は明白だった。
「あら、おかしいですわね?私の許にはブラマーニ公爵家からのお迎えなど来ておりませんわよ?」
父と婚約者の間に割って入ると、リリアーナは可愛らしい笑顔を貼り付ける。
「それに、ブラマーニ公爵邸と我が家は王宮を挟んで反対側に位置しているというのに、我が家へ寄越した使者の知らせを聞いてからこちらへいらしたジュスト様が何故先にお越しになっているんですの?不思議ですわね?」
「……………っ!」
無邪気を装ってジュストが得意とする、相手を陥れるための薄っぺらい嘘を論破すると、ジュストはその顔を歪ませてリリアーナを睨むと、無言のまま会場の方へと姿を消していった。
「………なかなかやるじゃないか」
隣で、両親と兄が感心したように呟いた。
「ありがとうございます。ですが、婚約解消には漕ぎ着けておりませんから、まだ私は力不足ですわ」
今度は取り繕ったものではない、心からの笑顔を浮かべると、リリアーナはウルバーノのエスコートで会場へと向かったのだった。
王宮の大広間は、既に沢山の人で埋め尽くされていた。
会場にはゆったりとした音楽が流れ、今日の主役であるジャクウィント女侯爵の登場を今か今かと待っている状態だった。
ジャクウィント侯爵家は前当主夫妻が随分前に事故死してから今日に至るまでの間断絶をしていたが、多くの宰相を排出した名門中の名門と言ってもいい程の家柄だ。
しかしジャクウィント侯爵家の家門の者はここ数十年の間に謎の事故死や不審死が相次ぎ、もう間もなく現れるであろう女侯爵が最後の生き残りなのだという。
社交界では悪い噂しか聞かなかったが、先王フィリッポの側妃として召し上げられたと聞いていた。
先王フィリッポは『好色王』として名を馳せた人物で、何と百二十人もの側妃を侍らせていた。
件の女侯爵はその中の一人だったが、、婚姻の手続きもされておらず、婚姻の事実も認められなかった為に司教から婚姻無効が言い渡され、今回正式にフィリッポの息子であるエドアルドの婚約者としてお披露目がされるのだ。
しかも、フィリッポの側妃の住まいである後宮に入った当時はまだ未成年で、デビュタントも済ませていなかった為に今回この場でデビュタントをするというのだから、本人の緊張は相当なものだろう。
(一体、どんな方なのかしら…………?)
リリアーナがそんな事を考えていると、ゆっくりと扉が開く音が聞こえた。
そして、遠目ではあるが国王エドアルドにエスコートされたジャクウィント女侯爵の姿が見えた。
銀色に輝く美しい髪に、淡い紫色の瞳。そして儚げで、神秘的な雰囲気を纏う、一度見たら忘れられないような眩い程の美貌。
リリアーナは思わず、息を呑んだ。
「あれは、『月夜の灰かぶり姫』の主人公のクラリッサ姫…………?!」
リリアーナは人知れず、歓喜の悲鳴を上げた。
ここ最近の一番のお気に入りてある恋物語の主人公をそのまま具現化したようなジャクウィント女侯爵から目が離せなかった。
「私の、憧れのお姫様だわ………」
リリアーナはうっとりとしながら呟くと、彼女の事を目で追いかけるのだった。
ジュストの言っていた舞踏会が、王宮で盛大に開かれた。
リリアーナは宣言通りグロッシ侯爵夫妻、それから兄のウルバーノと共に王宮へと向かった。
「リリアーナ!」
王宮へ到着すると、ジュストが優しげな笑顔を浮かべながら駆け寄ってくるのが目に入った。
予想していた事とはいえ、ジュストの顔を見ただけで、空腹時に葱を生で囓らせられるようなムカつきを覚えた。
「君の屋敷に迎えをやったら断られたというから………。どうしてそんな事をしたんだい?酷いじゃないか」
柔らかな、けれどもわざと周囲に聞こえるような大声でジュストが訊ねるのを聞いて、グロッシ侯爵がぴくりと眉を跳ね上げた。
ジュストがリリアーナを悪者に仕立てようとしている事は明白だった。
「あら、おかしいですわね?私の許にはブラマーニ公爵家からのお迎えなど来ておりませんわよ?」
父と婚約者の間に割って入ると、リリアーナは可愛らしい笑顔を貼り付ける。
「それに、ブラマーニ公爵邸と我が家は王宮を挟んで反対側に位置しているというのに、我が家へ寄越した使者の知らせを聞いてからこちらへいらしたジュスト様が何故先にお越しになっているんですの?不思議ですわね?」
「……………っ!」
無邪気を装ってジュストが得意とする、相手を陥れるための薄っぺらい嘘を論破すると、ジュストはその顔を歪ませてリリアーナを睨むと、無言のまま会場の方へと姿を消していった。
「………なかなかやるじゃないか」
隣で、両親と兄が感心したように呟いた。
「ありがとうございます。ですが、婚約解消には漕ぎ着けておりませんから、まだ私は力不足ですわ」
今度は取り繕ったものではない、心からの笑顔を浮かべると、リリアーナはウルバーノのエスコートで会場へと向かったのだった。
王宮の大広間は、既に沢山の人で埋め尽くされていた。
会場にはゆったりとした音楽が流れ、今日の主役であるジャクウィント女侯爵の登場を今か今かと待っている状態だった。
ジャクウィント侯爵家は前当主夫妻が随分前に事故死してから今日に至るまでの間断絶をしていたが、多くの宰相を排出した名門中の名門と言ってもいい程の家柄だ。
しかしジャクウィント侯爵家の家門の者はここ数十年の間に謎の事故死や不審死が相次ぎ、もう間もなく現れるであろう女侯爵が最後の生き残りなのだという。
社交界では悪い噂しか聞かなかったが、先王フィリッポの側妃として召し上げられたと聞いていた。
先王フィリッポは『好色王』として名を馳せた人物で、何と百二十人もの側妃を侍らせていた。
件の女侯爵はその中の一人だったが、、婚姻の手続きもされておらず、婚姻の事実も認められなかった為に司教から婚姻無効が言い渡され、今回正式にフィリッポの息子であるエドアルドの婚約者としてお披露目がされるのだ。
しかも、フィリッポの側妃の住まいである後宮に入った当時はまだ未成年で、デビュタントも済ませていなかった為に今回この場でデビュタントをするというのだから、本人の緊張は相当なものだろう。
(一体、どんな方なのかしら…………?)
リリアーナがそんな事を考えていると、ゆっくりと扉が開く音が聞こえた。
そして、遠目ではあるが国王エドアルドにエスコートされたジャクウィント女侯爵の姿が見えた。
銀色に輝く美しい髪に、淡い紫色の瞳。そして儚げで、神秘的な雰囲気を纏う、一度見たら忘れられないような眩い程の美貌。
リリアーナは思わず、息を呑んだ。
「あれは、『月夜の灰かぶり姫』の主人公のクラリッサ姫…………?!」
リリアーナは人知れず、歓喜の悲鳴を上げた。
ここ最近の一番のお気に入りてある恋物語の主人公をそのまま具現化したようなジャクウィント女侯爵から目が離せなかった。
「私の、憧れのお姫様だわ………」
リリアーナはうっとりとしながら呟くと、彼女の事を目で追いかけるのだった。
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