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番外編
無題
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冷たい石畳に自身の血で描いた魔方陣の真ん中で愛らしい子供が大きな産声を上げている。
ただでさえ男のΩの出産は危険を伴うのに初産の僕の元に産婆の一人も現れなかったのは多分公爵の差し金だろう。前公爵夫妻は世継ぎを望んでいるし、ここでこの子が命を落とす事は望んでない筈だから。
処置を施されなかった出産の跡はまだ血を流し足を赤く染め上げている。
「呪ってやる――壊してやる――」
全部、何もかも。
力の入らない体をずるずると引きずって魔方陣の真ん中にいる我が子の元に這い寄った。初乳なんてやるものか。いっそこの儀式でこの子も諸共死んでしまえば良い。
負の感情に呼応して瘴気を集める禁忌の術式。かつて魔王を生み出したとされる術は父方の実家に口伝で言い伝えられた術。僕だけが受け継いだそれの存在を今ほど感謝した事はない。
じわじわと光を強くしていく魔方陣に自分の命が吸い取られていくのを感じて嗤いが込み上げた。
この世の全てを呪ってやる――!
不意に泣いていた我が子が僕の指をぎゅう、っと掴んだ。
小さな小さな指で、懸命に。
「あ……」
名前もまだない小さな命。
僕は……、
「あ、あぁぁぁぁぁぁ……ッ!!!!」
我が子になんて事を、と思う気持ちと、この子もあの男の血が流れた憎むべき存在だという気持ちと。
全てを呪ってやる、という思いと、この世にいる愛する人への思いと。
頭の中がぐちゃぐちゃになって、叫んで、だけどもう発動した魔方陣の光は収まらない。
だから――
(もしこの子が愛されたら……きっとこの魔法は発動しない)
負の感情を抱かないと瘴気は集まらないから。
だからもし――
「もし君が愛してもらえるなら――」
どうかその時は僕の代わりに幸せになって。
弾け飛んだ僕の命を糧に我が子に刻まれた魔方陣がどうか生涯発動しないようにと狂った頭の中で微かに残った心が叫んだ。
■■
そういえばウルの呪いが何だったのか書いてなかったと思いまして……
ただでさえ男のΩの出産は危険を伴うのに初産の僕の元に産婆の一人も現れなかったのは多分公爵の差し金だろう。前公爵夫妻は世継ぎを望んでいるし、ここでこの子が命を落とす事は望んでない筈だから。
処置を施されなかった出産の跡はまだ血を流し足を赤く染め上げている。
「呪ってやる――壊してやる――」
全部、何もかも。
力の入らない体をずるずると引きずって魔方陣の真ん中にいる我が子の元に這い寄った。初乳なんてやるものか。いっそこの儀式でこの子も諸共死んでしまえば良い。
負の感情に呼応して瘴気を集める禁忌の術式。かつて魔王を生み出したとされる術は父方の実家に口伝で言い伝えられた術。僕だけが受け継いだそれの存在を今ほど感謝した事はない。
じわじわと光を強くしていく魔方陣に自分の命が吸い取られていくのを感じて嗤いが込み上げた。
この世の全てを呪ってやる――!
不意に泣いていた我が子が僕の指をぎゅう、っと掴んだ。
小さな小さな指で、懸命に。
「あ……」
名前もまだない小さな命。
僕は……、
「あ、あぁぁぁぁぁぁ……ッ!!!!」
我が子になんて事を、と思う気持ちと、この子もあの男の血が流れた憎むべき存在だという気持ちと。
全てを呪ってやる、という思いと、この世にいる愛する人への思いと。
頭の中がぐちゃぐちゃになって、叫んで、だけどもう発動した魔方陣の光は収まらない。
だから――
(もしこの子が愛されたら……きっとこの魔法は発動しない)
負の感情を抱かないと瘴気は集まらないから。
だからもし――
「もし君が愛してもらえるなら――」
どうかその時は僕の代わりに幸せになって。
弾け飛んだ僕の命を糧に我が子に刻まれた魔方陣がどうか生涯発動しないようにと狂った頭の中で微かに残った心が叫んだ。
■■
そういえばウルの呪いが何だったのか書いてなかったと思いまして……
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みんなの感想(17件)
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前公爵、罪深い。出産時に医者も助産婦も呼ばないって、どんだけ鬼畜だよ!!ウルの母親…ウルを可愛がりたかったはずなのに🥲ウル、オーナーを好きになってよかったね✨
nyathu30様、コメントありがとうございます!
全ての元凶はあの男です!
きっとオーナーの所で幸せになった姿をお母さんも喜んでると思います✨
ウルが本当は愛されてたって知れる更新ありがとうございます😭
ノア吉様、コメントありがとうございます!
ウルのお母さんも相手が公爵じゃなかったらきっと優しいお母さんになれたんだろうな…と思って書きました。来世で幸せになって欲しい…
完結おめでとうございます!!
ウルが健気で可愛くて、マスターと幸せになってくれと願いながら連載を追ってました。無事、番になれて本当によかったです💕
これからは、がっちり囲われ溺愛されるのでしょうか?
素敵なお話をありがとうございました😭
リラ様、コメントありがとうございます☺️
きっとオーナーは独占欲が強いので周りに寄ってくる不届き者にシャーシャー威嚇しながらウルをでろでろに甘やかすと思います✨
なかなか更新出来ず長くお待たせしてしまいましたが、何とか書ききることが出来ました。最後までお付き合い頂いて本当にありがとうございました!