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花火と桜太の物語
花火と桜太のバレンタイン
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夏野 花火(ナツノ ハナビ)17歳。現在リア充返り咲き中。彼の恋人春木 桜太(ハルキ オウタ)は、
「こんな朝っぱらからどうした…」
創立記念日で学校が休みのバレンタイン当日に大あくび溢しながら、こしこしと顔に似合わない可愛い仕草で目を擦っていた。
花火の10年来の親友、そして現在何故か恋人の位置に収まっている桜太は中性的な顔立ちで、大人と子供の境界である微妙な年頃だと言うのに既に謎の色気を纏う男だ。
左目下にあるホクロがその色気を増大させて、ほんの少し垂れ気味の瞳に流し目で見られようものなら女子の大半はドキリとしてしまう無駄な眼光。
眼光、と言っても眼光鋭く、という使い方が出来る眼光ではない。光で例えるならば桜太の眼光は淡い紫、もしくは桃色だ。ふわん、ふわん、とハートかシャボン玉みたいな物を飛ばしてくるエロエロな光なのだ。
「花火」
そしてこの声がまた曲者で、ほんの僅か掠れているけれど、耳に心地好いテノール。耳元で甘~く囁かれたい女子多数。ーーだと言うのにそのテノールで甘く呼ぶのは何故だか男の、花火の名前である。そう、今涙目三角座りで頬を極限まで膨らませている花火の。
そんな甘い声音で呼ばれて耳を真っ赤にしながらもツーン、なんて自分で効果音をつけそっぽを向く花火は、黙っていれば某アイドル育成会社にでも所属できそうな顔である。切れ長の二重の目、鼻筋は通っているし唇は健康的だ。笑うと見える八重歯も印象的だけれど、一目見ただけでも強く印象に残る綺麗な顔立ちで背は高く、スポーツ万能、成績は学年10位以内から落ちたことがない。
頭はいいのに親がつけた名前が原因か、非常に弾けた少年である。ーー主にダメな方向へ。
少し前まで彼女にフラれた腹いせにリア充一掃作戦だなんて意味不明かつはた迷惑なイタズラをして回っていたが、上手いこと丸め込まれーー丸め込まれたと本人はわかっていないがーー彼女ではなく彼氏が出来てしまった花火は小難しい事が苦手だ。勉強は出来るのに、実に残念な頭なのだ。
未だ頭に?マークを沢山浮かべている様子もあるけれど、それなりに覚悟をして付き合って初のバレンタインーーだと言うのに。
「忘れてたとか!信じられないんだけど!!」
「普段勝手に押し付けられるから覚える必要なくて」
「それも最低なんだけど!!?」
桜太が寝転がるベッド側の床に座って、せっかくこの俺がわざわざチョコ貰いに来てやったのに、とかなんとかブツブツ呟いている花火のつむじを押してみる。
「だから毎回下痢ツボ押すなバカ桜太ーーー!!」
うがーーっ!なんて意味不明な叫びと共に殴りかかってくる花火の腕を笑ながら避けて、頬にキスを一つ。途端に弾けた打ち上げ花火から今にも落っこちそうな線香花火並みに大人しくなった。花火を黙らせるのなんか朝飯前だ。
「というか、お前からはないの?」
「ねぇーよ!!バカ!バカ!!バーカ!!!」
ふんっ、ふんっ、と鼻を鳴らして拗ねてるけどどう見ても何か変な物を嗅いでしまった犬の仕草。ーーなんてアホ可愛いのか。
「わかったわかった。今から作ってやるから待ってろ」
「作る?何を?」
きょとん、と振り返るアホの子の鼻をつまんでやってから立ち上がる。
背後で、コラー!!俺の美鼻が曲がったらどうすんだー!!とか騒いでいるロケット花火はとりあえず放置。確かいつだか花火が泊まりに来た時大量に持ってきたチョコが冷蔵庫に入れっぱなしだったはず。ーー240グラムのチョコと卵4個とオーブンレンジさえあれば花火が大好きなガトーショコラが作れるのだ。
「出来た?もう出来た??」
「今から冷ますから1時間待て」
「えぇーーー!1時間も!?いいじゃん、熱々でも」
大体準備に10分、焼くのに20分。本当に簡単に出来るこのレシピを考えた人は天才ではないだろうか。ついでに作るとなったら非常に手際のいいこの男も何者なのか。
「1時間なんてすぐだろ」
ほら、こっち来い、と連れていかれたのがベッドの上だった事にまた花火の頭には?マークが大量に浮かぶ。
「お前、今度俺の家に来たらどうなるか教えたよな」
「!!ーーえ、そう、だっけ…?何か言われてた?」
泳ぐ目線がへび花火のよう。というか明らかに思い出しました!みたいな顔をしておきながら誤魔化せると思っているのか。
「はいダメー。逃がしません」
「いや、…いやいやいやいや、だってほら、今日バレンタインだから」
「意味不明な言い訳も聞きません」
「いやでもあの…んむっ」
問答無用で唇を重ねれば大人しくなる。ついでに真っ赤になって桜太のシャツを力一杯掴むから制服の時には出来ない。一度やったら見事にシワを刻んでくれたから。
「ほ、ホントに…やんの…?」
真っ赤になって涙目でふるふるする花火を押さえ付けていた桜太はプツン、と何か切れた音を聞いた。ーー直後暗転。
ぐすっ、ぐすっ、と鼻を啜る花火に桜太は思う。
(俺の方が泣きたいんですけど)
あそこまで許しておいて。あんなにいい反応をしておいて。最後の最後で。
『人の尻に変なモン入れんなーーーー!!』
なんて変なモン呼ばわりされた上にぶん殴られた俺の気持ちがお前にわかるかバカ花火、と泣きながらしっかり冷えたガトーショコラを頬張る花火の額にデコピンを一発。
「お味はいかがですか、花火くん」
「大変美味でございます」
「そりゃ良うございました」
旨い、ぐすっ、旨い、ぐすっ、と呟いては鼻を啜る花火の額をもう一回小突いて、
(次は泣いても絶対逃がさねぇからな、バカ花火!!)
そう心に誓ったバレンタイン。
ちなみに
『本当は持ってきてた』
なんて後からモジモジとチョコを差し出された桜太の理性やいかに。
■■■
読んで頂いてありがとうございました。
いつかちゃんと小説として書いてみたい二人。
「こんな朝っぱらからどうした…」
創立記念日で学校が休みのバレンタイン当日に大あくび溢しながら、こしこしと顔に似合わない可愛い仕草で目を擦っていた。
花火の10年来の親友、そして現在何故か恋人の位置に収まっている桜太は中性的な顔立ちで、大人と子供の境界である微妙な年頃だと言うのに既に謎の色気を纏う男だ。
左目下にあるホクロがその色気を増大させて、ほんの少し垂れ気味の瞳に流し目で見られようものなら女子の大半はドキリとしてしまう無駄な眼光。
眼光、と言っても眼光鋭く、という使い方が出来る眼光ではない。光で例えるならば桜太の眼光は淡い紫、もしくは桃色だ。ふわん、ふわん、とハートかシャボン玉みたいな物を飛ばしてくるエロエロな光なのだ。
「花火」
そしてこの声がまた曲者で、ほんの僅か掠れているけれど、耳に心地好いテノール。耳元で甘~く囁かれたい女子多数。ーーだと言うのにそのテノールで甘く呼ぶのは何故だか男の、花火の名前である。そう、今涙目三角座りで頬を極限まで膨らませている花火の。
そんな甘い声音で呼ばれて耳を真っ赤にしながらもツーン、なんて自分で効果音をつけそっぽを向く花火は、黙っていれば某アイドル育成会社にでも所属できそうな顔である。切れ長の二重の目、鼻筋は通っているし唇は健康的だ。笑うと見える八重歯も印象的だけれど、一目見ただけでも強く印象に残る綺麗な顔立ちで背は高く、スポーツ万能、成績は学年10位以内から落ちたことがない。
頭はいいのに親がつけた名前が原因か、非常に弾けた少年である。ーー主にダメな方向へ。
少し前まで彼女にフラれた腹いせにリア充一掃作戦だなんて意味不明かつはた迷惑なイタズラをして回っていたが、上手いこと丸め込まれーー丸め込まれたと本人はわかっていないがーー彼女ではなく彼氏が出来てしまった花火は小難しい事が苦手だ。勉強は出来るのに、実に残念な頭なのだ。
未だ頭に?マークを沢山浮かべている様子もあるけれど、それなりに覚悟をして付き合って初のバレンタインーーだと言うのに。
「忘れてたとか!信じられないんだけど!!」
「普段勝手に押し付けられるから覚える必要なくて」
「それも最低なんだけど!!?」
桜太が寝転がるベッド側の床に座って、せっかくこの俺がわざわざチョコ貰いに来てやったのに、とかなんとかブツブツ呟いている花火のつむじを押してみる。
「だから毎回下痢ツボ押すなバカ桜太ーーー!!」
うがーーっ!なんて意味不明な叫びと共に殴りかかってくる花火の腕を笑ながら避けて、頬にキスを一つ。途端に弾けた打ち上げ花火から今にも落っこちそうな線香花火並みに大人しくなった。花火を黙らせるのなんか朝飯前だ。
「というか、お前からはないの?」
「ねぇーよ!!バカ!バカ!!バーカ!!!」
ふんっ、ふんっ、と鼻を鳴らして拗ねてるけどどう見ても何か変な物を嗅いでしまった犬の仕草。ーーなんてアホ可愛いのか。
「わかったわかった。今から作ってやるから待ってろ」
「作る?何を?」
きょとん、と振り返るアホの子の鼻をつまんでやってから立ち上がる。
背後で、コラー!!俺の美鼻が曲がったらどうすんだー!!とか騒いでいるロケット花火はとりあえず放置。確かいつだか花火が泊まりに来た時大量に持ってきたチョコが冷蔵庫に入れっぱなしだったはず。ーー240グラムのチョコと卵4個とオーブンレンジさえあれば花火が大好きなガトーショコラが作れるのだ。
「出来た?もう出来た??」
「今から冷ますから1時間待て」
「えぇーーー!1時間も!?いいじゃん、熱々でも」
大体準備に10分、焼くのに20分。本当に簡単に出来るこのレシピを考えた人は天才ではないだろうか。ついでに作るとなったら非常に手際のいいこの男も何者なのか。
「1時間なんてすぐだろ」
ほら、こっち来い、と連れていかれたのがベッドの上だった事にまた花火の頭には?マークが大量に浮かぶ。
「お前、今度俺の家に来たらどうなるか教えたよな」
「!!ーーえ、そう、だっけ…?何か言われてた?」
泳ぐ目線がへび花火のよう。というか明らかに思い出しました!みたいな顔をしておきながら誤魔化せると思っているのか。
「はいダメー。逃がしません」
「いや、…いやいやいやいや、だってほら、今日バレンタインだから」
「意味不明な言い訳も聞きません」
「いやでもあの…んむっ」
問答無用で唇を重ねれば大人しくなる。ついでに真っ赤になって桜太のシャツを力一杯掴むから制服の時には出来ない。一度やったら見事にシワを刻んでくれたから。
「ほ、ホントに…やんの…?」
真っ赤になって涙目でふるふるする花火を押さえ付けていた桜太はプツン、と何か切れた音を聞いた。ーー直後暗転。
ぐすっ、ぐすっ、と鼻を啜る花火に桜太は思う。
(俺の方が泣きたいんですけど)
あそこまで許しておいて。あんなにいい反応をしておいて。最後の最後で。
『人の尻に変なモン入れんなーーーー!!』
なんて変なモン呼ばわりされた上にぶん殴られた俺の気持ちがお前にわかるかバカ花火、と泣きながらしっかり冷えたガトーショコラを頬張る花火の額にデコピンを一発。
「お味はいかがですか、花火くん」
「大変美味でございます」
「そりゃ良うございました」
旨い、ぐすっ、旨い、ぐすっ、と呟いては鼻を啜る花火の額をもう一回小突いて、
(次は泣いても絶対逃がさねぇからな、バカ花火!!)
そう心に誓ったバレンタイン。
ちなみに
『本当は持ってきてた』
なんて後からモジモジとチョコを差し出された桜太の理性やいかに。
■■■
読んで頂いてありがとうございました。
いつかちゃんと小説として書いてみたい二人。
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