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花火と桜太の物語
解答は歩いてこない
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夏野 花火(ナツノ ハナビ)17歳。現在リア充一掃作戦休憩中。彼の親友、春木 桜太(ハルキ オウタ)は
「そろそろ俺も見てるだけは疲れてきたからな。本気で落としにいくから覚悟しろ」
この間ネジを一本どこかで落とした。
「う~、う~ん」
誰かに話を聞いてほしくて机に突っ伏した花火は先程から唸っている。たまにチラッ、と目線を上げてみるけれどクラスメイトはその度にそそくさと視界から外れてしまう。
うーん、チラッ、うーん、チラッ、を繰り返すうちに放課後の教室から人気がなくなった。
(みんな酷い)
くすん、と鼻を鳴らして帰ろうかどうしようかと逡巡している花火の前の席に誰かが座る気配。ようやくチラ見効果が表れたかと顔を上げて…突っ伏した。
そこにいたのが悩みの根源、桜太だったからである。
花火の10年来の親友、桜太は中性的な顔立ちで、大人と子供の境界である微妙な年頃だと言うのに既に謎の色気を纏う男だ。
左目下にあるホクロがその色気を増大させて、ほんの少し垂れ気味の瞳に流し目で見られようものなら女子の大半はドキリとしてしまう無駄な眼光。眼光、と言っても眼光鋭く、という使い方が出来る眼光ではない。光で例えるならば桜太の眼光は淡い紫、もしくは桃色だ。ふわん、ふわん、とハートかシャボン玉みたいな物を飛ばしてくるエロエロな光なのだ。
「花火」
そしてこの声がまた曲者で、ほんの僅か掠れているけれど、耳に心地好いテノール。耳元で甘~く囁かれたい女子多数。みみつぶ、花火がやったら彼女に爆笑された思い出が甦り一人で大ダメージを受ける。
「ボクは花火じゃありませーん。双子の弟、火花デス」
「しょうもない嘘つくな」
苦笑を含んだ呆れた声音にふと感じた違和感にもう一度顔を上げた。
多分、不貞腐れた子供のような顔でもしていたのだろう。桜太の苦笑が深くなる。
「この間のが新しい奇行に走らせてんなら、あれは忘れろ」
声の違和感を指摘する前に。
同級生のくせに大人みたいな笑顔浮かべてんな、と文句を言う前に。
忘れろ、と桜太が言った。
「…は?」
「お前のクラスの奴らがみんな俺のトコ来んだよ。うんうん唸ってて怖い、何とかしてくれ、って」
この男は一体何語を喋っているのだろう。日本語だ。母国語である。わかっているのに言葉が一つも脳まで届かないのは何故なのだ。いや、理解はしている。理解はしているから余計に理解したくない。
クラスメイトが桜太に相談しに行った。
きっと幼馴染みで花火の奇行を――自分では奇行、だなんて思ってないけれど――止められるのは桜太しかいないと思われているから。
今回はその桜太が原因だったのに、よりにもよって根源の男に相談しに行ったのだ。ただうんうん唸ってチラ見しただけじゃないか、と思うのだが、チラ見の度合いが酷かった。背後に暗雲背負っていた。火の玉も見えていた。
これ絶対憑いた、何か良からぬ物が肩に乗った、悪霊とさえ友達になれそうな頭の弾けた花火を、ここまで意気消沈させる程の幽霊だなんて恐ろしすぎる――。
普段の弾けぶりを知るクラスメイトは祟りを恐れた。――クラスメイトの恐怖を知らぬは本人だけだ。
それを知らないから花火の導火線には今、細く火が点った。
忘れろ、とは何だ。
クラスメイトが何とかしてくれ、って言ったから?その程度で忘れてもいいほどの軽い気持ちだったのか。
そんな軽い告白を真に受けて真剣に悩んでいた自分は一体何なのだ。
お前の本気はクラスメイトに言われて撤回できる程の物なのか。花の名前がついているだけに咲いて散るのも早いのか。
真剣に悩んで、忘れろ、と言われて怒る。そこに何かしらの答えはあるけれど花火にはわからない。
だからチリチリと煙を出していた導火線の火があっという間に燃えて本体に着火、大爆発を起こした。
鞄で桜太の頭をぶん殴った花火はちょっと涙目だ。殴った方が涙目とは何事か。
「いってぇな~。何すんだよ」
「何すんだもずんだ餅もねぇよ!!バカ桜太!!」
「はあ?ってかお前何怒ってんの」
「何って…!」
お前が忘れろとか言うから!!
そう怒鳴りかけて、不意に疑問を感じた。
男に、それも昔からよく知る幼馴染みに告白されて悩んで、告白で困っているのなら忘れろと言われた。ここはホッとするべき所じゃないのか。
桜太の態度は何一つ変わっていないのだから、このまま忘れ…られはしないだろうけれど――何せ衝撃が凄まじかったから――、忘れたふりで今まで通り過ごすことは出来る筈だ。そうこうしている内に、こんなこともあったよな~、なんて思出話になっていく未来も有り得る。
だからその申し出は有り難い物ではないのか。
なのに何故こんなにもモヤモヤするのだ。
「~~~っ俺だってわっかんねーよ!バカ桜太!!バカバカ!!」
将来ハゲそうなサラッサラヘアーを持つ頭を辞書入り鞄でガツガツ殴る。その下で桜太が笑っているだなんて思いもしない。
(悩め悩め)
答えまで後数歩。
「そろそろ俺も見てるだけは疲れてきたからな。本気で落としにいくから覚悟しろ」
この間ネジを一本どこかで落とした。
「う~、う~ん」
誰かに話を聞いてほしくて机に突っ伏した花火は先程から唸っている。たまにチラッ、と目線を上げてみるけれどクラスメイトはその度にそそくさと視界から外れてしまう。
うーん、チラッ、うーん、チラッ、を繰り返すうちに放課後の教室から人気がなくなった。
(みんな酷い)
くすん、と鼻を鳴らして帰ろうかどうしようかと逡巡している花火の前の席に誰かが座る気配。ようやくチラ見効果が表れたかと顔を上げて…突っ伏した。
そこにいたのが悩みの根源、桜太だったからである。
花火の10年来の親友、桜太は中性的な顔立ちで、大人と子供の境界である微妙な年頃だと言うのに既に謎の色気を纏う男だ。
左目下にあるホクロがその色気を増大させて、ほんの少し垂れ気味の瞳に流し目で見られようものなら女子の大半はドキリとしてしまう無駄な眼光。眼光、と言っても眼光鋭く、という使い方が出来る眼光ではない。光で例えるならば桜太の眼光は淡い紫、もしくは桃色だ。ふわん、ふわん、とハートかシャボン玉みたいな物を飛ばしてくるエロエロな光なのだ。
「花火」
そしてこの声がまた曲者で、ほんの僅か掠れているけれど、耳に心地好いテノール。耳元で甘~く囁かれたい女子多数。みみつぶ、花火がやったら彼女に爆笑された思い出が甦り一人で大ダメージを受ける。
「ボクは花火じゃありませーん。双子の弟、火花デス」
「しょうもない嘘つくな」
苦笑を含んだ呆れた声音にふと感じた違和感にもう一度顔を上げた。
多分、不貞腐れた子供のような顔でもしていたのだろう。桜太の苦笑が深くなる。
「この間のが新しい奇行に走らせてんなら、あれは忘れろ」
声の違和感を指摘する前に。
同級生のくせに大人みたいな笑顔浮かべてんな、と文句を言う前に。
忘れろ、と桜太が言った。
「…は?」
「お前のクラスの奴らがみんな俺のトコ来んだよ。うんうん唸ってて怖い、何とかしてくれ、って」
この男は一体何語を喋っているのだろう。日本語だ。母国語である。わかっているのに言葉が一つも脳まで届かないのは何故なのだ。いや、理解はしている。理解はしているから余計に理解したくない。
クラスメイトが桜太に相談しに行った。
きっと幼馴染みで花火の奇行を――自分では奇行、だなんて思ってないけれど――止められるのは桜太しかいないと思われているから。
今回はその桜太が原因だったのに、よりにもよって根源の男に相談しに行ったのだ。ただうんうん唸ってチラ見しただけじゃないか、と思うのだが、チラ見の度合いが酷かった。背後に暗雲背負っていた。火の玉も見えていた。
これ絶対憑いた、何か良からぬ物が肩に乗った、悪霊とさえ友達になれそうな頭の弾けた花火を、ここまで意気消沈させる程の幽霊だなんて恐ろしすぎる――。
普段の弾けぶりを知るクラスメイトは祟りを恐れた。――クラスメイトの恐怖を知らぬは本人だけだ。
それを知らないから花火の導火線には今、細く火が点った。
忘れろ、とは何だ。
クラスメイトが何とかしてくれ、って言ったから?その程度で忘れてもいいほどの軽い気持ちだったのか。
そんな軽い告白を真に受けて真剣に悩んでいた自分は一体何なのだ。
お前の本気はクラスメイトに言われて撤回できる程の物なのか。花の名前がついているだけに咲いて散るのも早いのか。
真剣に悩んで、忘れろ、と言われて怒る。そこに何かしらの答えはあるけれど花火にはわからない。
だからチリチリと煙を出していた導火線の火があっという間に燃えて本体に着火、大爆発を起こした。
鞄で桜太の頭をぶん殴った花火はちょっと涙目だ。殴った方が涙目とは何事か。
「いってぇな~。何すんだよ」
「何すんだもずんだ餅もねぇよ!!バカ桜太!!」
「はあ?ってかお前何怒ってんの」
「何って…!」
お前が忘れろとか言うから!!
そう怒鳴りかけて、不意に疑問を感じた。
男に、それも昔からよく知る幼馴染みに告白されて悩んで、告白で困っているのなら忘れろと言われた。ここはホッとするべき所じゃないのか。
桜太の態度は何一つ変わっていないのだから、このまま忘れ…られはしないだろうけれど――何せ衝撃が凄まじかったから――、忘れたふりで今まで通り過ごすことは出来る筈だ。そうこうしている内に、こんなこともあったよな~、なんて思出話になっていく未来も有り得る。
だからその申し出は有り難い物ではないのか。
なのに何故こんなにもモヤモヤするのだ。
「~~~っ俺だってわっかんねーよ!バカ桜太!!バカバカ!!」
将来ハゲそうなサラッサラヘアーを持つ頭を辞書入り鞄でガツガツ殴る。その下で桜太が笑っているだなんて思いもしない。
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