前世の恋人と再会したら立場が逆転してたんだけど

ナナメ

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モヤつき

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「なるほど……。つまりあなた方は100年前に滅びたユーステル王国の方々の生まれ変わりだと……」

 俄かには信じ難い話だろうけど、ロランドの事を説明するにはそもそもどうして俺達がロランドに狙われるかを話さないといけなくて包み隠さず話したわけですが。
 ふう、と口元を押さえて下を向いたマリアンナ様は僅かに肩を震わせている。え、これ怒ってる?聖女って言ったら神の代理人、国の頂点。適当な事言うな、とかって不敬罪で捕らえられたりしない?
 しばらく震えていたマリアンナ様が、こほん、と姿勢を正した時には元の穏やかな表情に戻っていて側に侍っている2人の護衛達も特に動きそうにもないからいきなり牢屋にぶち込まれる事はないようだ。

「確かにこの世界の魂はめぐっておりますわ。時折こうしてあなた方のように以前の記憶を思い出し、過去の両親、友、伴侶を捜す者も確かにおります」

 神に祈る者の中にはそうした相手と会いたいと涙ながらに語る者もいるのだとか。
 そうだよな。俺だってたまたま思い出した時側にフランツ達がいたから孤独を感じずに済んだけど、俺1人の時に思い出してたらきっと皆を捜し歩いてたと思う。――Fランク冒険者が無事に他の街まで1人で辿り着いてた自信はないけど。
 でも、それなら生まれた時からジュリエラの記憶を持ってたネイビスは――。
 ちら、と隣を見るけど、相変わらず苦虫が口の中にいそうな顔のままのネイビスは会いたかった、と言ってくれた。あの一言にどれ程の思いが詰まってたのかは俺には想像出来ない。
 マリアンナ様は慈愛の微笑みを浮かべて俺達を見る。

「あなた方は余程強い絆で結ばれていたのでしょう。尊い事です」

 祈りを捧げてから微笑みを消した彼女は続けて言った。

「しかしその絆はしるべとして彼の者にも見えてしまったのでしょう」

 ロロアはいつからロランドに入り込まれていたのか。そもそもロランドがいつから俺達に気付いていたのか。
 マリアンナ様曰く、魂移しの禁術は使えば使う程に闇魔法の威力が増していくのだと言う。ロランドが魂移しを確実に実行したのは少なくとも2回。処刑された後と、そして今回だ。
 この世界の平均寿命は60くらいだから処刑された後に誰かの体を奪って寿命まで生きてたとしても、後もう1回くらいはしているかも知れない。
 でもあのロランドの本性を見た後となっては、いつか俺達の魂が廻って戻った時に確実に苦しめる為に無駄に魂移しをしていても驚かない自信はある。

「魂移しで体を奪った直後は非常に魔力を消費しております。その状態で護送車から転移し、あまつさえネイビス達の元へ現れ魔法を使った……となればそれなりの人数を犠牲にしているものと思った方が良いですわ」

 やっぱり、とため息をつく。

「ですが、その場でデュナ様ごと転移出来なかった所を見ると、恐らくは次現れるまでに1か月程度の猶予があると思って良いかと」

 ロランドが何を思ってあの時俺達の前に現れたかわからないけど、あそこで結構な魔力を使ったからその回復には時間がかかる。多分今は全力で身を隠す方向で動いてる筈だから探し回るよりもむしろこっちが万全の状態で迎え撃った方が良い、とそう言ったマリアンナ様が俺を見た。

「デュナ様は持っている魔力量と使用できる魔法に差が大き過ぎますわ。一番危険な立場にいらっしゃるのはデュナ様、あなたです。明日から僭越ながらわたくしが特訓させて頂きます」

「え……」

 聖女様直々に?しかももしかして1か月みっちり?それ大丈夫なやつ?
 ちら、と騎士さん達を見るけど特に異を唱える雰囲気はない。――が、異を唱えたのは俺の隣にいたネイビスだった。

「コイツの特訓は俺がやる」

「ちょ、ネイビス!口の利き方……!」

「あら、あなたが?感覚で戦っている方の説明でデュナ様が理解出来るかしら」

 う、うん。前回の特訓も何とか難解なネイビス語を解き明かしながら内部爆発と共に俺も感覚で覚えたんだけど。
 もしかしてあれは普通の事じゃなかったんだろうか。フランツ達は普通に理解してたから、学校とかでもあんな感じで教えるもんだと思ってたんだけど。「このタイミングでドン、って感じで」とか「流れに任せて押し出す感じで」とかちょっと何言ってるかわかんない、と思いながら頑張って理解したんだけど。
 珍しく言い淀んでぐぬぬ、みたいになってるネイビスが何だか可愛くないか!?いや可愛いな!!

「ネイビスも納得した事ですし、明日からよろしくお願い致しますわ。デュナ様」

「え、はい……!お願いします!」

 戸惑ってる間に話がまとまってしまった。
 良いんだろうか。多忙な聖女を一か所に留めた上に特訓までしてもらって……。そう思いながら騎士さん達から少し離れて何故かネイビスと話しているマリアンナ様を見る。
 ……距離、近くない?ネイビスの表情は苦虫ぶち込まれ顔だけど、マリアンナ様は満面の笑み。でも背伸びしてネイビスの耳の近くで何かを話してるマリアンナ様……近くない?バランス崩したらネイビスにほっぺチューしちゃうくらいの近さにまたさっきのモヤモヤが蘇る。

(え……)

 何だこのモヤつきは!なんてウガーってなってた俺の目の前でマリアンナ様に何か言われたらしいネイビスが口元を押さえて目を逸らした。頬どころか耳まで赤くして。
 それを見たマリアンナ様は華奢な肩を揺らしてクスクスと笑っているようだ。
 まるで――そう、まるで恋人同士みたいな雰囲気で。

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