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聖女
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ロランドに対抗するには聖女しかいないんだけど、多忙な聖女が都市1つ壊滅されたわけでもないのに1人の闇魔法使い退治の為にすぐ出動してくれる筈ない――と思ってたんだが。
真っ白な馬車の扉には繊細な彫刻が施してあって、豪華なのに静謐さを保った作りになっている。4頭引きの馬車の周りには真っ白な騎士服を身につけた10人の騎士が一糸乱れぬ動きで馬を操っている。
街の人達も突然現れたその一団にあ然としていて、先に我に返った誰かが隣の誰かを小突いて皆が慌てて地面に伏せて行く。
ロランドが消えて3日。逃げ隠れしていても仕方ないし、みんなとギルドで依頼を受けて丁度出て来た所でギルド前に停まる馬車に出会ってしまい、ぽかん、として固まった。
ごほん、と騎士に咳払いされて慌てて馬車の扉が正面に来る位置から避け膝をついて頭を下げる。
でも頭の中は疑問符だらけだ。
え、これ聖女の馬車だよね?一応ダメ元で、って要請はしてもらったけど何で聖女がこんなに早く来るの?っていうか本当に聖女?しかも何で最初にギルドに来るの?領主の所に行くんじゃないの?
大混乱な俺なんて当然お構いなしに騎士が馬車の扉を開く。頭は上げられないからわからないけど、多分今扉を開けた騎士が聖女に手を差し出しているんだろう。貴族淑女のドレスがたてる重そうな衣擦れの音じゃなく、軽やかでささやかな衣擦れの音は騎士が動けば鎧の音でかき消されてしまった。
ガシャガシャと数人分の鎧の音が何故かピタっと俺達が頭を下げている場所で止まる。
え、何で?俺なんか無作法した!?さっきすぐ頭下げなかったから!?いやでもタイミング的にはみんな同じようなタイミングだったと思うんだけど!
内心冷や汗ダラダラな俺だったけど、白い法衣の裾を纏った足はネイビスの前で止まった。
「お久しぶりですわね、ネイビス。それと……どうか皆様、頭をお上げになって」
何!?知り合い!?って今すぐ問い詰めたいのを堪えて言われるまま頭を上げる。
聖女は蕩ける蜂蜜のようなハニーブロンドの髪と同色の瞳を持つ、俺よりも頭1つ小さい小柄な女性だった。垂れ目がちな瞳は大きいけれど鼻や唇は小さく、にこりと微笑めば控え目なえくぼが出来るのが愛らしい。声もまるで小鳥の囀りのような可憐な響きで、そこらの悪霊くらいなら世間話をしているだけでも浄化されそうな程だ。
でも親し気にネイビスを見つめる様にモヤ、っとした物が心に芽生える。
「マリアンナ様」
控え目に呼ぶ騎士の声に聖女は頬に手を当てて小さくため息をついてから頷いた。
「――ええ、そうですわね。まずはギルドマスターへご挨拶に行きましょう。ネイビス、それからこちらはパーティーメンバーの皆様で宜しいかしら。一緒に来て頂けると助かるのですが」
ちら、っと見上げたネイビスが苦虫を50匹くらいすり潰して口にぶち込まれたみたいな凄い顔してるけど、うちのリーダーはフランツだ。しかも聖女直々にご指名があったとあればただの冒険者に拒否権なんてないから、仕方なく護衛騎士に囲まれてる聖女の後について行く。
「……ネイビス、聖女様と知り合いなのか?」
こそ、っと訊いたつもりだったのに返事は護衛を挟んだ向こうにいる聖女から返って来た。
地獄耳!怖い!
「ネイビスとは同じ学び舎で学んだ仲ですわ。あの頃わたくしと同等の魔力を持っているのはネイビスしかおらず……2人で切磋琢磨したものです」
喧嘩吹っ掛けて来たの間違いだろ、って俺の耳には聞こえたんだけど言い終えるか否かの辺りでネイビスがグフ、って変な声を出して黙ってしまったから気の所為だったかも知れない。
っていうか、この友達いなさそうなネイビスが人から話しかけられた事をフレンドリーに受け止めるわけないもんな。きっといつも1人で寂しそうにしてる(ように見えた)ネイビスを不憫に思った聖女が話しかけてくれてたんだろうな。
(うう……っ何だこれ、モヤってする……!!)
うぐぅ、って胸を押さえてるとネイビスが直ぐに気付いてくれた。
「どうした。どこか痛むのか」
「何か、胸が痛い……」
痛い?痛いっていうか、説明出来ないこのモヤっと感!
イツカが、ああ、って呟いた後で大きなため息をついた。何で!?今の何のため息!?しかもその後「薬のない病の前兆だから大丈夫じゃない?」なんて言うから余計気になってしまう。俺何か病気!?
って俺自身が不安になってるのに、それを聞いたネイビスは何でかニヤ、っと意地悪気に笑った。何だその顔は!
ああもう、理由を問い質したいけど既にギルドの中だ。事前に聞いてなかったのかギルド内は若干パニック状態で、今日も立派なウサ耳のハーリィさんがドタバタと来客用の部屋を整えてぎこちなく聖女を中に案内する。
中で待ってたギルドマスターも緊張の面持ちだけど流石はギルドを束ねてるだけあって表向きは堂々と聖女を迎えた。
「先触れなく訪れた事、申し訳なく思いますわ」
ソファーに座るなり頭を下げる聖女に騎士達の方が慌てている。
そりゃそうだ。聖女と言えば王族以上の存在だし、簡単に人に頭を下げる立場にはない。でも歴代聖女の中にはその立場を使って傲慢で欲深く、最後には天罰が下ったと言われる残念聖女もいるから彼女達も色々と思う所があるだろう。
そして今代の聖女は今の所このマリアンナ様1人。多忙を極めている筈だ。
「確かに助けて欲しいと書状は出しましたが、こんなに早く来て頂けるとは思ってもおりませんでした」
「ええ、本来であれば議会に通して、というのが通例でしょうが……この度は神託がくだりましたの」
曰く、ミリアルに迫る危機を退けよ、という。
神託は文字通り神様からの言葉だからそれを止める権利は誰にもない。だから実は書状自体はマリアンナ様には届いていないらしい。多分今日辺り騎士団に届けられてる頃じゃないだろうか。
「禁術を操る者が現れたとあっては、聖女の身として捨て置く事は出来ませんわ。詳しいお話を聞かせて頂けないかしら」
真っ白な馬車の扉には繊細な彫刻が施してあって、豪華なのに静謐さを保った作りになっている。4頭引きの馬車の周りには真っ白な騎士服を身につけた10人の騎士が一糸乱れぬ動きで馬を操っている。
街の人達も突然現れたその一団にあ然としていて、先に我に返った誰かが隣の誰かを小突いて皆が慌てて地面に伏せて行く。
ロランドが消えて3日。逃げ隠れしていても仕方ないし、みんなとギルドで依頼を受けて丁度出て来た所でギルド前に停まる馬車に出会ってしまい、ぽかん、として固まった。
ごほん、と騎士に咳払いされて慌てて馬車の扉が正面に来る位置から避け膝をついて頭を下げる。
でも頭の中は疑問符だらけだ。
え、これ聖女の馬車だよね?一応ダメ元で、って要請はしてもらったけど何で聖女がこんなに早く来るの?っていうか本当に聖女?しかも何で最初にギルドに来るの?領主の所に行くんじゃないの?
大混乱な俺なんて当然お構いなしに騎士が馬車の扉を開く。頭は上げられないからわからないけど、多分今扉を開けた騎士が聖女に手を差し出しているんだろう。貴族淑女のドレスがたてる重そうな衣擦れの音じゃなく、軽やかでささやかな衣擦れの音は騎士が動けば鎧の音でかき消されてしまった。
ガシャガシャと数人分の鎧の音が何故かピタっと俺達が頭を下げている場所で止まる。
え、何で?俺なんか無作法した!?さっきすぐ頭下げなかったから!?いやでもタイミング的にはみんな同じようなタイミングだったと思うんだけど!
内心冷や汗ダラダラな俺だったけど、白い法衣の裾を纏った足はネイビスの前で止まった。
「お久しぶりですわね、ネイビス。それと……どうか皆様、頭をお上げになって」
何!?知り合い!?って今すぐ問い詰めたいのを堪えて言われるまま頭を上げる。
聖女は蕩ける蜂蜜のようなハニーブロンドの髪と同色の瞳を持つ、俺よりも頭1つ小さい小柄な女性だった。垂れ目がちな瞳は大きいけれど鼻や唇は小さく、にこりと微笑めば控え目なえくぼが出来るのが愛らしい。声もまるで小鳥の囀りのような可憐な響きで、そこらの悪霊くらいなら世間話をしているだけでも浄化されそうな程だ。
でも親し気にネイビスを見つめる様にモヤ、っとした物が心に芽生える。
「マリアンナ様」
控え目に呼ぶ騎士の声に聖女は頬に手を当てて小さくため息をついてから頷いた。
「――ええ、そうですわね。まずはギルドマスターへご挨拶に行きましょう。ネイビス、それからこちらはパーティーメンバーの皆様で宜しいかしら。一緒に来て頂けると助かるのですが」
ちら、っと見上げたネイビスが苦虫を50匹くらいすり潰して口にぶち込まれたみたいな凄い顔してるけど、うちのリーダーはフランツだ。しかも聖女直々にご指名があったとあればただの冒険者に拒否権なんてないから、仕方なく護衛騎士に囲まれてる聖女の後について行く。
「……ネイビス、聖女様と知り合いなのか?」
こそ、っと訊いたつもりだったのに返事は護衛を挟んだ向こうにいる聖女から返って来た。
地獄耳!怖い!
「ネイビスとは同じ学び舎で学んだ仲ですわ。あの頃わたくしと同等の魔力を持っているのはネイビスしかおらず……2人で切磋琢磨したものです」
喧嘩吹っ掛けて来たの間違いだろ、って俺の耳には聞こえたんだけど言い終えるか否かの辺りでネイビスがグフ、って変な声を出して黙ってしまったから気の所為だったかも知れない。
っていうか、この友達いなさそうなネイビスが人から話しかけられた事をフレンドリーに受け止めるわけないもんな。きっといつも1人で寂しそうにしてる(ように見えた)ネイビスを不憫に思った聖女が話しかけてくれてたんだろうな。
(うう……っ何だこれ、モヤってする……!!)
うぐぅ、って胸を押さえてるとネイビスが直ぐに気付いてくれた。
「どうした。どこか痛むのか」
「何か、胸が痛い……」
痛い?痛いっていうか、説明出来ないこのモヤっと感!
イツカが、ああ、って呟いた後で大きなため息をついた。何で!?今の何のため息!?しかもその後「薬のない病の前兆だから大丈夫じゃない?」なんて言うから余計気になってしまう。俺何か病気!?
って俺自身が不安になってるのに、それを聞いたネイビスは何でかニヤ、っと意地悪気に笑った。何だその顔は!
ああもう、理由を問い質したいけど既にギルドの中だ。事前に聞いてなかったのかギルド内は若干パニック状態で、今日も立派なウサ耳のハーリィさんがドタバタと来客用の部屋を整えてぎこちなく聖女を中に案内する。
中で待ってたギルドマスターも緊張の面持ちだけど流石はギルドを束ねてるだけあって表向きは堂々と聖女を迎えた。
「先触れなく訪れた事、申し訳なく思いますわ」
ソファーに座るなり頭を下げる聖女に騎士達の方が慌てている。
そりゃそうだ。聖女と言えば王族以上の存在だし、簡単に人に頭を下げる立場にはない。でも歴代聖女の中にはその立場を使って傲慢で欲深く、最後には天罰が下ったと言われる残念聖女もいるから彼女達も色々と思う所があるだろう。
そして今代の聖女は今の所このマリアンナ様1人。多忙を極めている筈だ。
「確かに助けて欲しいと書状は出しましたが、こんなに早く来て頂けるとは思ってもおりませんでした」
「ええ、本来であれば議会に通して、というのが通例でしょうが……この度は神託がくだりましたの」
曰く、ミリアルに迫る危機を退けよ、という。
神託は文字通り神様からの言葉だからそれを止める権利は誰にもない。だから実は書状自体はマリアンナ様には届いていないらしい。多分今日辺り騎士団に届けられてる頃じゃないだろうか。
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