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ロランド
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当時剣聖と呼ばれていたものの魔力の少ない俺と、ロランド程ではないけれど魔力の高い同母から産まれた第3王子の派閥が出来上がっていて兄弟間はいつも緊張を孕んでいた。母は後から産まれた弟が可愛かったんだろう。弟を王位に就けたがっていて、逆に父は全ての能力を鑑みた上で俺を王位に、と言ってくれていた。
国王が王太子を既に決めているのに弟の派閥は納得いかなかったらしくあらゆる手で俺を貶めようとしていた時期もあった。そんなユーステル王家の中で唯一、側室から産まれたロランドだけが何の含みもなく俺に――ロメリオに懐いてくれてると思ってた。
俺は知っていたんだ。他の弟達も虎視眈々と王の椅子を狙ってる事を。でもロランドにはそんな様子は欠片もなかったから、何の気兼ねもなく可愛がっていたと思う。
アーバインとの関係が悪化して戦争の色が濃くなると、それまでとは打って変わって俺に王太子としての責任を押し付けてくる家族に嫌気がさしていた。ユマニエルとキンバリー、そしてジュリエラ。彼ら以外ではロランドだけがその頃の俺の癒しだった。
そしてその可愛かったロランドが本当は何を考えていたか知った俺は今何故かネイビスに膝枕をされて頭をよしよしされている。何でだ。
ついでに1週間ぶりに帰って来たフランツ達はロランドの変貌ぶりに驚きを隠せないのと俺が膝枕でよしよしされている事に戸惑いを隠せないのとでとても複雑な顔をしている。
だよね。意味わかんないよね?あの日帰って来てから何があっても良いように家の周りに結界を張ったり、ギルドマスターにロロアの変貌を伝えに行ったりまあ色々と動いたわけなんだけど、家に戻って共用スペースで休憩してるとすぐこの体勢に入るんだよ。おかしくない?「何だよ」って言っても「別に」としか返ってこないし助けてくれよ。
もしかして慰めようとしてくれてんのかな、とも思ったけど1週間ずっとはやりすぎじゃないかと思うんだ。理由も言わないし俺からしたらもうこれは奇行のレベルだ。しかも筋肉で固い足は寝心地悪いし本当に助けて欲しい。
「当時から本性隠してたなら筋金入りの悪魔だな」
「そうだね。本当に殿下に何の下心もなく懐いてたようにしか見えなかったもんね」
やめて。俺の顔見ながら話すのやめて。両手で顔を隠して視界を塞いでも2人の視線が突き刺さってるのを感じる。
「こいつの全てを奪ってやりたいらしい」
「――そんな憎まれる事した記憶ないんだけどなぁ」
両手で顔を覆ったままのくぐもった声で話す。
何度思い返しても、俺はロランドを一番可愛がっていた自覚がある。強請られれば剣を教え、勉強を教え、王太子としての激務の間に一緒に過ごせる時間を取ってお茶をして。お忍びの市場視察にも連れていってあれこれ買ってやった気もする。そう、向こうから強請ってくる事が多くて俺はそれに「仕方ないなぁ」って応える、そんな関係だった。俺が無理矢理嫌がるロランドを連れ回してたわけじゃない。
だからあんなに敵意を向けられる覚えはない……と思うんだけど。
「敵意っていうか……」
複雑そうな声音に指の間からイツカをチラ見。イツカは考え込むような間を開けてからやっぱり複雑そうなまま言う。
「逆に行き過ぎた独占欲って感じがするんだけど……」
「澄ました顔を歪ませてやりたかった、とか言われたのに?」
俺そんなに澄ました顔してたかな。いつだって完全無欠でいないといけないプレッシャーで必死だっただけなんだけど。
「愛情も一周回ると憎しみに変わるっていうし」
「お前を抱きたいとも言ってたな?」
「痛ぇ!!」
なでなでしてた手にぎゅ、っと髪を引っ張られて悲鳴を上げる。
俺の所為じゃないだろ!向こうが勝手に言ってるだけの事で八つ当たりされても!
「ちょっと思ったんだけど……」
いつも通り眠そうなフランツがふわ、と欠伸を漏らした。
「あの赤目って、本当に赤目だったか?」
「――俺も気になってた。赤目にしては目の色が薄かった気がして」
え、何で今赤目の話?脈絡なくない?
俺1人話についていけなくてぽかんとしてしまう。
確かに赤目にしては倒すのが早すぎじゃない?って思ってたけど、どうして今その話?
「ロランドが禁術に手を出したなら使うのは闇魔法だろ」
「あ……」
確かにそうだ。魂移しの禁術は闇魔法の1つ。
ロロアを操ったのも恐らく闇魔法の精神操作だったんだろう。だったら……
「魔物を狂暴化させる事も可能って事か」
この1年赤目が出そうな気配なんてなかったのに急に現れた事と言い、実際戦ってみたらそこまで強くなかった事と言い、おかしな事ばかりだ。
それがロランドの闇魔法の所為だった、というなら説明がつく。
そしてその闇魔法使いに対抗出来るのは唯一聖魔法使いだけだという――つまりこの国では聖女と崇められている人物だけだ。
「ロロアの寿命が尽きれば倒せるけどなぁ」
欠伸なのかため息なのかわからない吐息と共に言って、すっかり冷めてしまったお茶を飲むフランツに
「ロロアの体だけ消滅させてもすぐ他の人に魂移しされたら一緒だよ」
同じようにお茶を飲みながらイツカが言う。
「ただ魂の移しやすさはある筈だろ」
いい加減俺の頭撫で続けるのやめてもらっていいですかね。そんなに摩擦与えて禿げたらどうしてくれるんだこの野郎。
「ロロアみたいな非道な下心がある奴は入られやすいだろうな」
撫でられながら答える俺にフランツ達がまだ複雑そうな顔をしてるけど、もうこの光景に慣れてもらって良いですか。俺も慣れたくないけど何でか離してくれないんだコイツ。
「もうお前修道院とか行ったら」
「俺が静謐を保ってどうすんだよ!」
「いや、静謐な所にはロランドも入って来られないかと思って」
「修道院ごとぶっ飛ばすだろ、あの狂人ぶりは!」
元兄に股開けとか言うアホだぞ!
「1つだけ策があるにはあるけどな……」
正直それは上手くいくかわからないから呟いたもののそれ以上は心に秘めておく。
とりあえず現状ロランドがどこに潜伏してるかわからない以上、俺達から攻める事は出来ないからギルドの方でも協力して警戒しておく事しか出来ないだろう。
本当は王都とか行って聖女を呼んでもらった方が良いんだろうけど、そもそも聖女は王家からの要請がないと動けない。その王家と繋がりを持つには王都にあるギルド本部に要請書を提出して、本部が必要と判断して、王家の騎士団長が必要と判断して、王家と貴族会議で必要と判断して、それからようやく聖女に話がいくんだ。
絶対その間にロランドに襲われてる未来しか見えんわ。だからこの街のギルドで何とかするしかない。本当は巻き込みたくないけど俺達4人では分が悪すぎるからな。というか、先に知らせておかないとこの街ごと焼き尽くすとか平気でやり兼ねないし。
国王が王太子を既に決めているのに弟の派閥は納得いかなかったらしくあらゆる手で俺を貶めようとしていた時期もあった。そんなユーステル王家の中で唯一、側室から産まれたロランドだけが何の含みもなく俺に――ロメリオに懐いてくれてると思ってた。
俺は知っていたんだ。他の弟達も虎視眈々と王の椅子を狙ってる事を。でもロランドにはそんな様子は欠片もなかったから、何の気兼ねもなく可愛がっていたと思う。
アーバインとの関係が悪化して戦争の色が濃くなると、それまでとは打って変わって俺に王太子としての責任を押し付けてくる家族に嫌気がさしていた。ユマニエルとキンバリー、そしてジュリエラ。彼ら以外ではロランドだけがその頃の俺の癒しだった。
そしてその可愛かったロランドが本当は何を考えていたか知った俺は今何故かネイビスに膝枕をされて頭をよしよしされている。何でだ。
ついでに1週間ぶりに帰って来たフランツ達はロランドの変貌ぶりに驚きを隠せないのと俺が膝枕でよしよしされている事に戸惑いを隠せないのとでとても複雑な顔をしている。
だよね。意味わかんないよね?あの日帰って来てから何があっても良いように家の周りに結界を張ったり、ギルドマスターにロロアの変貌を伝えに行ったりまあ色々と動いたわけなんだけど、家に戻って共用スペースで休憩してるとすぐこの体勢に入るんだよ。おかしくない?「何だよ」って言っても「別に」としか返ってこないし助けてくれよ。
もしかして慰めようとしてくれてんのかな、とも思ったけど1週間ずっとはやりすぎじゃないかと思うんだ。理由も言わないし俺からしたらもうこれは奇行のレベルだ。しかも筋肉で固い足は寝心地悪いし本当に助けて欲しい。
「当時から本性隠してたなら筋金入りの悪魔だな」
「そうだね。本当に殿下に何の下心もなく懐いてたようにしか見えなかったもんね」
やめて。俺の顔見ながら話すのやめて。両手で顔を隠して視界を塞いでも2人の視線が突き刺さってるのを感じる。
「こいつの全てを奪ってやりたいらしい」
「――そんな憎まれる事した記憶ないんだけどなぁ」
両手で顔を覆ったままのくぐもった声で話す。
何度思い返しても、俺はロランドを一番可愛がっていた自覚がある。強請られれば剣を教え、勉強を教え、王太子としての激務の間に一緒に過ごせる時間を取ってお茶をして。お忍びの市場視察にも連れていってあれこれ買ってやった気もする。そう、向こうから強請ってくる事が多くて俺はそれに「仕方ないなぁ」って応える、そんな関係だった。俺が無理矢理嫌がるロランドを連れ回してたわけじゃない。
だからあんなに敵意を向けられる覚えはない……と思うんだけど。
「敵意っていうか……」
複雑そうな声音に指の間からイツカをチラ見。イツカは考え込むような間を開けてからやっぱり複雑そうなまま言う。
「逆に行き過ぎた独占欲って感じがするんだけど……」
「澄ました顔を歪ませてやりたかった、とか言われたのに?」
俺そんなに澄ました顔してたかな。いつだって完全無欠でいないといけないプレッシャーで必死だっただけなんだけど。
「愛情も一周回ると憎しみに変わるっていうし」
「お前を抱きたいとも言ってたな?」
「痛ぇ!!」
なでなでしてた手にぎゅ、っと髪を引っ張られて悲鳴を上げる。
俺の所為じゃないだろ!向こうが勝手に言ってるだけの事で八つ当たりされても!
「ちょっと思ったんだけど……」
いつも通り眠そうなフランツがふわ、と欠伸を漏らした。
「あの赤目って、本当に赤目だったか?」
「――俺も気になってた。赤目にしては目の色が薄かった気がして」
え、何で今赤目の話?脈絡なくない?
俺1人話についていけなくてぽかんとしてしまう。
確かに赤目にしては倒すのが早すぎじゃない?って思ってたけど、どうして今その話?
「ロランドが禁術に手を出したなら使うのは闇魔法だろ」
「あ……」
確かにそうだ。魂移しの禁術は闇魔法の1つ。
ロロアを操ったのも恐らく闇魔法の精神操作だったんだろう。だったら……
「魔物を狂暴化させる事も可能って事か」
この1年赤目が出そうな気配なんてなかったのに急に現れた事と言い、実際戦ってみたらそこまで強くなかった事と言い、おかしな事ばかりだ。
それがロランドの闇魔法の所為だった、というなら説明がつく。
そしてその闇魔法使いに対抗出来るのは唯一聖魔法使いだけだという――つまりこの国では聖女と崇められている人物だけだ。
「ロロアの寿命が尽きれば倒せるけどなぁ」
欠伸なのかため息なのかわからない吐息と共に言って、すっかり冷めてしまったお茶を飲むフランツに
「ロロアの体だけ消滅させてもすぐ他の人に魂移しされたら一緒だよ」
同じようにお茶を飲みながらイツカが言う。
「ただ魂の移しやすさはある筈だろ」
いい加減俺の頭撫で続けるのやめてもらっていいですかね。そんなに摩擦与えて禿げたらどうしてくれるんだこの野郎。
「ロロアみたいな非道な下心がある奴は入られやすいだろうな」
撫でられながら答える俺にフランツ達がまだ複雑そうな顔をしてるけど、もうこの光景に慣れてもらって良いですか。俺も慣れたくないけど何でか離してくれないんだコイツ。
「もうお前修道院とか行ったら」
「俺が静謐を保ってどうすんだよ!」
「いや、静謐な所にはロランドも入って来られないかと思って」
「修道院ごとぶっ飛ばすだろ、あの狂人ぶりは!」
元兄に股開けとか言うアホだぞ!
「1つだけ策があるにはあるけどな……」
正直それは上手くいくかわからないから呟いたもののそれ以上は心に秘めておく。
とりあえず現状ロランドがどこに潜伏してるかわからない以上、俺達から攻める事は出来ないからギルドの方でも協力して警戒しておく事しか出来ないだろう。
本当は王都とか行って聖女を呼んでもらった方が良いんだろうけど、そもそも聖女は王家からの要請がないと動けない。その王家と繋がりを持つには王都にあるギルド本部に要請書を提出して、本部が必要と判断して、王家の騎士団長が必要と判断して、王家と貴族会議で必要と判断して、それからようやく聖女に話がいくんだ。
絶対その間にロランドに襲われてる未来しか見えんわ。だからこの街のギルドで何とかするしかない。本当は巻き込みたくないけど俺達4人では分が悪すぎるからな。というか、先に知らせておかないとこの街ごと焼き尽くすとか平気でやり兼ねないし。
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