前世の恋人と再会したら立場が逆転してたんだけど

ナナメ

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倒したって早すぎない?

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 あの後俺を小屋に連れ込んだ所を目撃した他の冒険者の証言と俺の半脱げの姿と荒縄の跡を見て、ギルドマスターはロロアを現行犯として逮捕した。確かにロロアは貴族の末端ではあるけどギルド登録者である以上ギルドの掟にも従う必要がある。今まで現行犯で捕まえられなくて泣き寝入りするしかなかったけど、今回は立派な現行犯だ。

「保護者達に焦らされた分、気が逸ったんだろ」

 普段なら絶対もっと人目につかない所まで連れ去ってただろうに、あんな戦闘真っ最中の近場の小屋で事に及ぼうとするなんてよっぽど俺を手に入れたくて焦ってたらしい。気持ち悪いわ~。
 っていうか、あんな早く戦闘が終わるとも思ってなかったんだろう。俺もあまりにも早くてびっくりしたくらいだし。とりあえずロロアを縛って行動封じをかけて戦闘に戻ろうと思ってたのにもう終わったとか言うんだもんな。びっくりしたわ。

 とりあえず赤目は退治したし、これでしばらく魔物も落ち着くだろう、って事でいつもの食堂で食事して酒飲んで……そしたらさあ。ネイビス、まさかの酒弱い人だったんだよ……!
 そう考えたら確かに前回もエールは頼んでたけど1杯しか飲んでなかったもんな……。3杯目くらいでへろへろになっちゃって、こんなSランク冒険者は人に見せられないからお前が連れて帰れ!って他のおっさん達に面白半分で追い出されたんだ。
 俺がネイビスと付き合わない方に賭けてる奴らはまだネイビスを捕まえて飲まそうとしてたけど、流石に本人が可哀想だから身体強化を使ってネイビスに肩を貸して家路についた。

「全く、お前酒弱いなら弱いって言っとけよ!」

「ん~」

 俺だってあんまり強くないからアルコール度低い果実酒にしてるのに。エールの味が好きじゃないとも言うけども。
 はい、バンザーイ、って冗談半分で言うと素直に万歳してくるネイビスに何だかキュン、ってなってしまう。
 何これ、可愛いんですけど!
 邪魔だろう防具を脱がせてちょっとシャツのボタンを外して首元が苦しくないようにして、水が入ったコップを手渡そうとすると。

「ん」

 口を尖らせて飲ませてアピール。
 いや!可愛いな!?マジで可愛いな!!?イケメンの甘えん坊可愛すぎるな!?
 普段のキリッとしたクールな眼差しは酒に酔ってとろ、っと蕩けて頭がぐらぐら左右に揺れている。俺が飲み過ぎて酔った時はケタケタ笑い出しちゃうんだけど――何でか全部が楽しくなっちゃうんだよね――、ネイビスは静かなもんだ。ただぐらんぐらんと頭を揺らして、絶対半分寝てるだろって蕩けた眼差しで俺が水を飲ませてくれるのを素直に待ってる。
 え、どうしよう。めちゃくちゃ可愛いんだが!?

「うん゙ん゙」

 動揺のあまり変な咳払いをしつつ普段は引き締まってる薄い唇にコップを押し当て、ゆっくり傾ける。
 当然ながらジュリエラの時にはなかった喉仏がこく、こく、と上下に動く様を何となく見て、改めて違う人間なんだな、なんて取り留めもなく考えてふと見ると。ネイビスの眠そうな眼差しがジッと俺を見てるじゃないか!

「何だよ!?」

「俺はネイビスだ」

 え、突然の自己紹介?

「そうだな、ネイビスだな」

「お前もロメリオじゃない」

 元、だからそうだな。ロメリオ本人ではないな。
 ネイビスは俺の手から取り上げたコップをサイドテーブルに置いて、ベッドに腰かけてた俺を引き寄せてくる。

「は!?何!?」

 ぎゅ、っと抱き着いて、首筋に鼻先を埋めて繰り返した。

「俺はネイビスだ」

 何の自己紹介!?誰か助けて!酔っぱらいって意味わかんない!
 仕方ないから抱き着かせたままよしよしと背中を撫でてみる。
 早く寝てしまいなさい。君は翌朝全て忘れるタイプかね?俺は全部覚えてて恥ずかしくなるタイプだけれども。
 それにしても酔ってるからかいつもより体温の高いネイビスに俺の方が寝てしまいそうで欠伸を噛み殺す。寝落ちしても良いように浄化を2人分かけて、後はネイビスが寝落ちるのを待ってようと思ったんだけど。

「俺はネイビスだ――」

 いや、何回目だよ、と今度こそ突っ込もうと思ったその言葉には先があった。

「ジュリエラじゃない。……それでも側にいて欲しいと思うのは贅沢な事か?」

 一瞬背中を撫でていた手を止めてしまった。
 元ジュリエラ。でも今はもうジュリエラじゃないネイビス。ジュリエラとは似ても似つかない大男で、口が悪くて、剣の腕が立って、魔法だって得意で。淑女の鑑だと言われた、だけど本当は少しだけお転婆なジュリエラとは全然違う。魂は同じでも、全然違う人生を歩んだ全然違う人間だ。

 そっか。お前、何だかんだ不安だったんだな。

「俺もロメリオじゃないよ。どこの誰とも知れない孤児のデュナだ。――ロロアに服脱がされた時な、すごい気持ち悪かった」

 そりゃもう全力抵抗するくらい気持ち悪かったよ。だけど今こうしてネイビスとくっついてるのは全然気持ち悪くないんだ。
 そうやって言ったら、顔を上げたネイビスの何だか少し泣きそうな顔が目に入って来て、それから視界が塞がった。視界というより、口が塞がった。
 ――キスされた、って気付いたけど。

 うん、やっぱり全然気持ち悪くない。だっていくらジュリエラの魂を持ってても男とキスするなんてどうなんだろう、って思ってたのに。

「ネイビスだと、気持ち悪くないよ」

 嬉しそうに笑ったネイビスは俺の肩辺りに顔を埋めて――実に健やかな寝息を立て始めた。
 うん、そうだと思ってました。

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