前世の恋人と再会したら立場が逆転してたんだけど

ナナメ

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赤目が出た

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 大がかりな捜査にも関わらず赤目はなかなか出て来ない。本来好戦的で獰猛だから、そこら辺の魔物を食い散らしててもおかしくない筈なのにそんな様子もない。本当にいるのか疑いたくなるけど、そうじゃなかったら一定層から出てない筈の魔物達が別の層に出て来てるのがおかしい、って。赤目じゃないとしたら、他の原因を探るのも俺達の今回の任務だ。

 幸い今回は今の所ドラゴンが出て来る様子はなく、深部に普段から生息してる魔物しかいない。深部の魔物は個々が強いので群れたりしないのが特徴だ。別種同士の戦いの場に遭遇してもSランクが2人もいるチームで苦戦する事はまずないから俺としては気楽なもんだ。油断はしないけど。また横からフォレストオーロックスの一撃とか食らいたくないもんな。

 そうやって全員で油断なく森を歩いている時だった。
 ザワッと全身が総毛立つような恐ろしい程の殺気。無言で「止まれ」ってハンドサインを出したギルドマスターに従って全員が木や岩の陰に身を隠す。
 浅部だったならきゅいきゅいとツノウサギとか弱い魔物が街道に飛び出して行きそうな程の殺気に、体がピリピリとする。何かがいる、って本能が警鐘を鳴らしてる。
 本来なら野鳥や魔物の鳴き声が響き渡る森が不気味な程静かで、俺の少しだけ浅い呼吸音が響いてしまいそうだ。隣にネイビスがいなかったらパニックになってたかも知れない。
 時間にしたらそんなに長い時間じゃなかったかも知れないけど、随分長く感じた時間の後は現れた。
 フォレストオーロックスのような見た目、だけど目が薄気味悪く赤い光を放っている同種の魔物より2周りくらい大きな体。吠える声も森全体を震わせる程だ。これは浅部まで届いてるんじゃないだろうか。
 今までどこに隠れてたんだってくらいの巨体に俺も含めて何人か固まって動けなくなってる。さっきの咆哮は“威圧”だ。格下はあの威圧で固まってしまうんだ。
 固まったまま頬を汗が伝った時、隣にいたネイビスに肩を叩かれて我に返った。他でも威圧にかからなかった人達が固まった人達を正気に戻らせながら同時に攻撃を開始する。

 魔法と弓が得意な冒険者は遠距離から、Sランクの2人は率先して赤目に。Sランクの2人と一緒に赤目を狙う冒険者と赤目のおこぼれを狙いにきた他の魔物を倒す冒険者で自然と別れ、俺はおこぼれ組に向かった。
 赤目の威圧に動けなくなるようじゃあっちにいても邪魔になるだけだからな。
 身体強化をかけてコソコソと倒れたり1人になる冒険者を狙ってたデッドウルフを何匹か狩り取った時。

「デュナ!こっち!」

 ロロアの緊迫した声に強敵が来たのかって向かった途端……。

「え……っ、ちょ……!?」

 煙幕の中に引きずり込まれて口を塞がれる。叫んでもあの喧噪の中じゃ聞こえなかったと思うけど、当てられた布の下から大声で叫んだ。
 だけど次の瞬間、ひゅん、って内臓が全部上にいったみたいな感覚のあと地面に降り立った衝撃が来て、何が何だかわからないままロロアに抱えられ放り込まれたのはまだ喧噪が聞こえる近くの掘っ建て小屋。

「何するんだよ!」

「今みんな赤目に夢中だから、今しかないと思って」

「は?何の話――」

 どん、って床に倒されて埃が舞う。ついでに頭も打っただろ。何なんだよ!
 怒りを込めてロロアを見上げるけど、ロロアは頬を赤く染めて笑ってる。その目を俺は知ってる。俺を追いかけ回してた変態親父と同じ目だ。ねっとりとした熱を帯びる気持ち悪い目。

「ずっと狙ってたのにあの変態親父が余計な事するから、君の保護者達のガードが強くなっちゃって」

「痛……っ」

 そんな荒縄で縛るな!傷になるだろ!めちゃくちゃに手を動かしてみるけど、縛り上げられた上に片手で押さえつけられて。だからせめて足、と思ったら腰辺りに座られて動けない。
 外からはまだ爆音やら何やら聞こえてくるから戦闘はまだまだ終わりそうにないし、助けを呼んだって聞こえないだろう。

「やるなら誰も手が離せなくなる強敵が出て来た時がいいな、って」

 くす、と笑ったロロアの開いてる片手が胸の防具を外して服の隙間から入り込んで来る。

「いつもなら強敵が出たらデュナはお留守番だったから、討伐隊に入っててびっくりしたよ」

 お留守番だったら採取の時か家に遊びに行ってその時に、って思ってたのに、とか訊いてもいない計画をベラベラと話しながら服をはだけさせてしまう。外気に晒された胸が急な温度差で反応して固くなってしまうのを見てロロアが嬉しそうな顔をした。

「ほら、デュナだって期待してる」

 最初はロロアとは仲間だ、ロロアがこんな事するわけない、何かの間違い、もしくは作戦かも知れない、ってどうにか納得のいく答えを探そうとしてたんだけどそれを聞いた瞬間、ブチッ、と頭の中で何かがキレた。

「んなわけあるかーー!!」

 身体強化で押さえつけられてる腕を跳ね退けて、その反動で起き上がった体勢のまま鳩尾に一撃入れる。ぐは、なんて唾を飛ばしながら吹っ飛んだロロアがまだ動くから、とどめに股間に杖で一撃入れてやった。流石に股間の時は身体強化かけなかったけど、腰を上げた情けない姿のまま悶絶してたロロアから呻き声が聞こえなくなった所で俺の手に巻きやがった荒縄を逆にロロアの腕に巻きつけて、ついでに余ってる他の荒縄も持って来てグルグル巻きにして、んふー、と満足気に息を吐く。

 昨日一瞬注意された記憶がネイビスの指ちょん、で吹き飛んだけど、後からちゃんと理由聞いてたんだよね。
 ロロアは新人冒険者を食い物にしてる疑惑がかかってるって。しかも写真を撮って訴えられないように脅しをかけてるから被害者が揃って口を割らないらしく。
 それでも疑惑が出たって事は脅しに屈さずに訴えた子がいたって事で、でもロロアが捕まってないのは爵位は高くないけど一応貴族の血筋だからなんだって。とはいえ継ぐ爵位もない五男だから何の権利もないけど、それでも平民と比べたらそりゃ一応貴族出のロロアの方が優先されてしまうんだろう。

 で、ロロアの行動からして今狙われてるのは俺だから、って「俺はずっと言ってるんだけどなぁ、このバカに」なんてフランツのため息と一緒に聞かされた。

「デュナ!」

 ひとまずこの恥ずかしい体勢でも写真に撮っとくか?なんて魔法を展開しかけた時鍵をかけられてたらしい扉を蹴り開けてネイビスが入って来る。
 その瞬間物凄く安心してしまった自分がいて、ああもうやっぱり、って。いやまだ認めたくないけど。下になるなんて信じたくないけど。でもこういう事するならネイビスがいいな、て思った。

「大丈夫。何もされてないから。それより赤目は?」

「倒した」

 ぎゅ、っと抱き締められて今更ながら震える体をネイビスの大きな手の平がゆっくり撫でてくれた。

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