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お約束の2人で過ごす山小屋
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こういうシチュエーション、知ってる。
突然の雨に打たれて、とか崖から落ちて怪我して、とかそんなんで偶然見つけた洞窟とか山小屋に一泊して2人の絆を深めるイベントだ。昔ジュリエラに勧められて読んだロマンス小説にもよく出て来た奴だ。
でもまさか雨に打たれた上に崖じゃないけど崖に近い傾斜を転がり落ちて大怪我した人間と過ごすイベントになるとは思わなかった。しかも偶然見つけた洞窟とか山小屋じゃないし。
この狩猟小屋は結構使われてる場所だから明日改めて救助信号弾を上げればフランツ辺りが気付いてくれる……と信じたい。
一応ネイビスが持って来てたポーション3瓶飲んである程度の傷は治ったし――俺のはフォレストオーロックスの一撃で全部割れた。強化ガラスなのに怖い――、あとは診療所で残りの怪我を治してもらうだけで良い。治癒魔法は治癒師にしか使えないからやっぱりパーティーに治癒師欲しいな。
折れた骨は治ってないらしくてズクズクと疼くように痛む。いや、ほんと痛いわ。泣きそうだわ。
ネイビスが綺麗に浄化をかけてくれたベッドも硬くて痛いし、痛まない体勢を探すのにモゾモゾ動き回るだけでも痛い。
ちなみに、こういう時ありがち。掛布の下は裸です。普通下着くらい残さないか!?って文句言ったけど問答無用で脱がされて、肋骨折れてなかったら生娘みたいな悲鳴をあげる所だったわ!真っ裸に固定の布は当ててあるけど、余計何か卑猥な感じになってて嫌なんだけど!
しかもな!何が酷いって自分は下着脱いでないんですよ!確かにフリチンで看病されたら記憶抹消の為に意識飛ばす自信あるけども!ただはいてたらはいてたで、そのこんもり重そうなそこが気になるわけですわ!もう俺に目隠しして欲しい!それもまた何のプレイだって話だけど。
狩猟小屋の裏にあった薪で囲炉裏に火をつけて、火の粉が飛ばない箇所に服をぶら下げるネイビスを眺めた。
見たくないんですけどね、痛みが少ない向きが丁度ネイビスがいる側なんですよ。目を閉じたら良いんだろうけど、何となく手際が良いな~、ってつい眺めちゃってて。
そういやネイビスはずっとソロだったんだもんな。俺も1年はソロだったけど、孤児院近くで採取しかしてなかったからこんな非常事態に遭遇したのは初かも知れない。
フランツ達と出会ってからは戦闘が必要な依頼も受けるようになったけど俺が前に出なくて済むようにしてくれてたし、無理のない所で撤退してくれてたし。野営も魔物避けの香を焚いて安心して過ごせてたし。
「悪かったな。お前を守る役目を任されてたのに」
「いや~、あれは仕方ないって。サンダードラゴンなんて出て来ると思ってなかったし、視界最悪だったからな」
でも1人だったらあれ退治出来ただろ?って訊いたら、ネイビスは少し考えて首を捻った。
「周りの被害を考えなければ倒せない事もなかったかも知れねえけど」
サンダードラゴンだけじゃなく周りも吹き飛んでたかも、なんて言うから渇いた笑いしか出て来んわ。
「……お前に怪我させちまった」
あれ、もしかしてコイツしょぼくれてんのか?
出会って間もないけど珍しい表情に目を丸くしてしまう。頬に触れる手はいつかと同じく冷たくて、でもあの時は冷たい飲み物を持ってたからだった。今日は冷たい上にちょっと震えてて思わずその手に自分の手を重ねる。
「あ、いて……っ」
「バカ、無理して動くな」
重ねた俺の手を元の位置に戻したパンイチ男は、そのままぽす、と俺の横に頭を乗せて至近距離で見てくるから心臓に悪い。お前俺をドキドキさせてどうする気だ!?折れた骨に響くだろうが!
でも何だか垂れ下がる犬耳が見える気がして、ネイビスだというのに可愛く思えてしまう。
「息してるな」
「してなかったら死んでるだろうが」
至近距離で鼻息でもかかるのか、ふ、って安心したように微笑むから頬が赤くなってしまう。鼻息かかるの恥ずかしくて息止めそうになるからやめろや!
何なんだよ、って言おうとして気付いた。
ジュリエラは最期の時、本当に俺が死んでるのかを知らないまま命を絶った。あの時のロメリオは本当に死んでたけど。
「ちゃんと生きてるよ」
今はちゃんと生きてる。
また頬に当てられた冷たい手に困惑はするけど嫌な気がしないのはネイビスには秘密だ。調子に乗りそうだから。俺の中ではまだ、恋する相手は100年前と関係ない相手、っていう選択肢が残ってるからな!
「……何で男に生まれたか訊いたよな」
そんな思いを読んだわけでもないだろうに急に言われてちょっとびっくりしながら頷いた。
「あの時の俺は守られるしか出来なかった。でも本当は――」
本当は俺達と一緒に戦場で戦いたかった、って。
「お前に守られるだけじゃなくて、お前を守れる人間になりたかった」
最期にそう願った、って頬に添えられていた手がする、と濡れたままの髪を梳く。
大きな男の手だ。100年前のジュリエラのたおやかな小さな手と全然違うゴツゴツしたたこだらけの男の手。だけど髪を梳くその優しさだけがジュリエラを彷彿とさせる動きで何度も俺の頭を往復する。
その時初めて俺は思ったんだ。
俺がジュリエラ以外を選べるように、ネイビスだってロメリオ以外を選ぶ権利があった事を。それなのに借金を返しながら俺を探してくれていた、その本気の想いにバカな俺はようやく思い至った。
突然の雨に打たれて、とか崖から落ちて怪我して、とかそんなんで偶然見つけた洞窟とか山小屋に一泊して2人の絆を深めるイベントだ。昔ジュリエラに勧められて読んだロマンス小説にもよく出て来た奴だ。
でもまさか雨に打たれた上に崖じゃないけど崖に近い傾斜を転がり落ちて大怪我した人間と過ごすイベントになるとは思わなかった。しかも偶然見つけた洞窟とか山小屋じゃないし。
この狩猟小屋は結構使われてる場所だから明日改めて救助信号弾を上げればフランツ辺りが気付いてくれる……と信じたい。
一応ネイビスが持って来てたポーション3瓶飲んである程度の傷は治ったし――俺のはフォレストオーロックスの一撃で全部割れた。強化ガラスなのに怖い――、あとは診療所で残りの怪我を治してもらうだけで良い。治癒魔法は治癒師にしか使えないからやっぱりパーティーに治癒師欲しいな。
折れた骨は治ってないらしくてズクズクと疼くように痛む。いや、ほんと痛いわ。泣きそうだわ。
ネイビスが綺麗に浄化をかけてくれたベッドも硬くて痛いし、痛まない体勢を探すのにモゾモゾ動き回るだけでも痛い。
ちなみに、こういう時ありがち。掛布の下は裸です。普通下着くらい残さないか!?って文句言ったけど問答無用で脱がされて、肋骨折れてなかったら生娘みたいな悲鳴をあげる所だったわ!真っ裸に固定の布は当ててあるけど、余計何か卑猥な感じになってて嫌なんだけど!
しかもな!何が酷いって自分は下着脱いでないんですよ!確かにフリチンで看病されたら記憶抹消の為に意識飛ばす自信あるけども!ただはいてたらはいてたで、そのこんもり重そうなそこが気になるわけですわ!もう俺に目隠しして欲しい!それもまた何のプレイだって話だけど。
狩猟小屋の裏にあった薪で囲炉裏に火をつけて、火の粉が飛ばない箇所に服をぶら下げるネイビスを眺めた。
見たくないんですけどね、痛みが少ない向きが丁度ネイビスがいる側なんですよ。目を閉じたら良いんだろうけど、何となく手際が良いな~、ってつい眺めちゃってて。
そういやネイビスはずっとソロだったんだもんな。俺も1年はソロだったけど、孤児院近くで採取しかしてなかったからこんな非常事態に遭遇したのは初かも知れない。
フランツ達と出会ってからは戦闘が必要な依頼も受けるようになったけど俺が前に出なくて済むようにしてくれてたし、無理のない所で撤退してくれてたし。野営も魔物避けの香を焚いて安心して過ごせてたし。
「悪かったな。お前を守る役目を任されてたのに」
「いや~、あれは仕方ないって。サンダードラゴンなんて出て来ると思ってなかったし、視界最悪だったからな」
でも1人だったらあれ退治出来ただろ?って訊いたら、ネイビスは少し考えて首を捻った。
「周りの被害を考えなければ倒せない事もなかったかも知れねえけど」
サンダードラゴンだけじゃなく周りも吹き飛んでたかも、なんて言うから渇いた笑いしか出て来んわ。
「……お前に怪我させちまった」
あれ、もしかしてコイツしょぼくれてんのか?
出会って間もないけど珍しい表情に目を丸くしてしまう。頬に触れる手はいつかと同じく冷たくて、でもあの時は冷たい飲み物を持ってたからだった。今日は冷たい上にちょっと震えてて思わずその手に自分の手を重ねる。
「あ、いて……っ」
「バカ、無理して動くな」
重ねた俺の手を元の位置に戻したパンイチ男は、そのままぽす、と俺の横に頭を乗せて至近距離で見てくるから心臓に悪い。お前俺をドキドキさせてどうする気だ!?折れた骨に響くだろうが!
でも何だか垂れ下がる犬耳が見える気がして、ネイビスだというのに可愛く思えてしまう。
「息してるな」
「してなかったら死んでるだろうが」
至近距離で鼻息でもかかるのか、ふ、って安心したように微笑むから頬が赤くなってしまう。鼻息かかるの恥ずかしくて息止めそうになるからやめろや!
何なんだよ、って言おうとして気付いた。
ジュリエラは最期の時、本当に俺が死んでるのかを知らないまま命を絶った。あの時のロメリオは本当に死んでたけど。
「ちゃんと生きてるよ」
今はちゃんと生きてる。
また頬に当てられた冷たい手に困惑はするけど嫌な気がしないのはネイビスには秘密だ。調子に乗りそうだから。俺の中ではまだ、恋する相手は100年前と関係ない相手、っていう選択肢が残ってるからな!
「……何で男に生まれたか訊いたよな」
そんな思いを読んだわけでもないだろうに急に言われてちょっとびっくりしながら頷いた。
「あの時の俺は守られるしか出来なかった。でも本当は――」
本当は俺達と一緒に戦場で戦いたかった、って。
「お前に守られるだけじゃなくて、お前を守れる人間になりたかった」
最期にそう願った、って頬に添えられていた手がする、と濡れたままの髪を梳く。
大きな男の手だ。100年前のジュリエラのたおやかな小さな手と全然違うゴツゴツしたたこだらけの男の手。だけど髪を梳くその優しさだけがジュリエラを彷彿とさせる動きで何度も俺の頭を往復する。
その時初めて俺は思ったんだ。
俺がジュリエラ以外を選べるように、ネイビスだってロメリオ以外を選ぶ権利があった事を。それなのに借金を返しながら俺を探してくれていた、その本気の想いにバカな俺はようやく思い至った。
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