前世の恋人と再会したら立場が逆転してたんだけど

ナナメ

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家を買った

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 あの後ネイビスは本当に1人でフレアドラゴンを狩って借金を返し終えた。凄すぎる。
 で、俺達はというと今古い家具を捨てて新しい家具を搬入してもらっている所である。何故なら家を買ったからだ。
 住む家は当然あの日記があった元幽霊屋敷。日記の話をしたら2人共えらく興味を持って、だったら一度その家に住んでみよう、って事になったんだ。どっちにしたって赤目退治が終わらないとギルドマスターがフランツ達を放してくれるはずないし。
 古臭さくて修繕が必要なのと、元幽霊屋敷だったのと、掃除を完了できたのが俺達だけだった、って理由で相場の三分の一程度の格安で手に入れた屋敷は部屋数も多く俺達4人だけで住むには少し勿体ない。
 まあその内赤目退治が終わったらまたよその街に移るかもしれないし、その時はまた売りに出すだけだ。
 ただ格安なのは良いんだけど、修繕とゴミ処理は自分達でやってね、って事で俺はひたすら外に投げ出される古い椅子達を魔法で燃やし続けている。

 う~ん、こういう時は何の間違いもなく魔法発動出来るのになぁ。どんどん積み上がる消し炭をさらに綺麗に消し去ってため息を1つつく。
 今日もフランツとイツカは赤目探しだ。ギルドマスターはネイビスも連れて行きたがってたけど、イツカに断られて渋々納得してた。
 理由は俺のこの見た目なんだよな~。俺を付け狙う変態がいるのも事実だ。一応もうイツカにボコられた上で捕まったから大丈夫だって思うんだけど。
 キンバリーの時からイツカは少し心配性なんだ。俺だってね、やる時はやりますよ。あの変態野郎に襲われかけた時も咄嗟に杖で殴っちゃったけど、その後股蹴り上げたのも俺だよ。それ以上にイツカはボコボコにしてて流石に止めたけど。
 フランツはあんまり感じないけど、やっぱりイツカにも100年前の記憶に引きずられてる所は有ると思うんだ。キンバリーはジュリエラが来るまでロメリオの護衛もしてたし。後は今世の俺が何故かこんな弱々しい見た目をしてるのも問題なんだろうけど。
 そう思いながら振り向けば職人と一緒になって屋敷の修繕をしてるネイビスが視界に入る。防具に包まれてた下の体はやっぱり芸術品みたいに綺麗な筋肉がついていて、何だったらロメリオよりも体が出来上がってるかも知れない。
 
 今日の職人みたいな袖のない服を着てると腕の筋肉の盛り上がりも、胸の筋肉の付き具合も良くわかる。頭にタオルを巻いてるけど頬を流れる汗が謎の色気を出してきてうぐ、と変な声が出た。不意に宿屋での事を思い出したからだ。

 ――俺が相手に選ぶとしたらコイツしかいねぇから

 かぁ、と頬に熱が集まるのがわかった。
 俺だってネイビスに会うまではそう思ってたよ。相手はジュリエラしかいないって。でもさぁ、でもさぁ……!
 職人に交じって木を担ぐその姿が何か無駄にキラキラしてる。幽霊屋敷に住人が?って不思議に思ったらしい近隣住民がネイビスのキラキラぶりにきゃあきゃあ言いながら集まって来てるし。

 俺は杖の先にある薄青い魔石に映る自分の顔を見た。魔石は角ばってるから勿論変な顔にしかならないんだけど、薄ピンクの髪は何だか俺の思うかっこいい男の色ではない。自然と色付く頬と唇、バサバサの睫毛は女性陣から羨ましがられるけど俺はそんな物より男らしい筋肉が欲しかった。

 そしたらネイビスに“下”になれなんて……。

「ぎゃーー!!やめやめ!!そんなの絶対ダメ!信じない!!」

 かと言ってネイビスを組み敷く未来も信じられないんだけど。
 となると答えはおのずと狭まってくる。このまま過去に取りつかれてジュリエラを思いながら独り身でいるか、ジュリエラの魂を持つ今世のネイビスと添い遂げるか、全く100年前とは関係のない相手を選ぶか。
 
 ん?そういやそうだな。何もネイビスだけが選択肢じゃないじゃん。確かにジュリエラにこだわってここまで来たけど、ジュリエラが今世で元気過ぎるくらい元気に過ごしてるのがわかったんだから別の誰かとくっついたって良いよな。
 たまたまユマニエルとキンバリーが前世通りくっついてたから俺も、って思っちゃったけど。

「何を1人で騒いでんだ」

「ぎゃーー!!?」

 ぴと、って顔に冷たい物を押し付けられた驚きと、さっきまで離れた場所にいた筈のネイビスの声がした事への驚きで2倍驚いた悲鳴を響かせる。職人さん達が「今日もデュナは元気だな~」なんて微笑まし気に見てくるのがいたたまれない。

「ちょっと休憩にするんだと」

「きゅ、休憩!そ、そ、そうだな!ずっと働き詰めだもんな!」

 何でか謎に浮気した気分になって挙動不審になる俺を不思議そうに見つめながら、用意してあった飲み物を渡してくれる。

「日陰、行くぞ」

「ひぎゃ……!」

 今度の悲鳴は何とか飲み込んだ。
 だって急に俺の頬に触るから!!びっくりするってもんだろう!何!?って訊いたら、ちょっと日焼けしてる、って。帽子でも被っておくべきだったか……。
 しまったな~、なんて思いながら日陰に入ると同時にネイビスの両手で頬を包まれる。

「ぎゃーー!!」

 今度は飲み込めなかった悲鳴に一瞬顔を顰めたネイビスだったけど両手は離さない。一気に頬に熱がぐわぁぁと集まってしまう。
 一体何なんだよ!?職人さん達は「おやおや」なんてやっぱり微笑まし気に見て来るし!
 あれ、でも……頬がひんやりして気持ち良い。恥ずかしさに熱が上がってるから尚更だ。思わず黙ってされるがままになってたら、にやりと笑ったネイビスに

「そんな擦り寄るくらい、気持ち良い?」

 って耳元でいつもより低音ボイスにして囁かれたから

「良いわけあるかーー!!」

 って叫んでその手を振り払ったのだった。

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