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無事屋敷から出られた

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 あの後何となく再度浄化をかけたら何と見事浄化は成功して、普通に玄関も開いて俺達は依頼を達成してしまった。今まで誰も達成しえなかった依頼を達成した事で俺のランクも最低のFからEに上がってホクホクしたままネイビスを連れて宿屋に戻ったんだけど、先に戻ってたイツカから案の定頭を引っ掴まれてしまう。

「いたたたたたたた!!!ごめんなさい!」

「本当にこの鳥頭は……もしかしてあれかな?3歩どころか1歩目で忘れるのかな?勝手に依頼受けるなって言ったつもりなんだけど」

「でもほら、見て!わかるでしょ、ジュリエラ見つけたんだ」

「うんうん、その話は後でね。お仕置きが先ね」

「いやぁぁぁぁぁぁ!」

 襲われる生娘みたいな悲鳴に宿屋の食堂は爆笑に包まれる。ある意味いつもの光景だからここを拠点にしてる奴らには毎度お馴染みだ。
 ……俺そんなにやばい事してるつもりないのにな~。
 なんて心の中で文句垂れた事に気付かれたかいつもの倍握りしめられてやっと解放された。

「止めてくれよフランツ~……」

 痛む頭を抱えながら訴えるけど返って来たのは欠伸だけ。ほんと酷いうちのパーティー。
 ムス、としてたら自分の宿に戻るっていうのを無理矢理引っ張って来たネイビスに2人の目が向いた。
 ジュリエラと似ても似つかないこの大男が彼女だと2人も分かったんだろう。少し複雑そうな顔になる。
 それはそうだ。止められなかった俺も不甲斐なかったとは言え、この2人はジュリエラ暗殺犯として処刑されたんだから。その本人はただの仮死状態だった、って知ったらもっと複雑になるかも知れない。

 ひとまずは運ばれてきた料理に集中しようと誰もその事に触れないまま、誰からともなく料理に手を伸ばした。
 この店の蒸し鶏のシチューは俺のお気に入りだ。何でかって孤児院にいた頃、年の始まりを祝う日にだけ出されるご馳走だったからだ。
 あとはエッグベネディクトにサラダとソーセージ。討伐依頼のあった日ならともかく、今日はそこまで体力使ったわけじゃないからこれで充分。俺の体が未だにひょろひょろなのは孤児院育ちで胃袋が小さい所為もあると思う。
 逆に討伐依頼をこなして来たらしいフランツとイツカはブタマジロンの丸焼きとツノウサギの串焼き、白銀魚のムニエルにマッドベアの肉を挟んだ巨大なパン。ついでに酒。見てるだけで胸やけしそう。
 というか俺と同じ掃除しかしてない筈のネイビスも似たり寄ったりのチョイスで、俺達のテーブルには何人前?ってくらいの料理が並んでいる。

「それで結局赤目はいたのか?」

 食事が半分くらい済んだ頃気になってた事を訊いてみた。

「いや、今日の所は見当たらなかったな」

 何杯目かのエールを飲みながら答えるフランツの眠そうな榛色の目がつい、とネイビスに寄せられる。自己紹介から先、まだ一言も話していない。

「見た所高ランクっぽいけど、お前パーティーは?」

「組んでない」

「ソロでSランクだって。すごくないか?」

 え、何で空気ぴりぴりしてんの?いや、フランツはわかる。だって濡れ衣で処刑された。ジュリエラが望んだわけじゃないから恨むのは筋違いだけど、それでも思う所はあるだろう。
 でもネイビスは何でピリついてんの?

「へえ……」

「そっちこそ、高ランクっぽいのに何でこいつはこんな低ランクなんだ?」

 こいつって俺か!やかましいわ!ほっといてくれ!
 簡単な討伐依頼でもふとした時に思い出す剣士としての記憶が邪魔して、2人がいないと依頼達成出来ないから俺のランクは上がらないんだ。あ、でも今日上がったんだった。2人に報告しなきゃ。

 あの、あの……と口を挟もうとする俺に構わず目の前の2人はバチバチしてる。何なのこれ、何でこんな空気なの?
 困惑しながらもう一度あの、と口を開いた所でイツカがブハッと噴き出してそのまま大爆笑してる。いや、それも一体何なの?

「あ~おっかしい。君、僕らがデュナの手柄ピンハネしてると思ってる?」

「……違うのか」

 灰色の瞳を丸、っと開くネイビスは本気で疑ってたみたいだ。

「ないない、他のパーティーにいたらやられてたかもだけどさ」

 僕らの正体わかってるんでしょ、と問われて小さく頷く。

「魔力量に対してランクが低いのは何でだ?」

 それには俺がうぐ、と言葉を詰まらせる。
 イツカは大爆笑の名残で浮かんだ涙を指で拭いながら俺の頭をガシ、っと掴んだ。イツカさん、手大きいよね……。俺の頭が小さいのかな……。

「ロメリオが剣聖って呼ばれるくらい強かったのは知ってるでしょ。いざって時にその時の記憶が出ちゃうんだよねぇ……」

 そういう事か、って納得して俺を憐れむような瞳で見るのはやめてくださいませんかね。
 それとフランツは何でピリついてたんだ。

「フランツもさ~、相手ジュリエラなんだから僕に興味がないことくらいわかるでしょ」

「キンバリーには懐いてただろ」

「100年前の話だよ」

「ヤキモチか!痛ぇーー!!」

 蹴らなくても良くない!?フランツもたまに狂暴なんだよな。
 はい、これで話おしまい!ってまだ笑いを残したままのイツカに言われてようやくピリピリ感はなくなった。フランツの耳が僅かに赤いのは酔いの所為じゃないだろう。でもそこ突っ込んだらまた蹴られそうだからやめておく。

「俺が相手に選ぶとしたらコイツしかいねぇから」

 ん?と見ればネイビスにコイツ、と親指で指されているのは俺だ。
 なら安心だ、なんていつもの眠そうなフランツに戻ったのを見届けながら頭の中には「?」が沢山浮かぶ。
 相手に選ぶ?俺を?
 屋敷で最後に話した事を思い出す。

 ――俺は“下”になるつもりないから。俺ともう一度そういう仲になりたきゃ“下”になる覚悟してからにしな

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」

 またも響いた俺の悲鳴に、周りの冒険者から「おいまたデュナかよ、うるせぇぞ」と笑い声と共に野次が飛んだけどそれどころじゃない。
 俺は、俺は……ジュリエラに会いたかった。勿論恋人になりたかった。でもそれは俺主導で、だったのに!

 サッとイツカの後ろに隠れる俺に

「何だ兄ちゃんデュナ口説いてんのか」

「こいつは過去の恋人が忘れらんねぇっつって全っ然靡かねえって有名なんだぜ」

「お~い!この兄ちゃんデュナ狙いだってよ!お前らどっちに賭ける!」

 さらに煩くなった野次にうるさい、と怒鳴ったけど勿論冒険者を生業にするような奴らがその程度で止まるわけもなく、散々にからかわれてテーブルに突っ伏したのだった。

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