前世の恋人と再会したら立場が逆転してたんだけど

ナナメ

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帰らなかったら怒られる

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「ぎゃーー!!閉じ込められたって何!?何で!?何かした!?」

「耳元で叫ぶなうるせぇ」

 もう相手が前世ジュリエラとかそんな事は頭から吹っ飛んでネイビスの体をよじよじと登って首に腕を、腰に足を回してしがみつく。やっぱ来るんじゃなかった!街の中だし掃除だし、ちょっと怖いけど何とかなるかな~なんて思ってた少し前の俺を殴ってでも止めたい!

「浄化で何とか出来ねえなら普通に掃除するしかないだろ」

「嘘、この状況で依頼優先!?バカなの!?」

 普段バカと言われる俺でも言いたくなるバカ加減だ!

「ドアは開かねぇ、窓は割れねぇ。外に出る術がないんだから依頼通り掃除するしかないだろ。そもそも今までの奴らは掃除はしたけど途中で逃げたって話だし」

 なるほど。つまりこっちが依頼を達成しようとする素振りを見せたら良いわけだな?浄化なんて反則したからダメだし食らったって事か。我儘な幽霊だな!幽霊かどうかわかんないけど。

「まずは2階からか」

「何で玄関から遠ざかろうとするの!?やっぱバカなの!?」

 さっき俺も2階からしようとしたけど、あれは閉じ込められるなんて思ってなかったからだし!
 掃除始めたら途中放棄許してくれるなら何も玄関から離れなくても良くない!?って思ってるのに俺を体にくっつけたままネイビスはさっさと目の前の階段を上がっていってしまう。
 流石元貴族の別荘だけあって玄関ホールのすぐそこに立派な階段。昔は絨毯とか敷いて綺麗にしていたんじゃないかな、って感じだけど今は石畳が剝き出しだ。
 2階もどうにか掃除をしようとしたのか椅子が廊下に出ていたり古びた箒が立てかけてあったりするんだけど、どうしてか全部ドアが閉まってるのがまた怖い。

「いい加減離れろよ」

「やだ怖い」

「……お前パーティー組んでんだろ?夕方までに戻らなかったら心配されんじゃねえの」

 言われてハッとする。
 魔物が出る場所には来てない。でもその時は分からなかったとは言え、得体の知れない依頼を受けてしまった上に2人が戻ってくるまでに俺が宿屋に戻ってなかったら……。

「イツカに頭握り潰される……!」

 この鳥頭が!ってやられる光景がありありと脳内に浮かんでしまう。
 頭?と訝し気なネイビスから降りて、ここにある一掃きでバラバラになりそうな箒じゃなくとりあえず持ってきてた箒を手にした。便利だよね~。マジックバック。どうやって入ってんの、って長さの物も普通に出て来るから。
 
「高いとこ届かないからお前窓担当な」

 そこにあった縁が欠けたバケツはまだ使えそうだから魔法で水を溜めて、はい、と雑巾を渡す。何をするにしたってまずはこの埃と蜘蛛の巣を何とかしないと始まらない。
 きゅうにキビキビ動き出した俺に未だ訝し気な顔をしながらも、雑巾片手に窓を拭き始めたネイビスはやっぱり腹立つくらい背が高い。俺なんか窓の半分くらいしか届かないだろう。
 よし、とやる気を出した理由なんて決まっている。幽霊なんかよりもイツカの握力の方が怖いからだ。とにかくやれるだけやってどうにかここから出してもらって二度とこの依頼を受けないようにしないと!

 まずはこの部屋、と開けた部屋は別邸に来た時の誰かの私室だったのだろう。一昔前に流行った調度品にボロボロになったベッドシーツ。本棚には朽ちかけた本がそのまま残されている。ここを使っていた誰かはこの屋敷を手放す時に荷物を持ちださなかったのだろうか。

(……本当に殺人事件とかあったなら丸ごと捨てたと思わなくもないけど……)

 そう思うとちょっとぞわっとなって大人しく窓を拭いているネイビスを振り返る。

「ちょっとこっち来てー」

 良く考えたら1人で部屋の中にいて閉じ込められたら困るし、お前も道連れだ!あとシンプルに怖い!
 何だよ、とブツブツ言いながらも部屋に来てくれるこの大男は案外優しいのかも知れない。
 ジュリエラも優しかった。目の前で困っている人がいればそれが平民だろうがお構いなしに手を貸すくらいに。ちら、と見れば何度見ても金髪灰眼の長身美青年だ。姿形にジュリエラの面影なんて1つもない。

「……お前、どうして俺がロメリオだってわかった?」

「何となく」

「というか、どうして100年前の記憶があるんだ」

「そりゃお互い様じゃねえの?」

 うんソウダネ。
 俺の場合は頭を打って何故か思い出した。フランツ達は俺に引っ張られたみたいな感じで思い出した。でもあの時側にいなかったネイビスは何で思い出したんだろう。

「……子供の頃から俺じゃない誰かの記憶があるのはわかってた」

「子供の頃から……」

 普通の街の普通の家に生まれたネイビスには子供の頃からジュリエラの記憶があったんだとか。だから子供ながらに博識な我が子を気味悪がった両親に半ば追い立てられるような形で王都の全寮制の学校に行かされた。
 勿論学費なんて払える裕福な家なんかじゃなかったから、学費を支援してくれる制度を使って学校に通って。でも高額な学費は未だネイビスに圧し掛かっているらしい。
 それで冒険者をして学費を返している最中なんだそうだ。ただ訊けばソロですでにSランクだって言うから、ソロのSランク冒険者が未だ借金持ちとか正直どれだけ学費が高かったのかって戦慄するわ。

「……せっかく学校まで出たのに、冒険者とか……もっと他に安全に稼げる職があるんじゃないのか?」

 どちらにしても孤児の俺には縁のない話だったからそこら辺良くわからないんだけど。
 孤児だったと言ったら一瞬驚いた後、ふ、と諦念を覗かせる笑顔を見せる。

「官職なんて柄じゃねえし、騎士団なんて規律を守れる気もしねえ。どっかのお偉いさんに頭下げて従者すんのもごめんだ。……俺は二度と偉い奴とは関わらねえ」

 何で?って訊ける雰囲気じゃなくて俺は口を噤んだ。
 
 
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