【完】真っ白な黒

ナナメ

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番外編2 初めての夜 R18

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親公認の仲になって、裕司の養子になって、同じ家に住むようになって。それなのに裕司が真希を求めてくることはなかった。

いや、一緒に暮らすようになってすぐの頃一度だけ深い深いキスをした。その時裕司の雰囲気は雄のそれだったし真希も相手が裕司なら、と思って委ねていたのに裕司は急にパッと離れてしまって。

「なんで…?」

散々他の男に穢された体だからなのか、そんな卑しい子供は相手に出来ないのか、ときっと真希は泣きそうな顔をしたと思う。しかし裕司は

「他の男と同じにはなりたくない。だから君が成人するまでは絶対手を出さない」

そう誓った。

本当は今すぐにでも裕司の物になりたい、裕司に愛されている証を刻まれたい、そう思ったけれど裕司が真剣に真希の事を考えてくれていると知ってそれはそれで胸が暖かくなって。

それ以来フレンチキスはするけれどディープなものはなくなった。







あれから3年。真希は20歳になった。誕生日は二ヶ月前に過ぎている。それなのに裕司は未だ何もしてくれなくて、あの約束はもう忘れてしまったのか、やっぱりこんな汚い自分など魅力を感じないのか、もしかしたらそういう意味で“欲しい”と思っていたのは自分だけなのか。

この二ヶ月一人悶々と悩んでいた。

「誘惑してみなよ」

ポテトをかじりつつ言われた一言にバニラシェイクを吹き出しかけて何とか飲み込んだけれど、激しく噎せてしまう。

おい、大丈夫か、と声をかけてくるのは学園祭で真希のメイド服写真をたかられた眼鏡男子のモブオ君、真綿 圍まわた めぐるだ。

真希と真央以外基本どうでもいい裕司にとって、その他の人間はみんなモブ。実は一目見てこの変装青年が裕司であると見抜いていた圍は噂の恋人が真希であると察した。

勿論他人に言いふらすような軽い口は持ち合わせていないから黙っていたが、真希の知らないところで隠し撮られた写真の数々を裕司相手に売り捌くくらいはしてのけた。
本人も与り知らぬ真希アルバムは年々増えている。

おかげで今ではモブオ君から真希の友達の圍君に昇格した。

「ゆ、誘惑って…!」

「いや、だってさ。一度はそんな雰囲気になったんでしょ?あと裕司さんが真希に何も感じてないとかあり得ないから」

真希に内緒の真希アルバムの事を教えてしまいたい、しかしそれでは自分の商売あがったりだ、と耐える。

「だってゆ、ゆ、ゆ、誘惑って…具体的に何をどうすれば…」

「裸エプロン?」

「無理!!」

裕司に見せる前に真央に見られたらどんな言い訳をすればいいのか。純粋な弟にそんなもの見せられない、絶対無理。

「案外効くのに…」

「やったのか!?」

「うん」

圍と仲良くなったのは高3。初めて同じクラスになったとき互いに何か感じるものがあったのだろう。それは他のクラスメイトには感じない、一種の闇のような部分。どちらからともなく近付いて話して、やがて互いの裏側を話す仲になった。

彼は無理心中した家族の中で唯一助かってしまったのだという。その時の圍は7歳。もう十分親に殺されかけたという事が理解できる年で、叔父に引き取られた時は完全に心を閉ざしてしまっていた。

叔父はそんな圍をゆっくりゆっくり包み込むように癒し、圍が刷り込み的に叔父に恋してしまうのも無理からぬ事だった。
なんやかんやと押し問答をしているうちにほとんど圍に押し切られる形で恋仲となり今に至る。

だから恋人が男だという二人は時折こうして――真希が悩みを話す事が多いが――、互いに想いを打ち明けあったりしているのだ。

それはのろけだったり愚痴だったりするけれど、他の人には言えない二人だけの秘密。

「…裸エプロン無理ならあれは?」

「あれ?」

「ベビードールとか」

「…それ、女性用の下着じゃないの…?」

「裸じゃないからいいじゃん」

「良くないし!てゆーか買えないし!」

「えー、じゃあもう枕にyesって書いとけば?」

「それ無視されたらオレ次の日どうしたらいいの」

「もー、それなら直に本人に聞いてみたらいいでしょ」

やっぱりそれしかないのか、でもそれはそれでやる気満々みたいでどうなんだ、いやでも…、とぐるぐる悩む真希に圍はため息をついた。







後日。

今日は真央が凛太郎の家に泊まりに行くから早く帰る、と告げたら親友はえらくにこにこしていて、家に帰ってからその笑顔の意味を知る事になった。

大学から戻り、そのまま真央を送って凛太郎の母親に挨拶をして。

そういえば課題が少し出ていたと帰って鞄を開けたら入れた覚えのない袋が入っていたのだ。

(?何だこれ)

袋には圍の字で

『I hope you'll enjoy the night!(楽しい夜を!)』

と書かれている。

嫌な予感がする、と慌てて包装を破れば案の定中に入っていたのは薄いサーモンピンクのレースがあしらわれたベビードールとショーツ、ご丁寧にガーターベルトとタイツまで。胸下辺りから大胆に開くようになっていて彼女に着て欲しい男性は多いだろう。

しかし自分は男だ、と突っ込みたい。こんな女性用の下着を着てみたところで相手が興奮するような柔らかな体は持っていないし、そもそもこのショーツでは少し動いただけでも色々見えてしまうではないか。

「うわぁ…」

女の子と付き合った事のない真希は初めて見る女性用の下着に興味津々で目の高さまであげてみる。これで何を隠せているのか、透け透けだ。

いや、でもこの透け感がたまらない男は多いのだろうか。確かにただ裸よりもこっちの方が奥ゆかしい感じがして背徳感があるかも知れない。

何となく自分の体に合わせて鏡で見てみたりして、

(いやいや、ないって!)

ズボ!と鞄にしまって、あ、課題やらなきゃ、と思いながらも手にとったのはまたベビードールで。

(…ちょっと、だけ…)

今なら裕司は笙子に拉致されていないし、真央も不在。一人だという安心感に魔がさした、と言う外ない。

もぞもぞ服を脱いで、心許ない範囲にしか布がないショーツをはいてみて、これどうやって着けるの?と試行錯誤しながらガーターベルトをタイツに繋げてベビードールを着た。恐る恐る鏡で確認して、

(似合わない…)

と苦笑い。

(それにしても女の人ってこんな下着で不安じゃないのかな…)

くる、と反転し鏡に映った自分の尻を見る。ほぼ布なんかなく食い込みそうな狭さが気持ち悪い。しかもこのベルトはなんの意味が、とほとんど本来の意味をなしていない飾りのガーターベルトを指で撫でた時。

「真希、帰ってる?」

「!!!」

思いの外近い位置で裕司の声が聞こえた。着替えている暇なんかなく、あったとしても動揺した頭では着替えようと思い付くこともなく布団の中へ逃げ込む。

「真希?」

物音はしたのに返事がないのを不審に思ったか、いつもならノックをしてから開くドアがノックなしに開いた。

(うわー!うわー!ど、どうしよう!)

ヤバイヤバイヤバイ!こんな格好を見られたら引かれる。絶対引かれる。とにかくこの場を乗りきらなければ、と必死に寝たふりをした。直前に明らかに走った音をさせておきながら寝たふりも何もないと思うがそれでも真希は必死だ。

「どうした、真希?具合でも悪いのか?」

キシ、とベッドが軋んで裕司がそこへ腰かけた事がわかる。その優しさが今は辛い。お願い、早くどっか行って、と布団に潜ってぎゅ、と目を瞑る。

「…何かあった?真希、顔を見せてくれ」

寝ていない事はバレバレなようで少し見えている頭を撫でる裕司は心配そうだ。

「な、何でもない、から!」

あぁ、声が裏返った。これでは何かあったと思われても仕方ない。

裕司はそんな真希の態度に不安を募らせていた。
元々我慢強い真希の事、多少辛いことがあっても押し隠して笑顔で過ごす。その彼がこうしてあからさまに何かを隠して布団に籠っている、こんなことは今までにない。

まさか裕司に愛されたい、と彼が悶々と悩んでいるなどとこっちもこっちでいつ真希に愛を刻んでやろうとタイミングをはかりかねて悶々としている裕司にわかるはずもなく、ただただ何かあったのでは、また変な男に目をつけられているのでは、そんな不安ばかりが膨らんでいって少々乱暴に真希の肩を揺すった。

「真希、お願いだ。顔を見せてくれ」

布団から本当にひょっこり顔だけ覗かせた真希は耳まで真っ赤になっていて明らかに様子がおかしい。熱でもあるのかと額に触れればビクッ、と怯えたように身をすくませる気配。

「ホントに何でもないから、ちょっと出といて」

「何でだ?…布団の中に何か隠してるのか?」

犬?猫?飼ってもいいから出しなよ、と見当違いの方向へ話を進めようとする裕司に

「違う違う!犬も猫もいないよ!えっと、な、何でもないけどちょっと出といて!すぐだから!」

どう頑張っても何か隠している風にしか聞こえない事を叫んでしまって、裕司が肩を落とすのがわかる。

「…わかった」

「あ…」

真希の中で裕司の存在は真央とはまた別の意味でとても大きい。その裕司に悲しげな顔をさせてしまった、と素直で無垢な真希は咄嗟に裕司の服の裾を握ってしまった。無意識だ。何も考えてはいない。

「真希…………」

だから振り返った裕司が唖然とした顔で動きを止めた時ようやく自分が上半身だけとはいえ布団から出てしまっていることに気がついて

「!…っ、…っ、うわーーーーーーーー!!!」

絶叫して今度は頭まで引っ込んだ。

「ちょ、真希?君、今、」

「何もない何もない!何も着てない!!いいから出てってーーーーー!!!」

うわー!うわー!と叫んでいる真希と同じくらい顔を赤くした裕司は破られた袋に気が付いて引っくり返す。そこには裕司も知る圍の字。

「…もしかしてそれ…僕の為?」

「違…っ、や、違わない?いや、でも違う!違わないけど違うんだ!お願い見ないで出てってよーー!」

「真希、…真希落ち着け」

わー!と叫び続ける裕司を布団ごと抱き締めて、頼む、落ち着いて、と撫で続ける事約10分。落ち着いたというよりは叫び疲れた真希が大人しくなる。

「出てきて」

「イヤだ」

「何で?よく見たい」

「やだってば!」

「出てきたらキスしてやる」

自分でも現金だと思うのだけれど、それを聞き布団から目だけ覗かせて裕司を見上げたらとても優しく笑っていてドキリ、と胸が高鳴ってしまう。

出てきて、よく見せて、とまた言われて

「キス、だけ…?」

精一杯の誘い文句。

ああ、せめて圍に何て言ったかだけでも聞いておけば良かった、そしたらもうちょっとそれっぽい事が言えたかも知れないのに。

真希は内心頭を抱えたけれどむしろその拙い誘い文句で裕司の理性はチリチリと焦がされている。

というかベビードールを着た真希がベッドの上にいる、とわかった時点で理性を遥か宇宙の彼方へぶん投げてやろうかと思った程だ。

いいのか?と問いかけたら、

「裕司こそ…、オレとしたくないんじゃないの?」

と返されて

「君、僕が今どれだけ我慢してるのかわかって言ってるのか?」

思わず憤慨。
この子はまだ自分が汚いだとか思っているんじゃないだろうな、と頭を過ったけれどそう思わせたのは恐らく自分にも非がある。成人するまで抱かない=成人したら抱く。そう言ったのは裕司だったのに、真希の誕生日を祝ってからもう2ヶ月だ。その間不安にさせていたに違いない。

真希にとってこの姿は本当にただの好奇心、裕司に見せるつもりなんかなかったのだけれど。

(我慢してるんだ…)

確かにその瞳の奥で、獲物を狙って燻る熱がゆらゆら見え隠れしている。それに気付いてしまえば着た甲斐があったのかも、と思ってしまえる程に裕司の事が欲しかった。愛されている証が欲しかった。

(オレ、どんどん欲張りになってる)

裕司に出会うまで大事なものは父と弟だけで、欲しいものなんて何もなかったのに。

そろ、と手を離したら同じくらいソッと裕司が布団を避ける。そのまま溶けてしまいたい程の羞恥で全身が熱くてたまらず、思わず体を縮めて丸くなる真希を宥めるように額に唇が降りてきて何度か触れて離れるのを不満げに見上げて。

「そこじゃない…」

子供に与えるような口付けが欲しいわけじゃない。裕司は小さく笑って恥じらう真希の体を無理矢理開かせると彼の望む深い口付けを送った。


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