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第三章 神子
末代まで
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雪はほとんど解けたけどまだ肌寒い中、俺達が乗った馬車はゆっくりと王都へ向かっている。ガラガラ聞こえる車輪の音、馬の蹄の音、沢山の騎士達が歩く音。行きは琴音に聞いた話で内心悲壮感溢れてたけど、帰りは長閑だ。まさか生きて帰れると思ってなかったからいつも以上に景色が輝いて見える。死ぬつもりはなかったけど、最後にはそれしか方法がないって理解して受け入れたから、こうして瘴気のない長閑な景色を見られるのが嬉しい。
…馬車の中には暗雲が立ち込めておりますが。はっきり言って前を向くのが怖い。
いや、わかってる。今回は完全に俺が悪いのはわかってます。だけど先に伝えたら皆は俺が生き残れる方法を探そうとしてくれたと思う。そしたら朝陽を助けるのが間に合わなかったかも知れないし、もしかしたら悪しき物って呼ばれたあいつに琴音の計画がバレてしまうかもしれない。そんな事になったら琴音の努力が無になってしまう。だから謝るのは違う気がする…と思いつつも例えば番の誰かが俺に黙って死ぬ任務に行ってしまったら?後から知らされた俺は絶対怒るだろう。激怒して大泣きして周りを困らせるに違いない。
そう考えるとやっぱり
「ごめんなさい…」
って言うしかない。あの選択をした事じゃなく、皆に何も言わなかった事への謝罪。だって本気で俺が死んでたらきっと今頃皆は怒ったし悲しんでただろうから。
「…スナオ。本当に体は痛まないんだな?」
恐る恐る見た向かいの席から腕を組んだ無表情のディアが訊いてくる。
「うん。痛いとこはない」
神様が傷治してくれるついでに魔力も回復してくれたから、至って元気だ。しばらく黙って俺を見つめてたディアは嘘を言ってないってわかってくれたらしく小さくため息をついてからまたぎゅ、っと眉間に皺を寄せた。
「…どうしてあんな事をした」
「…琴音がアンダルクを倒す為には俺ごと殺すしかないって」
「それが嘘だとは思わなかったのか?」
「割と最後まで疑ってたよ。だけど俺を仲間に引き入れたいなら俺を殺す必要はないよな~、って」
アンダルクも俺を殺そうとはしてなかった。それに殺すだけならいくらでも機会はあった筈なんだ。俺より琴音は強いし、アンダルクは空間を歪めて現れたりしてたし。それこそ俺が弱って眠ってた時にだって殺せたはず。
本当に最後の最後まで悩んだ。完全に覚悟を決めたのは、琴音が言った通りアンダルクの体を斬った瞬間瘴気の源が俺の中に入って来たからだ。あの話は本当だったんだ、なら琴音が言った方法でしかこいつは倒せないんだ、って思って、同時にこの世界で出来た俺の大切な人達を思い浮かべて、それで決めたんだ。
「前に言ったな。もし私達の誰かがお前を置いて行くような事があれば、他の二人を道連れに後を追う、と」
「言ったね」
よく考えなくても相当重量級の執着だな。
「その逆は考えなかったのか?」
「俺が死んだら皆も後を追うって?…考えたよ」
後を追わなくてもイオは番を失ったら狂う。現にアンリエッタさんやあの狂った王を知ってるし。狂わずにいられるイオは相当の自制心で自分を律するらしいけど、出来たとしてもほんの少しのきっかけで狂ってしまうそうだ。
「…だから、その時は後を追ってきてくれるだろうと思ってたから」
そう言ったら僅かに目を見開いて、それからやっとディアは苦笑を浮かべた。
本音は生きてて欲しい、って思ったけど。その為に俺が死ぬ覚悟をしたんだし。だけど、それでも死ぬほど求められるのなら俺もみんなの手を離したくないな、って思ったんだ。
「俺は同じ事があって同じ選択肢しかなかったら何度でも同じ選択をするよ」
今回はたまたま帰って来られただけだ。俺達異世界人に対して神様が少しでも申し訳なさを感じてくれた結果なだけで、それがなかったら今ここにいない。それがわかっててもきっと選択肢がないなら同じ選択をすると思う。俺一人の選択でこの世界の全てを危険に晒すくらいなら絶対同じ選択肢を選ぶ筈だ。それに俺は臆病だから、自分の命惜しさに役目を放棄して皆を見捨てて生きてる、って後ろ指さされたら後ろめたさで心から笑えなくなるってわかってるし。
「次がない事を祈ってるけど、万が一あったら皆道連れだから。ちゃんと追ってきてくれ」
目の前のアイスブルーの瞳は冷たく整ったまま、またしばらく俺を見つめてそれからふわ、と優しく細められた。
「その時は必ず私が他の二人を連れてお前の元に逝こう」
「うん。俺だけ置いてくのも許さないから」
俺を助けようとして命を散らしたなら、俺はその努力を無にして後を追うから。
約束だ、と伸ばした小指を不思議そうに見つめるディアに指切りを説明して二人で小指を絡めあって約束を交わした。嘘ついたら針千本、どころか嘘ついたら末代まで追いかける、って怖い程重い罰と共に指を離すとようやく馬車の中に立ち込めてた暗雲が晴れた気がする。外でモヤモヤ待ってる二人の説得はディアにも手伝ってもらおう…。
…馬車の中には暗雲が立ち込めておりますが。はっきり言って前を向くのが怖い。
いや、わかってる。今回は完全に俺が悪いのはわかってます。だけど先に伝えたら皆は俺が生き残れる方法を探そうとしてくれたと思う。そしたら朝陽を助けるのが間に合わなかったかも知れないし、もしかしたら悪しき物って呼ばれたあいつに琴音の計画がバレてしまうかもしれない。そんな事になったら琴音の努力が無になってしまう。だから謝るのは違う気がする…と思いつつも例えば番の誰かが俺に黙って死ぬ任務に行ってしまったら?後から知らされた俺は絶対怒るだろう。激怒して大泣きして周りを困らせるに違いない。
そう考えるとやっぱり
「ごめんなさい…」
って言うしかない。あの選択をした事じゃなく、皆に何も言わなかった事への謝罪。だって本気で俺が死んでたらきっと今頃皆は怒ったし悲しんでただろうから。
「…スナオ。本当に体は痛まないんだな?」
恐る恐る見た向かいの席から腕を組んだ無表情のディアが訊いてくる。
「うん。痛いとこはない」
神様が傷治してくれるついでに魔力も回復してくれたから、至って元気だ。しばらく黙って俺を見つめてたディアは嘘を言ってないってわかってくれたらしく小さくため息をついてからまたぎゅ、っと眉間に皺を寄せた。
「…どうしてあんな事をした」
「…琴音がアンダルクを倒す為には俺ごと殺すしかないって」
「それが嘘だとは思わなかったのか?」
「割と最後まで疑ってたよ。だけど俺を仲間に引き入れたいなら俺を殺す必要はないよな~、って」
アンダルクも俺を殺そうとはしてなかった。それに殺すだけならいくらでも機会はあった筈なんだ。俺より琴音は強いし、アンダルクは空間を歪めて現れたりしてたし。それこそ俺が弱って眠ってた時にだって殺せたはず。
本当に最後の最後まで悩んだ。完全に覚悟を決めたのは、琴音が言った通りアンダルクの体を斬った瞬間瘴気の源が俺の中に入って来たからだ。あの話は本当だったんだ、なら琴音が言った方法でしかこいつは倒せないんだ、って思って、同時にこの世界で出来た俺の大切な人達を思い浮かべて、それで決めたんだ。
「前に言ったな。もし私達の誰かがお前を置いて行くような事があれば、他の二人を道連れに後を追う、と」
「言ったね」
よく考えなくても相当重量級の執着だな。
「その逆は考えなかったのか?」
「俺が死んだら皆も後を追うって?…考えたよ」
後を追わなくてもイオは番を失ったら狂う。現にアンリエッタさんやあの狂った王を知ってるし。狂わずにいられるイオは相当の自制心で自分を律するらしいけど、出来たとしてもほんの少しのきっかけで狂ってしまうそうだ。
「…だから、その時は後を追ってきてくれるだろうと思ってたから」
そう言ったら僅かに目を見開いて、それからやっとディアは苦笑を浮かべた。
本音は生きてて欲しい、って思ったけど。その為に俺が死ぬ覚悟をしたんだし。だけど、それでも死ぬほど求められるのなら俺もみんなの手を離したくないな、って思ったんだ。
「俺は同じ事があって同じ選択肢しかなかったら何度でも同じ選択をするよ」
今回はたまたま帰って来られただけだ。俺達異世界人に対して神様が少しでも申し訳なさを感じてくれた結果なだけで、それがなかったら今ここにいない。それがわかっててもきっと選択肢がないなら同じ選択をすると思う。俺一人の選択でこの世界の全てを危険に晒すくらいなら絶対同じ選択肢を選ぶ筈だ。それに俺は臆病だから、自分の命惜しさに役目を放棄して皆を見捨てて生きてる、って後ろ指さされたら後ろめたさで心から笑えなくなるってわかってるし。
「次がない事を祈ってるけど、万が一あったら皆道連れだから。ちゃんと追ってきてくれ」
目の前のアイスブルーの瞳は冷たく整ったまま、またしばらく俺を見つめてそれからふわ、と優しく細められた。
「その時は必ず私が他の二人を連れてお前の元に逝こう」
「うん。俺だけ置いてくのも許さないから」
俺を助けようとして命を散らしたなら、俺はその努力を無にして後を追うから。
約束だ、と伸ばした小指を不思議そうに見つめるディアに指切りを説明して二人で小指を絡めあって約束を交わした。嘘ついたら針千本、どころか嘘ついたら末代まで追いかける、って怖い程重い罰と共に指を離すとようやく馬車の中に立ち込めてた暗雲が晴れた気がする。外でモヤモヤ待ってる二人の説得はディアにも手伝ってもらおう…。
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