【本編完結】農民と浄化の神子を並べてはいけない

ナナメ

文字の大きさ
194 / 203
第三章 神子

末代まで

しおりを挟む
雪はほとんど解けたけどまだ肌寒い中、俺達が乗った馬車はゆっくりと王都へ向かっている。ガラガラ聞こえる車輪の音、馬の蹄の音、沢山の騎士達が歩く音。行きは琴音に聞いた話で内心悲壮感溢れてたけど、帰りは長閑だ。まさか生きて帰れると思ってなかったからいつも以上に景色が輝いて見える。死ぬつもりはなかったけど、最後にはそれしか方法がないって理解して受け入れたから、こうして瘴気のない長閑な景色を見られるのが嬉しい。

…馬車の中には暗雲が立ち込めておりますが。はっきり言って前を向くのが怖い。
いや、わかってる。今回は完全に俺が悪いのはわかってます。だけど先に伝えたら皆は俺が生き残れる方法を探そうとしてくれたと思う。そしたら朝陽を助けるのが間に合わなかったかも知れないし、もしかしたら悪しき物って呼ばれたあいつに琴音の計画がバレてしまうかもしれない。そんな事になったら琴音の努力が無になってしまう。だから謝るのは違う気がする…と思いつつも例えばつがいの誰かが俺に黙って死ぬ任務に行ってしまったら?後から知らされた俺は絶対怒るだろう。激怒して大泣きして周りを困らせるに違いない。

そう考えるとやっぱり

「ごめんなさい…」

って言うしかない。あの選択をした事じゃなく、皆に何も言わなかった事への謝罪。だって本気で俺が死んでたらきっと今頃皆は怒ったし悲しんでただろうから。

「…スナオ。本当に体は痛まないんだな?」

恐る恐る見た向かいの席から腕を組んだ無表情のディアが訊いてくる。

「うん。痛いとこはない」

神様が傷治してくれるついでに魔力も回復してくれたから、至って元気だ。しばらく黙って俺を見つめてたディアは嘘を言ってないってわかってくれたらしく小さくため息をついてからまたぎゅ、っと眉間に皺を寄せた。

「…どうしてあんな事をした」

「…琴音がアンダルクを倒す為には俺ごと殺すしかないって」

「それが嘘だとは思わなかったのか?」

「割と最後まで疑ってたよ。だけど俺を仲間に引き入れたいなら俺を殺す必要はないよな~、って」

アンダルクも俺を殺そうとはしてなかった。それに殺すだけならいくらでも機会はあった筈なんだ。俺より琴音は強いし、アンダルクは空間を歪めて現れたりしてたし。それこそ俺が弱って眠ってた時にだって殺せたはず。

本当に最後の最後まで悩んだ。完全に覚悟を決めたのは、琴音が言った通りアンダルクの体を斬った瞬間瘴気の源が俺の中に入って来たからだ。あの話は本当だったんだ、なら琴音が言った方法でしかこいつは倒せないんだ、って思って、同時にこの世界で出来た俺の大切な人達を思い浮かべて、それで決めたんだ。

「前に言ったな。もし私達の誰かがお前を置いて行くような事があれば、他の二人を道連れに後を追う、と」

「言ったね」

よく考えなくても相当重量級の執着だな。

「その逆は考えなかったのか?」

「俺が死んだら皆も後を追うって?…考えたよ」

後を追わなくてもイオは番を失ったら狂う。現にアンリエッタさんやあの狂った王を知ってるし。狂わずにいられるイオは相当の自制心で自分を律するらしいけど、出来たとしてもほんの少しのきっかけで狂ってしまうそうだ。

「…だから、その時は後を追ってきてくれるだろうと思ってたから」

そう言ったら僅かに目を見開いて、それからやっとディアは苦笑を浮かべた。
本音は生きてて欲しい、って思ったけど。その為に俺が死ぬ覚悟をしたんだし。だけど、それでも死ぬほど求められるのなら俺もみんなの手を離したくないな、って思ったんだ。

「俺は同じ事があって同じ選択肢しかなかったら何度でも同じ選択をするよ」

今回はたまたま帰って来られただけだ。俺達異世界人に対して神様が少しでも申し訳なさを感じてくれた結果なだけで、それがなかったら今ここにいない。それがわかっててもきっと選択肢がないなら同じ選択をすると思う。俺一人の選択でこの世界の全てを危険に晒すくらいなら絶対同じ選択肢を選ぶ筈だ。それに俺は臆病だから、自分の命惜しさに役目を放棄して皆を見捨てて生きてる、って後ろ指さされたら後ろめたさで心から笑えなくなるってわかってるし。

「次がない事を祈ってるけど、万が一あったら皆道連れだから。ちゃんと追ってきてくれ」

目の前のアイスブルーの瞳は冷たく整ったまま、またしばらく俺を見つめてそれからふわ、と優しく細められた。

「その時は必ず私が他の二人を連れてお前の元に逝こう」

「うん。俺だけ置いてくのも許さないから」

俺を助けようとして命を散らしたなら、俺はその努力を無にして後を追うから。
約束だ、と伸ばした小指を不思議そうに見つめるディアに指切りを説明して二人で小指を絡めあって約束を交わした。嘘ついたら針千本、どころか嘘ついたら末代まで追いかける、って怖い程重い罰と共に指を離すとようやく馬車の中に立ち込めてた暗雲が晴れた気がする。外でモヤモヤ待ってる二人の説得はディアにも手伝ってもらおう…。

しおりを挟む
感想 91

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

僕に双子の義兄が出来まして

サク
BL
この度、この僕に双子の義兄が出来ました。もう、嬉し過ぎて自慢しちゃうよ。でも、自慢しちゃうと、僕の日常が壊れてしまう気がするほど、その二人は人気者なんだよ。だから黙って置くのが、吉と見た。 そんなある日、僕は二人の秘密を知ってしまった。ん?知っているのを知られてしまった?が正しいかも。 ごめんよ。あの時、僕は焦っていたんだ。でもね。僕の秘密もね、共有して、だんだん仲良くなったんだよ。 …仲良くなったと、そう信じている。それから、僕の日常は楽しく、幸せな日々へと変わったんだ。そんな僕の話だよ。 え?内容紹介が内容紹介になってないって?気にしない、気にしない。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

処理中です...