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第三章 神子

新たな安住の地

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禍々しく光る赤い瞳。瘴気を元にした化け物や瘴気を纏って化け物になった奴らと同じ。
でもその理由を考えてる暇はない。瘴気の大元からは次々モンスターが生み出されてる。早く浄化しないとどんどん俺達が不利になる。アンダルクの魔力がどの程度なのかわからないけど、琴音がこっちに来てない今しかチャンスはない。

「…パーピュア…」

「全力で止める。後ろは気にせずに走れ」

死ぬな、と一言お互いに伝えあって、全力で瘴気の大元に向かって走った。背後で爆音がしたって、足元に穴があいてこけそうになったって、誰かの悲鳴が響いても。振り返ったらダメだ。足を止めたらダメだ。…頼むから、今は出て来ないでくれとズキズキ痛む腹に手をやって走った。

辿り着いたそこは瘴気が濃すぎて岩ですらジリジリと闇に飲まれ崩れている。また背後で凄まじい爆音がしたけど、パーピュアの魔力に守られてるのを感じて真っ暗な靄に両手を突っ込んだ。

「…ふ…っ、ぐ…ぅ」

途端にザワザワ集まる大量の瘴気に手を離しそうになって気合で耐える。

ーーー憎い、憎い…
ーーーもう少しだったのに
ーーーこの世界を新たな安住の地に出来たのに

憎い、と言い続ける声。
同時に頭の中を走馬灯のように駆け巡るのはこの地に残った記憶なのか。

琴音がいた。俺の知らない人達と一緒に戦ってる。琴音が剣を振る度キラキラと光の粒が散るのはきっと浄化の力だ。何度も傷ついて倒れて、自分で治癒してまた立ち上がる。俺は自分で自分の治癒は出来ないから、きっと俺より琴音の方が強いんだと思う。
その琴音が周りの仲間らしき人達と協力しながら真っ黒な靄をまとった誰かを追い詰めていく。

ーーー憎い…我に安息は与えぬというのか…

琴音の剣が一際強い光と共にその靄を切り裂いた。

(あれは…過去の瘴気の大元だった化け物?)

赤い瞳が暗闇の中禍々しく光る。

ーーー許さぬ、許さぬぞ…安寧を脅かす人間ども…!

ぐわ、っと靄が真っ黒で巨大な手の形になって迫ってきて思わず瘴気の大元を浄化する手を止めてしまった。途端にさっきまでと同じような、でも違う戦闘音が耳に入ってくる。

頭の上でギン、と刃物を弾く音がして咄嗟に振り返るとそこにはさっきまでいなかったローゼンの姿。

「ローゼン!」

「スナオ様、ここは任せて早く浄化を!」

靄はまだ半分も減ってない。ある程度減らさないとレイアゼシカに持たされたアレを使えないから、頬にある傷をさらに広げるような傷を負ってるローゼンを治癒しようとしてやめる。今回は他の事に魔力を使うわけにいかない。俺の役目はこの瘴気を浄化する事だ。

だからもう一度地面に手をついた___瞬間。
目の前にドス、と刃が刺さる。地面から引き抜かれたそれが空気を切り裂く音と共に俺の首を狙って振られるのがスローモーションのように映る。

(動け…動け!)

固まって動けない体に命じるけど僅かに指先が動いただけ。咄嗟に目を閉じた向こうで今度は重々しい金属音が響いた。

「スナオ様!!」

「ローゼン…ありがと…」

礼を言いながら呆然と俺を殺そうとした相手を見上げる。

「朝陽…?」

ゆら、と揺れて次の瞬間にはまたローゼンがその剣を受け止めてた。
どうして、と動揺しそうになったけど朝陽の周りには靄が纏わりついてて操られてるんだって気付く。

「ローゼン!!朝陽は操られてるだけだ!!」

多分物理3Sの朝陽はローゼンよりも強いから、多少の傷は仕方ない。けどどっちも死ぬのはダメだ。
だけどどうしたらいい?アンダルクと朝陽を同時に相手にしながらモンスターと戦うのは現実的じゃない。早く瘴気の大元を消してモンスターが増えるのを阻止しないといけないし、アンダルクを何とかして琴音と戦ってるティエ達も手伝いにいかないといけないし。でも全部同時にするのは無理だ。
とにかく物理に強いローゼンに朝陽を任せて物理に弱いパーピュア達を守ってもらわないと。

「…っ、ローゼン、朝陽は任せた!殺…」

殺さないで、と叫びかけた声にかぶせて

「この大馬鹿アサヒ!!」

そんな声が聞こえたかと思ったら朝陽の側に現れたアンリエッタさんが思いっきり朝陽の頭をぶん殴った。
えぇぇぇ、と引き気味になっちゃったけど、もちろん殴られたくらいでは朝陽は元に戻らない。今度はアンリエッタさんに剣を向ける。
物理3Sの朝陽と魔力Sのアンリエッタさん。お互いの攻撃がお互いに弱点だ。

「アンリエッタさん…!」

「こっちを気にしてる場合ですか!そっちはそっちの仕事をしなさい!」

「…わかった。お願い!!」

本当は朝陽とアンリエッタさんだったら朝陽の方が強いと思う。でもきっと操られたままうっかりアンリエッタさんを殺すなんて朝陽はしない筈だ。だって一撃目、俺の目の前に剣を突き刺せたなら地面じゃなく俺の頭を刺せたんだ。そしたら全て終わったのに朝陽はしなかった。だから多分朝陽も必死で抗ってる筈。

「…ん…ッ」

激痛が走る腹を押さえてまた地面に手をついた。今度こそ瘴気を何とかする!

(だからもう少し…!)

今にも開きそうな、いらない記憶に蓋をした。

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