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第二章 浄化の旅
最期の一撃
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重いし痛いし最悪だ。今の一撃で両腕はジン、と痺れて一瞬で感覚もなくなった。これブレス止めて即離脱出来るか自信ないぞ…?
いや、余計な事は考えたらダメだ。とにかく今は耐えるんだ!
目の前に俺の作った透明な壁と金色ドラゴンの吐く蒼白い光線がぶつかり合って鬩ぎ合いをしてる。これに負けたら全員死んでしまうんだから絶対負けるわけにいかない。
ジリジリジリジリと押されて下がる足を何とか踏ん張って、必死に押し返して。
まだか。まだ向こうの力は尽きないのか。
そんな弱音も頭をもたげてしまうけど。
つ、と額から垂れる汗が頬を伝う。
(頼む、から…っ)
早く力尽きてくれ!
その願いが届いたのか、ようやく蒼白い光線が徐々に勢いを失くして細くなっていって、ふ、と光が消えた瞬間。
「今だ!!畳み掛けろ!!」
その声がディアの声だったのか、他の指示する立場の人の声だったのかは酷い耳鳴りと頭痛に邪魔されてわからなかったけど。
ブレスを吐いて上向きに曝されたドラゴンの喉元に、きらりと光る一枚だけ色の違う鱗。あれが逆鱗だ、って思うけどみんなの攻撃はなかなかそこに当たらない。ドラゴンが尻尾を振り回し暴れるせいで狙いを定められないんだ。
「ティエ…っ行って…!」
ティエなら素早いし届くんじゃないかって思って倒れそうになる俺の体を支えるティエに言うけど、今度は動いてくれなかった。
「一人で動けないのにバカ言うな!」
「でも!早くしないとブレス止めた意味がなくなる!」
もう一発撃たれたら今度は止めきれる自信がない。
誰か、早くトドメを…!
「良く止めた」
耳に凛としたテューイリングの声が届いたのはその瞬間だった。
「スナオ!」
「パーピュア!」
「ティエ!ここは任せて殿下の援護を!」
俺の頭を一撫でして走り出すテューイリングに付き添うメイディと、未だ隙を見て攻撃をしてくる神殿兵を斬り捨てるレイアゼシカ。一瞬俺を強く抱き締めてからパーピュアの腕に押し付けて、ティエも駆け出して行く。
テューイリングを見つけた神殿兵の放つ弓矢はティエが、魔法はメイディが叩き落として、俺達の側に来る敵はレイアゼシカとレオニスが叩き伏せる。
『コノ、クニハァァァァァ!!ヨノォォォォォ!!!』
「父上」
テューイリングの剣が形を変え弓矢になって、
「国の事はお任せください」
ぎろりと見下ろす金の瞳。ほんの一瞬瞬いた知性の色がドラゴンの体の動きを止める。ほんの一瞬だけ。でもテューイリングの放った矢はその一瞬を見逃さず、逆鱗を正確に貫いた。
『ギャァァアァァァァァーーーー!!!』
地響きにも似た耳をつんざく悲鳴。ビリビリと地面が揺れて崩れかけていた建物が一部崩壊する。
めちゃくちゃに振り回す尻尾が回りを吹き飛ばし、瓦礫を弾き、とにかくみんな下敷きにならないように逃げるしかない。
それなのに、チカッと口元に光が集まっていくのが見えた。
「まさか…まだ撃てるのか…?」
呆然と呟くパーピュアの声は辛うじて耳に届いた程度。スナオ!と焦った声が聞こえた時には俺は最後の力を振り絞ってスケボーもどきに乗ってドラゴンの前に飛び出してた。
「「スナオ!!」」
ディアとティエの声とほとんど同時に放たれたブレスに向けて痺れた手を付き出して。
「これが最後だ!!」
ガァン!!!とまた凄まじい衝撃が両腕にかかって、正直肩がもげたと思った。でも手はちゃんと目の前にあるから大丈夫だ。
さっきより強いドラゴンのブレスに対し、俺はもう魔力切れが近いのか俺の作った透明な壁は頼りなく揺れている。
ヤバイ、もうこれ以上強化出来ないのに!
「スナオ!踏ん張れ!!」
「手伝います!」
負けそうになる俺の横でパーピュアが新たな結界を張ってくれて、さらにそれをメイディが強化してくれて。
「大丈夫だ!向こうも力尽きる!」
「あと少しですから!スナオ様!」
うん、わかってる。もう少し、頑張るよ。
口を開く力もなくて無言で頷いて、グラグラする視界の中ドラゴンを睨み付けて、力の入らない腕に最後の力を込めて。
いつまで続くんだろう、何で俺こんなにしんどい思いしてるんだろう、もう良くない?俺頑張ったよな?なんて後ろ向きになりそうになるのを誰かが「諦めるな」って叱咤する。
(父、さん…?)
ーー諦めるな、朴!
ーー大丈夫、私達の子だもの!ちゃんと出来るわ!
(母さん…)
感覚のないはずの両肩に誰かが手を置いてくれたのがわかった。片方は力強い、片方は小さいけど優しい手の平。
大丈夫、って二人の優しい声が聞こえた。
「止まれぇぇぇーーーーー!!!!」
本当にこれが最後の力だと思う。この後絶対魔力切れする。しかも絶対お仕置きコースだわ。
だけど、これを止められなかったら俺も含めてみんな死んでしまう。そんなのは嫌だから、魔力切れ卒倒お仕置きコースだろうがやってやる!
パーピュアとも死亡フラグ折ってやるって約束したもんな!
「早く倒れろ…っ!!」
どこにそんな力があるんだってくらいブレスを吐き続けて、ーーーようやくその時が訪れた。
スゥゥ、と消えていくブレスの光線。ゆっくり人間に戻りながら傾ぐドラゴン。しばらく僅かに痙攣していたけど、人間に戻ってもナスダルの首にはテューイリングの放った矢が刺さったままで、一目見てもうダメだとわかった。
ナスダルは無表情に近寄ったテューイリングに震える手で何かを握らせてそしてぱたり、とその手は痩せ細った腹の上に落ちてーーー動かなくなった。
いや、余計な事は考えたらダメだ。とにかく今は耐えるんだ!
目の前に俺の作った透明な壁と金色ドラゴンの吐く蒼白い光線がぶつかり合って鬩ぎ合いをしてる。これに負けたら全員死んでしまうんだから絶対負けるわけにいかない。
ジリジリジリジリと押されて下がる足を何とか踏ん張って、必死に押し返して。
まだか。まだ向こうの力は尽きないのか。
そんな弱音も頭をもたげてしまうけど。
つ、と額から垂れる汗が頬を伝う。
(頼む、から…っ)
早く力尽きてくれ!
その願いが届いたのか、ようやく蒼白い光線が徐々に勢いを失くして細くなっていって、ふ、と光が消えた瞬間。
「今だ!!畳み掛けろ!!」
その声がディアの声だったのか、他の指示する立場の人の声だったのかは酷い耳鳴りと頭痛に邪魔されてわからなかったけど。
ブレスを吐いて上向きに曝されたドラゴンの喉元に、きらりと光る一枚だけ色の違う鱗。あれが逆鱗だ、って思うけどみんなの攻撃はなかなかそこに当たらない。ドラゴンが尻尾を振り回し暴れるせいで狙いを定められないんだ。
「ティエ…っ行って…!」
ティエなら素早いし届くんじゃないかって思って倒れそうになる俺の体を支えるティエに言うけど、今度は動いてくれなかった。
「一人で動けないのにバカ言うな!」
「でも!早くしないとブレス止めた意味がなくなる!」
もう一発撃たれたら今度は止めきれる自信がない。
誰か、早くトドメを…!
「良く止めた」
耳に凛としたテューイリングの声が届いたのはその瞬間だった。
「スナオ!」
「パーピュア!」
「ティエ!ここは任せて殿下の援護を!」
俺の頭を一撫でして走り出すテューイリングに付き添うメイディと、未だ隙を見て攻撃をしてくる神殿兵を斬り捨てるレイアゼシカ。一瞬俺を強く抱き締めてからパーピュアの腕に押し付けて、ティエも駆け出して行く。
テューイリングを見つけた神殿兵の放つ弓矢はティエが、魔法はメイディが叩き落として、俺達の側に来る敵はレイアゼシカとレオニスが叩き伏せる。
『コノ、クニハァァァァァ!!ヨノォォォォォ!!!』
「父上」
テューイリングの剣が形を変え弓矢になって、
「国の事はお任せください」
ぎろりと見下ろす金の瞳。ほんの一瞬瞬いた知性の色がドラゴンの体の動きを止める。ほんの一瞬だけ。でもテューイリングの放った矢はその一瞬を見逃さず、逆鱗を正確に貫いた。
『ギャァァアァァァァァーーーー!!!』
地響きにも似た耳をつんざく悲鳴。ビリビリと地面が揺れて崩れかけていた建物が一部崩壊する。
めちゃくちゃに振り回す尻尾が回りを吹き飛ばし、瓦礫を弾き、とにかくみんな下敷きにならないように逃げるしかない。
それなのに、チカッと口元に光が集まっていくのが見えた。
「まさか…まだ撃てるのか…?」
呆然と呟くパーピュアの声は辛うじて耳に届いた程度。スナオ!と焦った声が聞こえた時には俺は最後の力を振り絞ってスケボーもどきに乗ってドラゴンの前に飛び出してた。
「「スナオ!!」」
ディアとティエの声とほとんど同時に放たれたブレスに向けて痺れた手を付き出して。
「これが最後だ!!」
ガァン!!!とまた凄まじい衝撃が両腕にかかって、正直肩がもげたと思った。でも手はちゃんと目の前にあるから大丈夫だ。
さっきより強いドラゴンのブレスに対し、俺はもう魔力切れが近いのか俺の作った透明な壁は頼りなく揺れている。
ヤバイ、もうこれ以上強化出来ないのに!
「スナオ!踏ん張れ!!」
「手伝います!」
負けそうになる俺の横でパーピュアが新たな結界を張ってくれて、さらにそれをメイディが強化してくれて。
「大丈夫だ!向こうも力尽きる!」
「あと少しですから!スナオ様!」
うん、わかってる。もう少し、頑張るよ。
口を開く力もなくて無言で頷いて、グラグラする視界の中ドラゴンを睨み付けて、力の入らない腕に最後の力を込めて。
いつまで続くんだろう、何で俺こんなにしんどい思いしてるんだろう、もう良くない?俺頑張ったよな?なんて後ろ向きになりそうになるのを誰かが「諦めるな」って叱咤する。
(父、さん…?)
ーー諦めるな、朴!
ーー大丈夫、私達の子だもの!ちゃんと出来るわ!
(母さん…)
感覚のないはずの両肩に誰かが手を置いてくれたのがわかった。片方は力強い、片方は小さいけど優しい手の平。
大丈夫、って二人の優しい声が聞こえた。
「止まれぇぇぇーーーーー!!!!」
本当にこれが最後の力だと思う。この後絶対魔力切れする。しかも絶対お仕置きコースだわ。
だけど、これを止められなかったら俺も含めてみんな死んでしまう。そんなのは嫌だから、魔力切れ卒倒お仕置きコースだろうがやってやる!
パーピュアとも死亡フラグ折ってやるって約束したもんな!
「早く倒れろ…っ!!」
どこにそんな力があるんだってくらいブレスを吐き続けて、ーーーようやくその時が訪れた。
スゥゥ、と消えていくブレスの光線。ゆっくり人間に戻りながら傾ぐドラゴン。しばらく僅かに痙攣していたけど、人間に戻ってもナスダルの首にはテューイリングの放った矢が刺さったままで、一目見てもうダメだとわかった。
ナスダルは無表情に近寄ったテューイリングに震える手で何かを握らせてそしてぱたり、とその手は痩せ細った腹の上に落ちてーーー動かなくなった。
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