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第二章 浄化の旅
無理矢理じゃない
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◇
王宮の周りは混戦状態だった。砦を越えて攻めてくるナフィーリア軍、城の内側から背後をつく神殿兵。どの騎士団も砦内に籠城する事しか出来なくなって、それは王宮内のレイアゼシカ達も同じ。
「くそ…っ」
彼らは上階へ逃げるしか手がなく、最早これ以上上はない。立て籠った部屋でバリケードを築いたものの扉は外からの攻撃で歪んでおり、砕ける寸前だ。
「兄上とメイディは無事か!」
「わかりません!通信は途絶えたままです!」
メイディの魔法は大型過ぎて王宮内では使えない。テューイリングが守ってはいるだろうが、ナスダルの目的はメイディを手に入れる事で殺すことではないはず。生かして捕らえろ、という叫びははぐれる前に聞こえた。むしろ命の危機にあるのは自分とテューイリングの方だ。
ドンッ、と再び扉に体当たりされ蝶番が1つ弾けとぶ。
「…ピュアが王宮にいなくて良かったな。道連れにしなくて済む」
ふ、と口から諦めにも似た苦笑と共に言葉が滑り落ちたーーー瞬間。
「バカ言わないでください」
無礼にも王子の頭を足蹴にし、軽やかに室内に降り立ったのは。
「ピュア!?」
◇
メイディはナイフを握り締め、目の前の男を睨み付けた。
ここで魔法は使えない。どこか一ヶ所が崩れたら天井が崩落してしまう危険があるからだ。それがわかっているのか、相手は勝ち誇った笑みを貼り付けている。
そこに過去賢王と言われた面影はなく、愚かな只人に成り下がったナスダルはわざとらしく穏やかに手を差し伸べてくる。
「メイディ、余の元へ来るが良い。そなたが望めばテューイリングは生かしてやろう」
「お断りします。今の貴方は信用に値しない。テューイリングが命を賭して戦っている以上、私が貴方に降る事はありません」
ナスダルの言い分に僅かに胸を撫で下ろしたのは、恐らく未だテューイリングは生きて戦っているからだろう。途中はぐれたレイアゼシカと一緒にいてくれたら良いのだけど、と目の前の相手を睨み付けながら思う。
「気の強い事よ。ますます屈服させたくなるわ」
「近寄るな!!」
投げたナイフは周りの神殿兵にあっさり防がれてしまう。じり、と後ろへ下がるけれど、もうそこには窓しかない。
「まずは素直さを躾ねばなるまいなぁ。一月ほど神殿兵達の慰み物とし穢し尽くしてみようか。それともその身、魔獣の苗床として孕ませてみても良いなぁ。泣き叫び許しを乞うまで凌辱の限りを尽くしてやろうぞ」
「下衆が…っ!」
「おお、おお。その怒りに染まる顔、愛いのう。今に絶望に染めてやろう」
これは本当に過去義理の父として尊敬していたナスダルなのだろうか。おぞましい言葉に興奮でもしたのか下肢を滾らせジリジリと迫ってくるその姿はまるで見知らぬ者のよう。その手に捕らわれたら最後だと悟ったメイディは窓枠に足をかける。
「私は第一王子テューイリングの妻。下賎の輩の手に落ち夫の枷になるくらいならば、ーーーここで命を断つ!!」
瞬間、勝ちを確信し笑っていたナスダルは窓の外からの攻撃で部屋の外まで神殿兵ごと弾き飛ばされた。
「メイディ!!!」
抱き締めるその腕の持ち主をメイディは知っている。
「テューリ!!」
◇
パーピュアがレイアゼシカの元に行って、テューイリングがメイディの元に行ったのを見届けて、俺はホッと息をついた。と、同時に
「早く戻って!!」
と叫ぶ。
本当は囮としてナフィーリア軍を引き付ける予定だったのにレイアゼシカ達が思いの外上階にいて、階段を使って登れなくて。仕方ないから俺の得意な土魔法で地面を盛り上げて足場を作った。イメージはエレベーターだ。だけどあんまり長く支えていられない。レイアゼシカは最上階、メイディもその反対の塔の最上階。二ヶ所も大がかりな土魔法を使ってるから魔力の消費も大きいんだ。
それに足元は第一騎士団が守ってくれてるけど、いくら精鋭の第一騎士団だって圧倒的な兵力差には敵わない。早く降りてここから逃げないと。だけどみんなが土のエレベーターに飛び移るよりも先に。
「おお!おお!!!神子だ!あれを!あれを余の元へ!!!」
うわっ気持ち悪!!!国王あんなに気持ち悪かったっけ!!?頭の王冠で辛うじて王様だってわかったけど、それがなかったらただの変質者だよ!
「神子だ!保護しろ!!!」
うわわ!ナフィーリア軍にもバレた!!
「スナオ!!一旦退け!!」
パーピュアが叫ぶけど。
「みんなを置いて行けないよ!!」
だけど保護するのに多少傷を負わせても致し方なし、って感じなのかビュンビュン弓矢が飛んできて魔法の制御が出来なくて、ぐらりと足元が傾いで落ちた先に。
「…神子を保護したぞ!!!」
黄金色の髪に金の瞳。頭の上に丸っこい小さな耳。ゆら、っと揺れた尻尾の先に髪と同じ色の毛がフサフサと風に吹かれている。
これは…、これはもしかしなくても…!ライオンの獣人だーーー!!首周りのモフ毛は本物か!?服のデザインか!!?
なんてそんな場合じゃないんだけどねーーー!!
「ちょっと!離して!みんなを助けなきゃ!!」
「助ける?誰をだ。もうお前を無理矢理酷使した者に義理立てする必要はないのだぞ」
離せと押し返した手がモフモフに触れる。
そうだ。俺はモフモフに囲まれたスローライフが憧れだったし望みだったけど。確かに神子になんてなりたくなくて、無理矢理神子にされたって言えばそうなのかも知れないけど。
でも、それでも。
「無理矢理何かさせられた事なんか一度もないよ!!良いから離して!!」
王宮の周りは混戦状態だった。砦を越えて攻めてくるナフィーリア軍、城の内側から背後をつく神殿兵。どの騎士団も砦内に籠城する事しか出来なくなって、それは王宮内のレイアゼシカ達も同じ。
「くそ…っ」
彼らは上階へ逃げるしか手がなく、最早これ以上上はない。立て籠った部屋でバリケードを築いたものの扉は外からの攻撃で歪んでおり、砕ける寸前だ。
「兄上とメイディは無事か!」
「わかりません!通信は途絶えたままです!」
メイディの魔法は大型過ぎて王宮内では使えない。テューイリングが守ってはいるだろうが、ナスダルの目的はメイディを手に入れる事で殺すことではないはず。生かして捕らえろ、という叫びははぐれる前に聞こえた。むしろ命の危機にあるのは自分とテューイリングの方だ。
ドンッ、と再び扉に体当たりされ蝶番が1つ弾けとぶ。
「…ピュアが王宮にいなくて良かったな。道連れにしなくて済む」
ふ、と口から諦めにも似た苦笑と共に言葉が滑り落ちたーーー瞬間。
「バカ言わないでください」
無礼にも王子の頭を足蹴にし、軽やかに室内に降り立ったのは。
「ピュア!?」
◇
メイディはナイフを握り締め、目の前の男を睨み付けた。
ここで魔法は使えない。どこか一ヶ所が崩れたら天井が崩落してしまう危険があるからだ。それがわかっているのか、相手は勝ち誇った笑みを貼り付けている。
そこに過去賢王と言われた面影はなく、愚かな只人に成り下がったナスダルはわざとらしく穏やかに手を差し伸べてくる。
「メイディ、余の元へ来るが良い。そなたが望めばテューイリングは生かしてやろう」
「お断りします。今の貴方は信用に値しない。テューイリングが命を賭して戦っている以上、私が貴方に降る事はありません」
ナスダルの言い分に僅かに胸を撫で下ろしたのは、恐らく未だテューイリングは生きて戦っているからだろう。途中はぐれたレイアゼシカと一緒にいてくれたら良いのだけど、と目の前の相手を睨み付けながら思う。
「気の強い事よ。ますます屈服させたくなるわ」
「近寄るな!!」
投げたナイフは周りの神殿兵にあっさり防がれてしまう。じり、と後ろへ下がるけれど、もうそこには窓しかない。
「まずは素直さを躾ねばなるまいなぁ。一月ほど神殿兵達の慰み物とし穢し尽くしてみようか。それともその身、魔獣の苗床として孕ませてみても良いなぁ。泣き叫び許しを乞うまで凌辱の限りを尽くしてやろうぞ」
「下衆が…っ!」
「おお、おお。その怒りに染まる顔、愛いのう。今に絶望に染めてやろう」
これは本当に過去義理の父として尊敬していたナスダルなのだろうか。おぞましい言葉に興奮でもしたのか下肢を滾らせジリジリと迫ってくるその姿はまるで見知らぬ者のよう。その手に捕らわれたら最後だと悟ったメイディは窓枠に足をかける。
「私は第一王子テューイリングの妻。下賎の輩の手に落ち夫の枷になるくらいならば、ーーーここで命を断つ!!」
瞬間、勝ちを確信し笑っていたナスダルは窓の外からの攻撃で部屋の外まで神殿兵ごと弾き飛ばされた。
「メイディ!!!」
抱き締めるその腕の持ち主をメイディは知っている。
「テューリ!!」
◇
パーピュアがレイアゼシカの元に行って、テューイリングがメイディの元に行ったのを見届けて、俺はホッと息をついた。と、同時に
「早く戻って!!」
と叫ぶ。
本当は囮としてナフィーリア軍を引き付ける予定だったのにレイアゼシカ達が思いの外上階にいて、階段を使って登れなくて。仕方ないから俺の得意な土魔法で地面を盛り上げて足場を作った。イメージはエレベーターだ。だけどあんまり長く支えていられない。レイアゼシカは最上階、メイディもその反対の塔の最上階。二ヶ所も大がかりな土魔法を使ってるから魔力の消費も大きいんだ。
それに足元は第一騎士団が守ってくれてるけど、いくら精鋭の第一騎士団だって圧倒的な兵力差には敵わない。早く降りてここから逃げないと。だけどみんなが土のエレベーターに飛び移るよりも先に。
「おお!おお!!!神子だ!あれを!あれを余の元へ!!!」
うわっ気持ち悪!!!国王あんなに気持ち悪かったっけ!!?頭の王冠で辛うじて王様だってわかったけど、それがなかったらただの変質者だよ!
「神子だ!保護しろ!!!」
うわわ!ナフィーリア軍にもバレた!!
「スナオ!!一旦退け!!」
パーピュアが叫ぶけど。
「みんなを置いて行けないよ!!」
だけど保護するのに多少傷を負わせても致し方なし、って感じなのかビュンビュン弓矢が飛んできて魔法の制御が出来なくて、ぐらりと足元が傾いで落ちた先に。
「…神子を保護したぞ!!!」
黄金色の髪に金の瞳。頭の上に丸っこい小さな耳。ゆら、っと揺れた尻尾の先に髪と同じ色の毛がフサフサと風に吹かれている。
これは…、これはもしかしなくても…!ライオンの獣人だーーー!!首周りのモフ毛は本物か!?服のデザインか!!?
なんてそんな場合じゃないんだけどねーーー!!
「ちょっと!離して!みんなを助けなきゃ!!」
「助ける?誰をだ。もうお前を無理矢理酷使した者に義理立てする必要はないのだぞ」
離せと押し返した手がモフモフに触れる。
そうだ。俺はモフモフに囲まれたスローライフが憧れだったし望みだったけど。確かに神子になんてなりたくなくて、無理矢理神子にされたって言えばそうなのかも知れないけど。
でも、それでも。
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