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第一章 異世界に来ちゃった

トラウマの大神殿

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ディカイアスの乗る馬に揺られて連れて来られたのはあの日の大神殿と呼ばれる場所だ。あんな事がなければこの綺麗な外観はさぞや感動ものだっただろう。でも俺にとってここはトラウマだ。
ちら、と後ろを見たらこれまたトラウマな真っ白な鎧の兵士。
それをわかっていて連れてきたディカイアスの眉間には深い皺が刻まれている。

「…ディカイアス…」

「…すまない、スナオ。今は耐えてくれ」

「…うん…」

ローゼンの部屋にディカイアスが戻って来た時何が起きてるのか説明は受けた。
俺に拒否権はないんだろう。それにここで拒否をしたらそれこそ王様の前に引き立てられかねない。だったらディカイアスがいいに決まってる。
それでもちょっと怖くて縋る俺の背中を宥めるように撫でてくれる。

「これが終わればすぐにでも旅に出よう」

「わかった」

本当はまだ本調子じゃない俺を気遣って先延ばしにしてくれてたんだって。ホントにディカイアスは知らないところでいつも俺を守ってくれてるんだな、ってそう思ったらこんなの何でもない。
怖いのは怖いけど。あと人に見られながら、っていうの、めちゃくちゃ嫌だけど。でもディカイアスの為なら我慢するよ。

辿り着いた大神殿で数人の神官達に囲まれて、王宮から来たどうやら俺の専属らしい侍従さん達にいつもの様に磨き上げられる。いつもキャッキャと話しかけてくる侍従さん達も流石に泣きそうな顔をしてた。嫌なことさせてごめんな。後で菓子折り持って行くね。

丁寧に磨き上げ、いつもの香油で肌を整えてシルクのガウンを着せられる。でももちろん下着は取り上げられてしまった。
そのまままた神官達に取り囲まれてあの日の部屋に着く。
ホントは逃げたかったよ。この人達殴り倒してでも、ここから逃げたい。でもそれをしたらディカイアスの立場が悪くなってしまうから我慢しなきゃ。
だけどあの日、この場所であのクソ眼鏡にされた事を思い出しぞくり、と鳥肌が立つ。無駄に整えられたシーツが気持ち悪い。

ただ、今ベッドで俺と同じようなガウンを着て待ってるのはディカイアスだ。あいつじゃない。
そう言い聞かせる為に立ち止まる俺の背中を押した神官の手を、思わず振り払った。

「俺に触るな!!!」

「スナオ」

神官が何かしらの文句を言う前にディカイアスの腕に抱き上げられて。そしたらもう我慢できなかった。

「ひっ、うぅ…っ」

ボロボロボロボロ涙が零れてくる。
ディカイアスとするのが嫌なわけじゃないよ。だけどこんな形でやらないといけないなんて、あんまりじゃない?
ディカイアスは待ってくれる、って言ったのに俺のせいで巻き込んでしまった。それが申し訳なくて涙が止まらない。

「ごめ、なさい…っ巻き込んで…っ」

「逆だろう。私達の事情にお前を巻き込んでいるんだ。お前が謝る事は一つもない」

「でも…っ、俺が…っ」

俺がもっとしっかりしてたら。
俺がもっと強かったなら。
そしたらこの人にこんな悲しそうな顔をさせたりしないのに。

「スナオ」

ちゅ、と唇に暖かくて柔らかい感触。いつも頬とか額とかに触れていた唇が初めて俺の唇に触れている。

「出来るだけ奴らにお前が見えないようにする。お前は私だけ見ていろ」

ほとんど唇が触れているような距離でこそ、と言われてキスで答えた。

「んん…っ」

そのままベッドに寝かされた後は直ぐ様顔の横についたディカイアスの両腕で囲われて隅に控える神官達は見えなくなる。
あの人達はとにかく俺がディカイアスのアレを中に出されたかどうかを知れれば良いんだろうし、物凄い近くに来ないのだけが救いだ。めっちゃ側に来られたら絶対気になってたもんな。

とにかく今は忘れよう。あれは銅像…銅像だ。

頭の中でそう唱えていると、するり、とガウンの腰の紐をほどかれてて目が飛び出るくらいびっくりした。け、気配なく動かないでくれ!!というか俺が緊張し過ぎて何も見えてないだけだと思うんだけど。

「ディカイアス…っ」

そういやティエとしたのもつい数日前。風呂の後にした時にティエがめちゃくちゃ跡つけてた気がするんです!

「気にするな。複数のつがいがいる、と言うのはこういう事だ」

「うぅ…俺が居たたまれないんです…」

「慣れる事だな」

くす、と笑ってキスしてくれる。
多分俺の緊張を解そうとしてくれてるんだ、って思ったから俺もディカイアス以外目に入れない。

それにしても近くで見るとホントに…っ、ホントにさぁ…!!

「まだ怖いか」

「違う…!ディカイアスの顔が良くて目が潰れる…っ」

顔を覆った俺に心配そうな声が聞こえたけど、ホントに違うんです。
いや、怖いのは怖いよ。でもディカイアスの為に今は忘れる。二人だけの世界を作ってやる。

「良くわからんが、顔ならお前の顔の方が愛らしくて好ましいな」

「ふぐぅ…っ」

やめろ!いきなりその神々しい微笑みに乗せて甘い言葉を囁くのはやめろー!俺の心臓が口から飛び出すわー!!

なんて思ってたら目深にフードを被った神官の一人が側に寄ってきて、俺はびくり、と固まった。
ディカイアスは側に来た神官に鋭い視線を向ける。

「何の用だ」

「我々は閨の睦言を聞きたいわけではない」

言いながらぽん、と放り投げられた瓶が転がる。どろりとした液体が瓶の中で揺れた。

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