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第一章 異世界に来ちゃった
戻れ
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魔術はイメージが大事、とパーピュアに教わった。
だから俺はイメージする。
噴水…スプリンクラー…あとは何だろう。とにかく広範囲に広げられるイメージだ。
治癒術は土魔法と同じくらい熱心に練習したけど、それでもいざとなると上手く出来るかどうかわからなくて、緊張と恐怖で体が震える。
「スナオ」
両手を組み合わせて握ったその手にティエの暖かい手の平が重なった。
上から一緒に握ってくれて、良く見たらティエの額からも血が出ていて、それでも優しく微笑んでくれる。
「ティエ…」
「大丈夫。ここにいるわ」
「うん…」
ぎゅ、と目を閉じれば、呻き声、悲鳴、励ます声、治癒の指示を出す声…色々な音が聞こえる。そして、吐き気をもよおす程の、血の臭い。
暗闇にいるとあの日の光景が浮かんで叫び出しそうになるんだけど、そのたびにティエが
「ここにいる」
と声をかけてくれて。
頑張れ、俺。みんなを助けるんだ。
チラッと見えたローゼンの怪我の状態だってわからない。少なくとも担架で運ばれてるくらいだから軽傷ではないはずだ。
あの腕が取れそうな騎士さんは前に飴をくれた人だった。
足のないあの騎士さんは出会うといつもにこやかに挨拶してくれた人。
助けるんだ。俺にしか出来ないなら、今頑張るんだ。
握り合わせた手の平が、ほわ、と暖かくなる。
治癒術が発動した証。
それを部屋全体に広げる為に…天井から地面に降り注ぐスプリンクラーでイメージを固める。
この部屋全体にスプリンクラーがあって、満遍なくこの治癒術が降り注ぐように。
沢山沢山、降り注げ。誰も死なないように。1人の命も取り零さないように、みんなに降り注げ。
ああそうだ…。出来れば欠損部分。あれはどうにかならないんだろうか。
何をイメージしたらいいんだろう。
欠損部位に義足?義足のイメージから本物に繋げたらいいんだろうか。
出来るかわからない。
でもやるしかない。
みんなみんな、元の状態へ。誰1人、何一つ欠けない、いつものみんなへーーー
「戻れ…っ!!」
それは、渾身の詠唱。
途端に体の奥からブワッ、と何かが抜けていく感覚がした。
頭がぐらぐらして、立っていられなくなって、倒れかけた体を支えてくれた力強い腕はティエだろうか。
でもダメだ。まだ足りない。きっとまだまだ癒せてない。だってまだパーピュアが止めに来てない。きっとまだ、パーピュア達も頑張ってる。
(もっと…、もっと…!みんなに…!)
体から何かが抜け出していく量が増した気がする。何だか内臓ごと持っていかれそうで、身体中痛くて、でもダメだ。まだダメだ。ここでやめたら、怯んだら、ダメだ。
けほっ、と咳をしたのと同時に何か生暖かい物が口から垂れた気がする。
何だろう?
もう立ってるのか座ってるのか、目を開けているのか閉じているのかもわからない。咳をする度に何か口から溢れて、胃が燃えるように熱い。
どれだけ時間が経ったのか。それすらもわからない。
ああ、耳鳴りが、酷いーーーー
「…ナオ…っ!!ス…オ…っ!!スナオ…っ!!!!もういい!もういいんだ、スナオ!!!止まれ!!!」
ん…?パーピュアのこえ…?
もういい…?もういいの?みんなは…?
「大丈夫だ!お前の治癒は成功した…っ!!みんな無事だ…っ」
ほんとう?みんな、いきてる?
「ああ!誰1人欠けなかった!お前のおかげだ!おい!眠るな!!スナオ!!寝たらダメだ!!目を閉じるな…っ!!!」
みんな、ぶじ、だったんだ…。よかったぁ…。
でも、もう、すごく…ねむい…
だから俺はイメージする。
噴水…スプリンクラー…あとは何だろう。とにかく広範囲に広げられるイメージだ。
治癒術は土魔法と同じくらい熱心に練習したけど、それでもいざとなると上手く出来るかどうかわからなくて、緊張と恐怖で体が震える。
「スナオ」
両手を組み合わせて握ったその手にティエの暖かい手の平が重なった。
上から一緒に握ってくれて、良く見たらティエの額からも血が出ていて、それでも優しく微笑んでくれる。
「ティエ…」
「大丈夫。ここにいるわ」
「うん…」
ぎゅ、と目を閉じれば、呻き声、悲鳴、励ます声、治癒の指示を出す声…色々な音が聞こえる。そして、吐き気をもよおす程の、血の臭い。
暗闇にいるとあの日の光景が浮かんで叫び出しそうになるんだけど、そのたびにティエが
「ここにいる」
と声をかけてくれて。
頑張れ、俺。みんなを助けるんだ。
チラッと見えたローゼンの怪我の状態だってわからない。少なくとも担架で運ばれてるくらいだから軽傷ではないはずだ。
あの腕が取れそうな騎士さんは前に飴をくれた人だった。
足のないあの騎士さんは出会うといつもにこやかに挨拶してくれた人。
助けるんだ。俺にしか出来ないなら、今頑張るんだ。
握り合わせた手の平が、ほわ、と暖かくなる。
治癒術が発動した証。
それを部屋全体に広げる為に…天井から地面に降り注ぐスプリンクラーでイメージを固める。
この部屋全体にスプリンクラーがあって、満遍なくこの治癒術が降り注ぐように。
沢山沢山、降り注げ。誰も死なないように。1人の命も取り零さないように、みんなに降り注げ。
ああそうだ…。出来れば欠損部分。あれはどうにかならないんだろうか。
何をイメージしたらいいんだろう。
欠損部位に義足?義足のイメージから本物に繋げたらいいんだろうか。
出来るかわからない。
でもやるしかない。
みんなみんな、元の状態へ。誰1人、何一つ欠けない、いつものみんなへーーー
「戻れ…っ!!」
それは、渾身の詠唱。
途端に体の奥からブワッ、と何かが抜けていく感覚がした。
頭がぐらぐらして、立っていられなくなって、倒れかけた体を支えてくれた力強い腕はティエだろうか。
でもダメだ。まだ足りない。きっとまだまだ癒せてない。だってまだパーピュアが止めに来てない。きっとまだ、パーピュア達も頑張ってる。
(もっと…、もっと…!みんなに…!)
体から何かが抜け出していく量が増した気がする。何だか内臓ごと持っていかれそうで、身体中痛くて、でもダメだ。まだダメだ。ここでやめたら、怯んだら、ダメだ。
けほっ、と咳をしたのと同時に何か生暖かい物が口から垂れた気がする。
何だろう?
もう立ってるのか座ってるのか、目を開けているのか閉じているのかもわからない。咳をする度に何か口から溢れて、胃が燃えるように熱い。
どれだけ時間が経ったのか。それすらもわからない。
ああ、耳鳴りが、酷いーーーー
「…ナオ…っ!!ス…オ…っ!!スナオ…っ!!!!もういい!もういいんだ、スナオ!!!止まれ!!!」
ん…?パーピュアのこえ…?
もういい…?もういいの?みんなは…?
「大丈夫だ!お前の治癒は成功した…っ!!みんな無事だ…っ」
ほんとう?みんな、いきてる?
「ああ!誰1人欠けなかった!お前のおかげだ!おい!眠るな!!スナオ!!寝たらダメだ!!目を閉じるな…っ!!!」
みんな、ぶじ、だったんだ…。よかったぁ…。
でも、もう、すごく…ねむい…
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