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第一章 異世界に来ちゃった
side ローゼン・ルシアム
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「何故です……!!!」
結局彼……朴がしっかりと覚醒したのはあの夜だけで、以降は夢うつつで相変わらずディカイアスの腕に抱かれたままアークオラン聖王国へと辿り着いたのだが。
ローゼンの怒声にディカイアスはその流麗な眉を寄せて首を振る。
「私達が奴隷狩りを尋問している隙に連れ去ったそうだ」
第一騎士団が帰還した際、妙にねちっこく絡んできた神官長パワハルに朴が神子だと決まったわけでもなければ、本人は極度の疲労状態で意識が混濁している。第三騎士団の魔法隊が戻り枷が外れるまでは騎士団寮で静養させる、という旨を騎士団を総括している第二王子レイアゼシカから伝えたはず。
それであるというのに、神殿はディカイアス達が事後処理に追われている間に
『神子であるかないかは主神サバナエル様がお決めになる事。神子の資質を確かめるのは神殿である』
と大神殿へ無理矢理連れ去ってしまったというのだ。
「そんな……」
しっかりと覚醒したあの日の夜、朴は酷く怯えていた。小柄な体をさらに縮めて強ばるその痛ましい様子を知るローゼンは『証拠を残すくらいなら焼き殺そうとした』とヘラヘラ笑った相手を思わず殴りかけ、部下に3人がかりで止められたくらいだ。
拭くために取った手は滑らかで、あれだけ怯えていたのに拭かれるまま手を預けてくる無防備さ。見上げてきた瞳は暗闇で良く見えなかったけれど、ディカイアスの言葉を信じるならば黒だったのだろう。
「団長」
「わかっている。今レイに……レイアゼシカ殿下にも目通りを願っているところだ」
他の部下もいる中でディカイアスがレイアゼシカを愛称で呼ぶことはない。レイアゼシカとローゼン、二人の前だけでは彼はレイアゼシカの幼なじみに戻る。しかし思わず愛称が溢れてしまうほど、彼もまた動揺しているのだろう。
「しかしそれを待っていては」
神殿側が彼に何をするのかわからない。神に遣える神職の身でありながら欲や野心に溢れた人間は少なからずいるのである。神職の大部分が信心深いけれど、神官長パワハルはその野心で国王に取り入り神官長に取り立てられた男だ。故に何をするかわからない。
「私達が行ったところで神官長、もしくは王家からの許可がなければ大神殿には入れん。わかっているだろう」
通常の神殿なら礼拝のため、と称していつでも入ることは可能だ。しかし主神の棺という宝物を安置する大神殿だけは過去盗難事件が起きてからというもの、いかに騎士団と言えど許可なく踏み込むことが出来ないのである。
ぐ、と握り締められた拳が彼もまたじりじりとした焦燥にかられているのだと伝わる。しかしそれでもローゼンは落ち着かない足をドアに向けた。その背に
「ローゼン」
咎める声がかかる。
「わかっています。大神殿には入れない。しかし近くに行くことを禁じられているわけではありません」
怯える彼に何があっても守る、と言ったのに。
「殿下の許可があればすぐに踏み込みます」
今度は声はかからなかった。
結局彼……朴がしっかりと覚醒したのはあの夜だけで、以降は夢うつつで相変わらずディカイアスの腕に抱かれたままアークオラン聖王国へと辿り着いたのだが。
ローゼンの怒声にディカイアスはその流麗な眉を寄せて首を振る。
「私達が奴隷狩りを尋問している隙に連れ去ったそうだ」
第一騎士団が帰還した際、妙にねちっこく絡んできた神官長パワハルに朴が神子だと決まったわけでもなければ、本人は極度の疲労状態で意識が混濁している。第三騎士団の魔法隊が戻り枷が外れるまでは騎士団寮で静養させる、という旨を騎士団を総括している第二王子レイアゼシカから伝えたはず。
それであるというのに、神殿はディカイアス達が事後処理に追われている間に
『神子であるかないかは主神サバナエル様がお決めになる事。神子の資質を確かめるのは神殿である』
と大神殿へ無理矢理連れ去ってしまったというのだ。
「そんな……」
しっかりと覚醒したあの日の夜、朴は酷く怯えていた。小柄な体をさらに縮めて強ばるその痛ましい様子を知るローゼンは『証拠を残すくらいなら焼き殺そうとした』とヘラヘラ笑った相手を思わず殴りかけ、部下に3人がかりで止められたくらいだ。
拭くために取った手は滑らかで、あれだけ怯えていたのに拭かれるまま手を預けてくる無防備さ。見上げてきた瞳は暗闇で良く見えなかったけれど、ディカイアスの言葉を信じるならば黒だったのだろう。
「団長」
「わかっている。今レイに……レイアゼシカ殿下にも目通りを願っているところだ」
他の部下もいる中でディカイアスがレイアゼシカを愛称で呼ぶことはない。レイアゼシカとローゼン、二人の前だけでは彼はレイアゼシカの幼なじみに戻る。しかし思わず愛称が溢れてしまうほど、彼もまた動揺しているのだろう。
「しかしそれを待っていては」
神殿側が彼に何をするのかわからない。神に遣える神職の身でありながら欲や野心に溢れた人間は少なからずいるのである。神職の大部分が信心深いけれど、神官長パワハルはその野心で国王に取り入り神官長に取り立てられた男だ。故に何をするかわからない。
「私達が行ったところで神官長、もしくは王家からの許可がなければ大神殿には入れん。わかっているだろう」
通常の神殿なら礼拝のため、と称していつでも入ることは可能だ。しかし主神の棺という宝物を安置する大神殿だけは過去盗難事件が起きてからというもの、いかに騎士団と言えど許可なく踏み込むことが出来ないのである。
ぐ、と握り締められた拳が彼もまたじりじりとした焦燥にかられているのだと伝わる。しかしそれでもローゼンは落ち着かない足をドアに向けた。その背に
「ローゼン」
咎める声がかかる。
「わかっています。大神殿には入れない。しかし近くに行くことを禁じられているわけではありません」
怯える彼に何があっても守る、と言ったのに。
「殿下の許可があればすぐに踏み込みます」
今度は声はかからなかった。
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