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第二章
閑話
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本編がしんどいので休憩です…。精霊祭辺りの出来事。
■■■
それは突然やってきた。ケイは気付いていないが、アサギがケイ個人へ興味を持った翌日の事である。
いつものように操舵室で航海士レンドルーと進路を決めていたリツは
「リツーーーーッ!!」
と、世にも珍しい焦ったケイの叫びを聞いて何事かと眉を寄せた。ドタドタと騒がしい足音もまたケイにしては珍しい、というより初めてだ。
「リツ!リッちゃん!俺の頼れる右腕のリッちゃーーーん!!」
バァン!!と、扉が開いて飛び込んで来たケイの腕に――というかむしろ小脇に――抱えられているアサギはキョトンとした顔でキョロキョロしている。
が、その頭と尻付近がおかしい。頭にはぴこぴこと小刻みに動く耳、尻付近でゆーらゆーらと緩やかに動いているのは尻尾だ。どっちも真っ白でふわふわ、さわり心地はかなり良さそう。
しかしリツは非常に冷めた目で上司を見返した。
「……猫耳プレイですか。遊んでないで仕事してください」
一体いつの間にこんな玩具を買い込んだのかと呆れてため息をつくリツにケイはぶんぶんと、ちょっと振りすぎて目眩がするほど必死に首を振った。
「違う!朝起きたらこうなってた!しかも見ろ」
床に降ろされたアサギはやはりキョトンとした顔のままぺたりと座りケイを見上げている。そのケイが少し距離をとると、赤子がハイハイするような体勢のままついていく。
「どうだ、この四足歩行!」
「あなたのドヤ顔にイラッとします」
「違うそんなこと聞いてない!ていうかイラッとすんな。これどう思う?」
「どう、と言われても……」
ケイ相手にツンツンするアサギがケイのお遊びに付き合うとは思えない。それにもし理由があって仕方なく付き合ったにしても、照れなどおくびにも出さず猫に成りきってるかのような姿は少し違和感を感じる。
「しかも見ろ」
ケイがしゃがめば待ってましたと言わんばかりに頭を擦り寄せゴロゴロ喉を鳴らす様は人の体がベースじゃなければただの猫。その猫化したアサギの猫耳をくすぐると、手ではなく足を上げてパリパリと掻く。
「体が柔らかい!」
「だからドヤ顔やめろ、腹立つな。……そもそも何なんですか、これは」
「俺の萌えが具現化したとしか」
「あなたの萌えなら人間ベースで語尾ニャアでしょうが」
「何でお前俺の萌えまで理解してんの?怖いわ」
「僕だって正直あなたの萌えなんかどうでもいいですよ。それよりどうするんですか。こんな病気聞いたこともないですが」
と、そこへまたもバァン!!と、激しく扉を開けて誰かが飛び込んで来た。ちなみに音に驚いたアサギはびょーん、と跳び跳ね隅に逃げ、そこから覗いているが尻尾が山形だ。恐怖心と緊張に固まっているらしい。
「わん!」
完全に猫化しているアサギに気をとられていたそこへ聞こえた“犬”の声。彼らはまさか、と恐る恐る扉を見た。立っていたのは操舵手ジルタ。しかしその足元にまとわりついているのは。
「「カル!?」」
ケイとリツの声は見事にハモった。
その後でケイは、あ、と呟いて口元を手の平で覆い、それからそろ~りと一歩踏み出しかけた襟首を、リツの手がガッ、と掴んだ。
「心当たり……あるんですね?」
背後に立ち上る炎のようなオーラが逃がさないと語る。
「え、いや、心当たりっていうか……」
「ほんまですか?カルがおかしいんで相談に来たんですが……心当たりあるんですか、船長」
操舵室へ入り込んできたジルタもケイへとにじり寄る。その足元にまとわりついていたカルはふと物陰のアサギに気付きソーッ、と寄っていく。アサギの尻尾は完全に足の間に入り込み、本人も体を小さくして震えているようだ。普段仲がいいのに猫化した今、“犬”が怖いらしい。
「……アサギも?」
カルに匂いを嗅がれて完全に固まっているアサギに気付いたジルタが驚いて目を瞬かせる。それからリツと揃って、リツに襟首を掴まれたままのケイへと視線を向けた。
「船長、答えてください」
「いや、関係あるかわかんねぇけど……」
いつでも自由奔放なケイにしては歯切れが悪い。そのまま答えを待つ二人にぽつり、と言った。
「流れ星……」
「「…………は?」」
昨日は“精霊祭”と呼ばれる祝日。“精霊様に叶えてもらいたい願い事を流星が消えるまでに3度唱えれば願いが叶う”とかなんとか。
「……唱えたんですね……?唱えちゃったんですね、あなたは!」
何をどう願ったら猫化するのかはわからないが何故かケイなら精霊様までも手玉に取って本気でそんな事も叶えてもらいそうだと思ってしまう。
「え、待ってください。カルは?」
ジルタに訊かれケイはそろ~、と視線を逸らした。
「いや、カルは犬っぽいな、とは思ったんだ。だけどまさか本気でこんなんなるとは思わねぇだろ」
「それはそうですけど……なら尚更どうするんですか、これは」
お遊びの“願い事”のとばっちりで犬化猫化した二人に視線を向けると、カルはアサギに興味津々、アサギは怖がってますます小さくなっている。
リツから解放されたケイがアサギを呼ぶと、それが自分の名であることは認識しているらしくカルに猫パンチを食らわせ、不自由な四足で素早く移動しケイへと飛び付いた。
「……っていう夢を見た。ちょっと猫耳つけてみてもいい?」
「……殴っていいか?」
起きるなり謎の物語を語り始めたケイを心底冷めた目で見返すとあからさまにガッカリした顔をされてしまう。
この男のこういう言動が深くまで踏み込もうと思う気持ちを冷めさせてしまうのだが、それが彼の計略なのか素なのかはまだわからない。
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それは突然やってきた。ケイは気付いていないが、アサギがケイ個人へ興味を持った翌日の事である。
いつものように操舵室で航海士レンドルーと進路を決めていたリツは
「リツーーーーッ!!」
と、世にも珍しい焦ったケイの叫びを聞いて何事かと眉を寄せた。ドタドタと騒がしい足音もまたケイにしては珍しい、というより初めてだ。
「リツ!リッちゃん!俺の頼れる右腕のリッちゃーーーん!!」
バァン!!と、扉が開いて飛び込んで来たケイの腕に――というかむしろ小脇に――抱えられているアサギはキョトンとした顔でキョロキョロしている。
が、その頭と尻付近がおかしい。頭にはぴこぴこと小刻みに動く耳、尻付近でゆーらゆーらと緩やかに動いているのは尻尾だ。どっちも真っ白でふわふわ、さわり心地はかなり良さそう。
しかしリツは非常に冷めた目で上司を見返した。
「……猫耳プレイですか。遊んでないで仕事してください」
一体いつの間にこんな玩具を買い込んだのかと呆れてため息をつくリツにケイはぶんぶんと、ちょっと振りすぎて目眩がするほど必死に首を振った。
「違う!朝起きたらこうなってた!しかも見ろ」
床に降ろされたアサギはやはりキョトンとした顔のままぺたりと座りケイを見上げている。そのケイが少し距離をとると、赤子がハイハイするような体勢のままついていく。
「どうだ、この四足歩行!」
「あなたのドヤ顔にイラッとします」
「違うそんなこと聞いてない!ていうかイラッとすんな。これどう思う?」
「どう、と言われても……」
ケイ相手にツンツンするアサギがケイのお遊びに付き合うとは思えない。それにもし理由があって仕方なく付き合ったにしても、照れなどおくびにも出さず猫に成りきってるかのような姿は少し違和感を感じる。
「しかも見ろ」
ケイがしゃがめば待ってましたと言わんばかりに頭を擦り寄せゴロゴロ喉を鳴らす様は人の体がベースじゃなければただの猫。その猫化したアサギの猫耳をくすぐると、手ではなく足を上げてパリパリと掻く。
「体が柔らかい!」
「だからドヤ顔やめろ、腹立つな。……そもそも何なんですか、これは」
「俺の萌えが具現化したとしか」
「あなたの萌えなら人間ベースで語尾ニャアでしょうが」
「何でお前俺の萌えまで理解してんの?怖いわ」
「僕だって正直あなたの萌えなんかどうでもいいですよ。それよりどうするんですか。こんな病気聞いたこともないですが」
と、そこへまたもバァン!!と、激しく扉を開けて誰かが飛び込んで来た。ちなみに音に驚いたアサギはびょーん、と跳び跳ね隅に逃げ、そこから覗いているが尻尾が山形だ。恐怖心と緊張に固まっているらしい。
「わん!」
完全に猫化しているアサギに気をとられていたそこへ聞こえた“犬”の声。彼らはまさか、と恐る恐る扉を見た。立っていたのは操舵手ジルタ。しかしその足元にまとわりついているのは。
「「カル!?」」
ケイとリツの声は見事にハモった。
その後でケイは、あ、と呟いて口元を手の平で覆い、それからそろ~りと一歩踏み出しかけた襟首を、リツの手がガッ、と掴んだ。
「心当たり……あるんですね?」
背後に立ち上る炎のようなオーラが逃がさないと語る。
「え、いや、心当たりっていうか……」
「ほんまですか?カルがおかしいんで相談に来たんですが……心当たりあるんですか、船長」
操舵室へ入り込んできたジルタもケイへとにじり寄る。その足元にまとわりついていたカルはふと物陰のアサギに気付きソーッ、と寄っていく。アサギの尻尾は完全に足の間に入り込み、本人も体を小さくして震えているようだ。普段仲がいいのに猫化した今、“犬”が怖いらしい。
「……アサギも?」
カルに匂いを嗅がれて完全に固まっているアサギに気付いたジルタが驚いて目を瞬かせる。それからリツと揃って、リツに襟首を掴まれたままのケイへと視線を向けた。
「船長、答えてください」
「いや、関係あるかわかんねぇけど……」
いつでも自由奔放なケイにしては歯切れが悪い。そのまま答えを待つ二人にぽつり、と言った。
「流れ星……」
「「…………は?」」
昨日は“精霊祭”と呼ばれる祝日。“精霊様に叶えてもらいたい願い事を流星が消えるまでに3度唱えれば願いが叶う”とかなんとか。
「……唱えたんですね……?唱えちゃったんですね、あなたは!」
何をどう願ったら猫化するのかはわからないが何故かケイなら精霊様までも手玉に取って本気でそんな事も叶えてもらいそうだと思ってしまう。
「え、待ってください。カルは?」
ジルタに訊かれケイはそろ~、と視線を逸らした。
「いや、カルは犬っぽいな、とは思ったんだ。だけどまさか本気でこんなんなるとは思わねぇだろ」
「それはそうですけど……なら尚更どうするんですか、これは」
お遊びの“願い事”のとばっちりで犬化猫化した二人に視線を向けると、カルはアサギに興味津々、アサギは怖がってますます小さくなっている。
リツから解放されたケイがアサギを呼ぶと、それが自分の名であることは認識しているらしくカルに猫パンチを食らわせ、不自由な四足で素早く移動しケイへと飛び付いた。
「……っていう夢を見た。ちょっと猫耳つけてみてもいい?」
「……殴っていいか?」
起きるなり謎の物語を語り始めたケイを心底冷めた目で見返すとあからさまにガッカリした顔をされてしまう。
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