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第二章
夢じゃない証
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一瞬相手を見極めるかのように真顔に戻ったあと、すぐに笑顔に戻って開けて、開けて、って外から呼び掛けてくる相手を見つめる。
外に跳ねる癖っ毛は蜂蜜色、人懐っこい笑顔と、どこか深い色を宿す鳶色の垂れ気味な瞳。何が何だかわからなくて思わずカーテンを閉めた。
外からは、ちょっとー!?って小声だけど焦った声。
だって、何で?どうして?ついさっき思い浮かべた親友が目の前にいるとか幻覚?
でも幻覚にしてはえらくリアルで、まだ外からは開けてよー!なんて声が聞こえてる。もう一度チラリ、とカーテンを開けてみたら
「浅葱、俺だよ!ねぇ、怒ってるの?それとも俺の事忘れちゃった?お願いだからここ開けて」
なんて幻覚なのか本物なのか、記憶にあるより成長した親友は懸命に窓を叩いた。そっくりさんのオレオレ詐欺?
もう一度カーテンを閉めた。もー!そろそろ空良君泣いちゃうよぉー!?って言われて今度こそカーテンを開けて、窓も開けて鉄格子に手をつく。
「空良……?ほんとに、俺の知ってる空良……?」
隙間から手を差し込んで俺の手を握った空良が泣きそうな顔で頷いた。
「うん、そうだよ。会いたかった、浅葱」
そう言って引き寄せられて、背中に腕が回る。鉄格子に押し付けられて痛いけど俺も空良の背中に腕を回して抱きついた。だけど鉄格子が邪魔でちゃんと体温が感じられない。背中の腕を感じようとしてもそっちは痛みが邪魔をする。
でも、これだけ痛いなら夢じゃないって思って腕に力を込めながら新しい涙が溢れて落ちる。
空良だ。俺の知ってる空良だ。それがたまらなく嬉しかった。空良を見たら空良も泣いてて、やっと会えたって、俺の名前を何度も何度も呼ぶ。
しばらくそのまま存在を確かめ合って、ようやく体を離した時にはお互い目は真っ赤で腫れぼったくなっててそれが可笑しくてクスクス笑い合って。
それからふと疑問に思った。
「何でここに……?」
ここは日本じゃない。というかむしろ地球ですらない。いや、もしかしたらここでも地球って言うのかも知れないけど少なくとも俺の知ってる地球じゃない。だからここに知り合いがいるなんて本来は絶対あり得ない筈。
空良は俺の背中から腕を解いてまた手を握ってくれて、俺も離したら空良が消えちゃうんじゃないかと思って強く握り返す。
「俺も浅葱と一緒にここ来たみたい」
「え……?」
俺が気付いた時、周りには誰もいなくて一人で心細くて、やっと人に会えたって喜んだらこんな目に合って。空良が一緒に来たって言うなら2年間も一体どこにいたって言うのか。
空良は目が覚めた時どこかの道の真ん中だったらしい。それで俺と同じで周りに誰もいなくて、しばらく待ってみたけど誰も通りかからないから仕方なくその道をずーっと歩いてみたそうだ。たどり着いたのはこの国で、その時には俺はもう城の兵士に捕まって姫だの何だのって呼ばれるようになってたらしくて。
「浅葱がここにいるの、知ってたんだ。何度か会わせてって頼みに来たんだけど門前払いでさ。忍び込もうと思ったけど警備厳重でなかなか忍び込めなくて」
しかもここの兵士に志願してみたら『姫に会いたいだけだろう』ってやっぱり門前払いだったんだって。
「だから一番警備が薄くなる今日を待ってたんだ」
どゆこと?って首を傾げたら、今日は春夜祭でそっちの警備に人がとられるからこっちの人数が減ってる、ってずっとここにいる俺でも知らない事を空良は事も無げに言った。
「よく知ってるな……」
「うん、だって早く浅葱に会いたくて毎日見てたから」
それは多分知ってる人に会いたかったって意味だろうけど何だかちょっと恥ずかしくて頬が熱くなる。
だってまだ手は繋ぎっぱなしだし、ちょっと距離近いし。だけどやっぱり離したら夢だった事になりそうで怖くて離せない。
「ねぇ浅葱、俺ね、会えない間色々調べたんだ」
「色々?」
「うん。この世界の事、色々」
空良は一度チラリ、と周りに視線を走らせてまだ気付かれてない事を確かめてから話し出す。
それは俺が誰かに訊いても答えてもらえないことばかりでどれもが初耳。ドロシーがワンダーランドの深部まで行ったら全く力が使えない、とか、でもそれって逆に言えば見知らぬ誰かの願いなんて聞かなくてもいいって事だ。
でもその為には先代の人柱が作った国境を越えないといけないんだって。世界の理は元に戻ったのに国境自体はなくならなくて、その国境を越えるには互いの国の王様――ワンダーランドはハートの女王だけど。女王って言っても男。何で女王なんだ??――からの許可がいるらしい。
先代の人柱は誰も行き来できないように願ったのにその効果はほんの5年しか保たなかった。しかも俺がここにいるから誰も信じないだろうけど、ほんとは人柱も選ばれないようにしてたらしかった。先代が死ねば直ぐ様次の柱が現れるのに、5年空白があったのはその為。
命をかけた最初で最期の願いはたった5年だけで終わってしまったんだ。そう思うと先代が命を懸けてまでしたそれは一体何だったのか、と思う。
ワンダーランドの“アリス”はどうなんだろう。空良も勿論見たことないらしいけど、アリスも俺と同じくらいの少年だって噂で女王お気に入りの、物凄い美少年って話。そのアリスは今何を思って生きてるのかな。
「浅葱、ここから出よう?」
何となくアリスの事を考えていた俺の耳に飛び込んできたのはそんな台詞。
「出るって……」
俺は何度も逃げ出したんだよ。でもその度に連れ戻されて最後には鎖で繋がれた。今は外してもらえたけどかなりのトラウマだ。そんなの無理だよ、って言おうとした俺を遮って空良は続ける。
「王様に許可もらって出たらいいんだよ」
空良は何を言ってるんだろう。そんなこと出来るわけないじゃないか。そう思ったのが顔に出たみたいで苦笑いされた。
「この世界の事色々調べたって言ったでしょ?」
「?どういう事だ?」
「あのね、この世界には二柱よりもっと強い力を持ってる宝珠っていうのがあるんだって」
思わず目をみはる。ほんのついさっき、秕が言ったのとほぼ同じ事。
でも秕はどこにあるかわかったら取りに、って、在処がわからないっぽいことも言ってた。そしたら空良は
「一応見当はついてるみたいだよ」
って。何でもそんなに力のある物なら星のエネルギーを存分に蓄えられる場所か、若しくは人の入らない前人未到の土地だって学者は考えてるらしい。
「……そんな場所、もっと行けるわけなくないか?」
「そうかな?だってよく考えてみて」
先代から5年経ってようやく現れた柱を手離したくないこの世界の人々。でもいつその柱が使い物にならなくなるのかわからない。そうなって、今度はずっと柱が現れなかったら?他力本願の楽を覚えた人達が柱のいない生活なんて耐えられる筈がない。
「でも、それなら余計ここから離れられないじゃん……」
「そこは浅葱次第かなぁ……」
空良はちょっと言いにくそうに口ごもる。
「俺次第って?」
「宝珠を見つけられるのが柱だけっていうのが1つと、浅葱のいる魔方陣ね、あれ力を引き出す役目も勿論あるんだけど……」
何より俺自身の体にかかる負担を軽減する役目があるんだとか。
「……ここ離れちゃったら、苦しい思いするの浅葱なんだ」
だから、俺次第って事?俺が誰かの願い事を叶える道具なのは変わんなくて、その上もし宝珠を見つけられたらオズは相当な力をつけることになる。しかもここを出て苦しいのは俺な訳で、俺が死にさえしなければここの人達はとりあえず何の支障もない。
苦しいのは嫌だ。怖いのも嫌だ。でもせっかく会えた空良と離れるのはもっと嫌だ。元の世界と唯一繋がるのは空良だけ。このまま、また離ればなれになってここで一人ぼっちに戻るのは嫌だ。
だけど。
「……俺、……外怖い……」
紋様が浮かんでる間の痛みは相当で、ホントは今もかなり痛いんだけど今日はそれよりも空良の登場にビックリした気持ちが強いだけ。いつもならまだ痛くて震えてる。その痛みがこれでもまだ抑えられてる方だなんて。確かに毎日痛むわけじゃない。今日はいつもより酷いだけ。
でも外に出たらこれがずっと続くなんて考えただけでも怖くて俯く。空良と離れたくない。だけど痛いのは嫌。
どうしていいかわからない俺がつい涙ぐむと空良は指で優しく目尻を拭って、握る手をちょっと持ち上げて俺の指に軽く口付ける。
「……やっぱりダメ、かな……?俺、浅葱と離れたくない……」
「そんなの……っ」
そんなの俺だって同じだ。
その時、ふと1つ思い付いた。空良が兵士に志願して断られたった話。兵士にするのは嫌だから、俺の話し相手にって王様に頼んでみたらどうなんだろう。そしたら俺は痛い思いしないし、空良とも離れなくて済む。そう言ったら空良も
「そっか、それなら浅葱が無理しなくていいもんね」
って嬉しそうに笑う。
「明日王様に頼んでみる!」
「うん、だったら俺ここで待ってる」
空良に渡された地図はどうやら城下町のもの。実際はわかんないけど地図上だと周りの建物に比べてかなり小さい家みたいなとこに印がついてる。
ここ、俺の家って言いながら一瞬周りに視線を走らせた空良が俺の手を離した。
「空良……っ」
まだ離れたくなくて鉄格子ごしに手を伸ばす。でも空良は首を振って一歩下がると
「ごめん、行かなきゃ。説得できなくても……」
明日無理でも、また来るからねって言い残して闇へと消えていく空良を見送った直後、ガヤガヤと聞こえはじめた人の声に俺も慌てて窓を閉めズルズルと座り込む。
(……空良……)
空良と繋いでいた手をぎゅっと握ってぬくもりを確かめた。そうしないと夢だった気になっちゃうから。夢じゃなかった、ホントに空良が来てたんだって証しはそれと手描きの地図しかない。
外に跳ねる癖っ毛は蜂蜜色、人懐っこい笑顔と、どこか深い色を宿す鳶色の垂れ気味な瞳。何が何だかわからなくて思わずカーテンを閉めた。
外からは、ちょっとー!?って小声だけど焦った声。
だって、何で?どうして?ついさっき思い浮かべた親友が目の前にいるとか幻覚?
でも幻覚にしてはえらくリアルで、まだ外からは開けてよー!なんて声が聞こえてる。もう一度チラリ、とカーテンを開けてみたら
「浅葱、俺だよ!ねぇ、怒ってるの?それとも俺の事忘れちゃった?お願いだからここ開けて」
なんて幻覚なのか本物なのか、記憶にあるより成長した親友は懸命に窓を叩いた。そっくりさんのオレオレ詐欺?
もう一度カーテンを閉めた。もー!そろそろ空良君泣いちゃうよぉー!?って言われて今度こそカーテンを開けて、窓も開けて鉄格子に手をつく。
「空良……?ほんとに、俺の知ってる空良……?」
隙間から手を差し込んで俺の手を握った空良が泣きそうな顔で頷いた。
「うん、そうだよ。会いたかった、浅葱」
そう言って引き寄せられて、背中に腕が回る。鉄格子に押し付けられて痛いけど俺も空良の背中に腕を回して抱きついた。だけど鉄格子が邪魔でちゃんと体温が感じられない。背中の腕を感じようとしてもそっちは痛みが邪魔をする。
でも、これだけ痛いなら夢じゃないって思って腕に力を込めながら新しい涙が溢れて落ちる。
空良だ。俺の知ってる空良だ。それがたまらなく嬉しかった。空良を見たら空良も泣いてて、やっと会えたって、俺の名前を何度も何度も呼ぶ。
しばらくそのまま存在を確かめ合って、ようやく体を離した時にはお互い目は真っ赤で腫れぼったくなっててそれが可笑しくてクスクス笑い合って。
それからふと疑問に思った。
「何でここに……?」
ここは日本じゃない。というかむしろ地球ですらない。いや、もしかしたらここでも地球って言うのかも知れないけど少なくとも俺の知ってる地球じゃない。だからここに知り合いがいるなんて本来は絶対あり得ない筈。
空良は俺の背中から腕を解いてまた手を握ってくれて、俺も離したら空良が消えちゃうんじゃないかと思って強く握り返す。
「俺も浅葱と一緒にここ来たみたい」
「え……?」
俺が気付いた時、周りには誰もいなくて一人で心細くて、やっと人に会えたって喜んだらこんな目に合って。空良が一緒に来たって言うなら2年間も一体どこにいたって言うのか。
空良は目が覚めた時どこかの道の真ん中だったらしい。それで俺と同じで周りに誰もいなくて、しばらく待ってみたけど誰も通りかからないから仕方なくその道をずーっと歩いてみたそうだ。たどり着いたのはこの国で、その時には俺はもう城の兵士に捕まって姫だの何だのって呼ばれるようになってたらしくて。
「浅葱がここにいるの、知ってたんだ。何度か会わせてって頼みに来たんだけど門前払いでさ。忍び込もうと思ったけど警備厳重でなかなか忍び込めなくて」
しかもここの兵士に志願してみたら『姫に会いたいだけだろう』ってやっぱり門前払いだったんだって。
「だから一番警備が薄くなる今日を待ってたんだ」
どゆこと?って首を傾げたら、今日は春夜祭でそっちの警備に人がとられるからこっちの人数が減ってる、ってずっとここにいる俺でも知らない事を空良は事も無げに言った。
「よく知ってるな……」
「うん、だって早く浅葱に会いたくて毎日見てたから」
それは多分知ってる人に会いたかったって意味だろうけど何だかちょっと恥ずかしくて頬が熱くなる。
だってまだ手は繋ぎっぱなしだし、ちょっと距離近いし。だけどやっぱり離したら夢だった事になりそうで怖くて離せない。
「ねぇ浅葱、俺ね、会えない間色々調べたんだ」
「色々?」
「うん。この世界の事、色々」
空良は一度チラリ、と周りに視線を走らせてまだ気付かれてない事を確かめてから話し出す。
それは俺が誰かに訊いても答えてもらえないことばかりでどれもが初耳。ドロシーがワンダーランドの深部まで行ったら全く力が使えない、とか、でもそれって逆に言えば見知らぬ誰かの願いなんて聞かなくてもいいって事だ。
でもその為には先代の人柱が作った国境を越えないといけないんだって。世界の理は元に戻ったのに国境自体はなくならなくて、その国境を越えるには互いの国の王様――ワンダーランドはハートの女王だけど。女王って言っても男。何で女王なんだ??――からの許可がいるらしい。
先代の人柱は誰も行き来できないように願ったのにその効果はほんの5年しか保たなかった。しかも俺がここにいるから誰も信じないだろうけど、ほんとは人柱も選ばれないようにしてたらしかった。先代が死ねば直ぐ様次の柱が現れるのに、5年空白があったのはその為。
命をかけた最初で最期の願いはたった5年だけで終わってしまったんだ。そう思うと先代が命を懸けてまでしたそれは一体何だったのか、と思う。
ワンダーランドの“アリス”はどうなんだろう。空良も勿論見たことないらしいけど、アリスも俺と同じくらいの少年だって噂で女王お気に入りの、物凄い美少年って話。そのアリスは今何を思って生きてるのかな。
「浅葱、ここから出よう?」
何となくアリスの事を考えていた俺の耳に飛び込んできたのはそんな台詞。
「出るって……」
俺は何度も逃げ出したんだよ。でもその度に連れ戻されて最後には鎖で繋がれた。今は外してもらえたけどかなりのトラウマだ。そんなの無理だよ、って言おうとした俺を遮って空良は続ける。
「王様に許可もらって出たらいいんだよ」
空良は何を言ってるんだろう。そんなこと出来るわけないじゃないか。そう思ったのが顔に出たみたいで苦笑いされた。
「この世界の事色々調べたって言ったでしょ?」
「?どういう事だ?」
「あのね、この世界には二柱よりもっと強い力を持ってる宝珠っていうのがあるんだって」
思わず目をみはる。ほんのついさっき、秕が言ったのとほぼ同じ事。
でも秕はどこにあるかわかったら取りに、って、在処がわからないっぽいことも言ってた。そしたら空良は
「一応見当はついてるみたいだよ」
って。何でもそんなに力のある物なら星のエネルギーを存分に蓄えられる場所か、若しくは人の入らない前人未到の土地だって学者は考えてるらしい。
「……そんな場所、もっと行けるわけなくないか?」
「そうかな?だってよく考えてみて」
先代から5年経ってようやく現れた柱を手離したくないこの世界の人々。でもいつその柱が使い物にならなくなるのかわからない。そうなって、今度はずっと柱が現れなかったら?他力本願の楽を覚えた人達が柱のいない生活なんて耐えられる筈がない。
「でも、それなら余計ここから離れられないじゃん……」
「そこは浅葱次第かなぁ……」
空良はちょっと言いにくそうに口ごもる。
「俺次第って?」
「宝珠を見つけられるのが柱だけっていうのが1つと、浅葱のいる魔方陣ね、あれ力を引き出す役目も勿論あるんだけど……」
何より俺自身の体にかかる負担を軽減する役目があるんだとか。
「……ここ離れちゃったら、苦しい思いするの浅葱なんだ」
だから、俺次第って事?俺が誰かの願い事を叶える道具なのは変わんなくて、その上もし宝珠を見つけられたらオズは相当な力をつけることになる。しかもここを出て苦しいのは俺な訳で、俺が死にさえしなければここの人達はとりあえず何の支障もない。
苦しいのは嫌だ。怖いのも嫌だ。でもせっかく会えた空良と離れるのはもっと嫌だ。元の世界と唯一繋がるのは空良だけ。このまま、また離ればなれになってここで一人ぼっちに戻るのは嫌だ。
だけど。
「……俺、……外怖い……」
紋様が浮かんでる間の痛みは相当で、ホントは今もかなり痛いんだけど今日はそれよりも空良の登場にビックリした気持ちが強いだけ。いつもならまだ痛くて震えてる。その痛みがこれでもまだ抑えられてる方だなんて。確かに毎日痛むわけじゃない。今日はいつもより酷いだけ。
でも外に出たらこれがずっと続くなんて考えただけでも怖くて俯く。空良と離れたくない。だけど痛いのは嫌。
どうしていいかわからない俺がつい涙ぐむと空良は指で優しく目尻を拭って、握る手をちょっと持ち上げて俺の指に軽く口付ける。
「……やっぱりダメ、かな……?俺、浅葱と離れたくない……」
「そんなの……っ」
そんなの俺だって同じだ。
その時、ふと1つ思い付いた。空良が兵士に志願して断られたった話。兵士にするのは嫌だから、俺の話し相手にって王様に頼んでみたらどうなんだろう。そしたら俺は痛い思いしないし、空良とも離れなくて済む。そう言ったら空良も
「そっか、それなら浅葱が無理しなくていいもんね」
って嬉しそうに笑う。
「明日王様に頼んでみる!」
「うん、だったら俺ここで待ってる」
空良に渡された地図はどうやら城下町のもの。実際はわかんないけど地図上だと周りの建物に比べてかなり小さい家みたいなとこに印がついてる。
ここ、俺の家って言いながら一瞬周りに視線を走らせた空良が俺の手を離した。
「空良……っ」
まだ離れたくなくて鉄格子ごしに手を伸ばす。でも空良は首を振って一歩下がると
「ごめん、行かなきゃ。説得できなくても……」
明日無理でも、また来るからねって言い残して闇へと消えていく空良を見送った直後、ガヤガヤと聞こえはじめた人の声に俺も慌てて窓を閉めズルズルと座り込む。
(……空良……)
空良と繋いでいた手をぎゅっと握ってぬくもりを確かめた。そうしないと夢だった気になっちゃうから。夢じゃなかった、ホントに空良が来てたんだって証しはそれと手描きの地図しかない。
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