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アクアの目的
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「お。もう大丈夫か?少年」
アクアの心配そうな声に頷いておいて席に座り直すと、そんなローブ着てるからだとか何だとかブツブツ言ってキンキンに冷えた水を差し出してくるアクアをちらりと見た。
この世界において水を冷やして置いておく術はない。店でも常温で出てくるのが普通だけれどこの店の店主は水魔法が使える。だから食品を冷凍保存しておく事が出来るし、こうして冷えた水や酒を提供する事が出来る。
そしてアクアも水属性の魔法を使った。けれどその時言った半々だ、という言葉の意味をまだ聞いていなかった事を思い出したんだ。
「1つ聞きたいんだけど」
「ん~?」
少年は細いからもっと食えよ~、なんて大きなお世話な事を言いながらまた山盛りで渡された皿を仕方なく受け取ってひとまずテーブルに置いておく。
「半々って何」
「ん?あ、俺の力?言葉の通り、魔力と霊力半々なんだ」
「魔力と霊力は反発し合うから同時に宿らないって聞いてるけど」
「普通はね~。だけどほら、何か宿っちゃったからさ」
とりあえずそんな軽いノリで解決する事ではなさそうだけど、本人がそれ以上言いたくなさそうだから聞かない事にする。別にそこまで興味があるわけじゃないし。
一人黙々と熊鍋を制覇しようとしているイグニスはリーの声が聞こえないようだから、霊力はないんだろう。親の仇くらいの勢いで食べ進めてるから敢えて話しかけないけど。……そんなに食べて大丈夫なんだろうか。育ち盛り?
「で?あんた達は何の目的で魔獣の巣を壊したいの?別に何の関係もないよね」
ただ一時滞在するこんな小さな村に何の恩義も思い入れもない筈だ。魔獣退治が仕事っていうわけでもなさそうだし。という事は何かしら見返りを求められる筈。先にそれを確認しておかない事には安易に頷けない。
「人を捜してるんだ。精霊師の少年に手伝ってもらいたくて」
「人捜し?なら僕じゃなく、もっと大きな町で聞いてみたら良いんじゃないの?」
「ここに来るまでに色んな情報は集めてみたけど、ある日忽然と姿を消したらしくてな。急に足取りがわからなくなってて困ってるんだよ」
「僕はこの村から出た事ないから人捜しなんて出来ないけど」
「捜してるのは“精霊師”なんだ」
ひゅ、と息を飲まなかったのは自分でも上出来だったと思う。手が震えそうになるのも何とか耐えた。
精霊師なのはリーを見られているから誤魔化しようがない。でもここは国境付近だから、精霊師がいるのは不思議じゃない筈だ。
「……それで、どうして僕に?」
「たまたま出会った村人が精霊師だったから、何か知らないかと思っただけ」
落ち着け。確かにそうだ。精霊師を捜してる人間が精霊師に出会ったなら、他の精霊師を知らないか訊いてみるのは普通な事の筈。特にシルヴェスター皇国に住居を構えている人は少ないだろうから、僕が他の精霊師と繋がっているかもしれないと思われてもおかしな事じゃない。
「悪いけどさっきも言ったように僕はこの村から出た事ないから、他の精霊師の事は知らない」
「そっか~」
残念そうな声音を聞きながら、心臓は早鐘のようだ。手が震えないようにするのも一苦労。
僕の前回の記憶が正しかったらシルヴェスター皇国に精霊師は僕しかいない。ただ傭兵や冒険者パーティに交じった精霊師はたまに見かける事があった。ここに定住した精霊師の話は聞いた事がなかったけれど、僕が知らないだけで少なからずいたとは思う。
「エゼルバルド伯爵家のアレキサンドリートって聞いた事ないか?」
今度こそ全身から血の気が引いて、持っていたコップを落としそうになった。
どうして僕を捜してるの?
まさかエゼルバルド伯爵に僕が精霊師だって知られた?
「知らないけど。その人が何?」
声は震えていないだろうか。
口調はおかしくないだろうか。
指先が冷えて感覚がない。コップを落とさないように気をつけないと。
(落ち着け……)
アレキサンドリートは無能力者。教会の名簿にもそう記してある筈。
霊力や魔力は見た目でわかるわけじゃないし、精霊の姿が見えるのは精霊師だけ。エゼルバルド伯爵家に精霊師はいない。ここへ来るまでに一度だけ僕とカミラの足取りを消す為にフィンを呼んだけど、その時も周りは茶髪茶眼の人達ばかりだった。
知られているわけがない。この村に来てからだって僕が色持たずなのは知っていても、精霊師だって知ってる人はいない筈だ。
「アレキサンドリートを捜してる人がいてな」
「残念だけど、僕は知らない。あんたの役に立てそうにもないから魔獣の巣には付き合ってくれなくて良いよ」
アクア達が魔獣化した獣を粗方狩ってくれたなら一人でも何とかなるかも知れないし。
一刻も早くここを離れたい。
「ああ、別にダメ元だったから良いって。魔獣の巣はきっちり片付けにいくから心配すんな」
「……なら僕があんた達をお金で雇う」
何も見返りなく危険な魔獣の巣までいってくれるなんて信じられないから。現にアクアはそこで怪我をしたんだし、そんな簡単に壊せなかったから今まで僕も村のみんなも手を出せなかったんだし。
ダンゼン子爵も傭兵を雇うような事は言ってたけど、何せ田舎の貧乏貴族だ。傭兵を雇う程のお金はすぐ捻出出来なくて困ってた事は知ってるから。
安くで雇える傭兵は盗賊と変わらないくらい質が悪い事が多い。雇う為に必要な額を安く設定して全額前金で請求してくる。本当に酷いものなら、前金だけ受け取ってそのまま仕事をせず去るし、仕事の後で莫大な金額を請求してくる奴もいる。
でもまともな傭兵はきちんと相場がわかっているから高いし、そもそもまともな傭兵はあっちこっち引っ張りだこで捕まらない事も多いんだ。
その点アクア達は今の所まともそうに見えるから金銭取引で何とかならないだろうか。
アクアの心配そうな声に頷いておいて席に座り直すと、そんなローブ着てるからだとか何だとかブツブツ言ってキンキンに冷えた水を差し出してくるアクアをちらりと見た。
この世界において水を冷やして置いておく術はない。店でも常温で出てくるのが普通だけれどこの店の店主は水魔法が使える。だから食品を冷凍保存しておく事が出来るし、こうして冷えた水や酒を提供する事が出来る。
そしてアクアも水属性の魔法を使った。けれどその時言った半々だ、という言葉の意味をまだ聞いていなかった事を思い出したんだ。
「1つ聞きたいんだけど」
「ん~?」
少年は細いからもっと食えよ~、なんて大きなお世話な事を言いながらまた山盛りで渡された皿を仕方なく受け取ってひとまずテーブルに置いておく。
「半々って何」
「ん?あ、俺の力?言葉の通り、魔力と霊力半々なんだ」
「魔力と霊力は反発し合うから同時に宿らないって聞いてるけど」
「普通はね~。だけどほら、何か宿っちゃったからさ」
とりあえずそんな軽いノリで解決する事ではなさそうだけど、本人がそれ以上言いたくなさそうだから聞かない事にする。別にそこまで興味があるわけじゃないし。
一人黙々と熊鍋を制覇しようとしているイグニスはリーの声が聞こえないようだから、霊力はないんだろう。親の仇くらいの勢いで食べ進めてるから敢えて話しかけないけど。……そんなに食べて大丈夫なんだろうか。育ち盛り?
「で?あんた達は何の目的で魔獣の巣を壊したいの?別に何の関係もないよね」
ただ一時滞在するこんな小さな村に何の恩義も思い入れもない筈だ。魔獣退治が仕事っていうわけでもなさそうだし。という事は何かしら見返りを求められる筈。先にそれを確認しておかない事には安易に頷けない。
「人を捜してるんだ。精霊師の少年に手伝ってもらいたくて」
「人捜し?なら僕じゃなく、もっと大きな町で聞いてみたら良いんじゃないの?」
「ここに来るまでに色んな情報は集めてみたけど、ある日忽然と姿を消したらしくてな。急に足取りがわからなくなってて困ってるんだよ」
「僕はこの村から出た事ないから人捜しなんて出来ないけど」
「捜してるのは“精霊師”なんだ」
ひゅ、と息を飲まなかったのは自分でも上出来だったと思う。手が震えそうになるのも何とか耐えた。
精霊師なのはリーを見られているから誤魔化しようがない。でもここは国境付近だから、精霊師がいるのは不思議じゃない筈だ。
「……それで、どうして僕に?」
「たまたま出会った村人が精霊師だったから、何か知らないかと思っただけ」
落ち着け。確かにそうだ。精霊師を捜してる人間が精霊師に出会ったなら、他の精霊師を知らないか訊いてみるのは普通な事の筈。特にシルヴェスター皇国に住居を構えている人は少ないだろうから、僕が他の精霊師と繋がっているかもしれないと思われてもおかしな事じゃない。
「悪いけどさっきも言ったように僕はこの村から出た事ないから、他の精霊師の事は知らない」
「そっか~」
残念そうな声音を聞きながら、心臓は早鐘のようだ。手が震えないようにするのも一苦労。
僕の前回の記憶が正しかったらシルヴェスター皇国に精霊師は僕しかいない。ただ傭兵や冒険者パーティに交じった精霊師はたまに見かける事があった。ここに定住した精霊師の話は聞いた事がなかったけれど、僕が知らないだけで少なからずいたとは思う。
「エゼルバルド伯爵家のアレキサンドリートって聞いた事ないか?」
今度こそ全身から血の気が引いて、持っていたコップを落としそうになった。
どうして僕を捜してるの?
まさかエゼルバルド伯爵に僕が精霊師だって知られた?
「知らないけど。その人が何?」
声は震えていないだろうか。
口調はおかしくないだろうか。
指先が冷えて感覚がない。コップを落とさないように気をつけないと。
(落ち着け……)
アレキサンドリートは無能力者。教会の名簿にもそう記してある筈。
霊力や魔力は見た目でわかるわけじゃないし、精霊の姿が見えるのは精霊師だけ。エゼルバルド伯爵家に精霊師はいない。ここへ来るまでに一度だけ僕とカミラの足取りを消す為にフィンを呼んだけど、その時も周りは茶髪茶眼の人達ばかりだった。
知られているわけがない。この村に来てからだって僕が色持たずなのは知っていても、精霊師だって知ってる人はいない筈だ。
「アレキサンドリートを捜してる人がいてな」
「残念だけど、僕は知らない。あんたの役に立てそうにもないから魔獣の巣には付き合ってくれなくて良いよ」
アクア達が魔獣化した獣を粗方狩ってくれたなら一人でも何とかなるかも知れないし。
一刻も早くここを離れたい。
「ああ、別にダメ元だったから良いって。魔獣の巣はきっちり片付けにいくから心配すんな」
「……なら僕があんた達をお金で雇う」
何も見返りなく危険な魔獣の巣までいってくれるなんて信じられないから。現にアクアはそこで怪我をしたんだし、そんな簡単に壊せなかったから今まで僕も村のみんなも手を出せなかったんだし。
ダンゼン子爵も傭兵を雇うような事は言ってたけど、何せ田舎の貧乏貴族だ。傭兵を雇う程のお金はすぐ捻出出来なくて困ってた事は知ってるから。
安くで雇える傭兵は盗賊と変わらないくらい質が悪い事が多い。雇う為に必要な額を安く設定して全額前金で請求してくる。本当に酷いものなら、前金だけ受け取ってそのまま仕事をせず去るし、仕事の後で莫大な金額を請求してくる奴もいる。
でもまともな傭兵はきちんと相場がわかっているから高いし、そもそもまともな傭兵はあっちこっち引っ張りだこで捕まらない事も多いんだ。
その点アクア達は今の所まともそうに見えるから金銭取引で何とかならないだろうか。
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