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逃亡中

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 ◇

 カツン、カツン、と耳に響く誰かの足音を聞きつけて彼はぼんやりと目を開けた。体は酷く熱いのに全身を覆うのは寒気、喉はカラカラだ。特に顔の左半分は焼けた鉄を押し当てられているかのよう。辛うじて服と呼べる布ごしに感じる石畳の冷たさがよりいっそうの寒さを運んでくる。
 ぼやける視界の中、カツン、と鉄格子の向こうで止まった二本の足が見えた。素人目に見ても質の良さそうな白い布に包まれた、足。脛から下の黒いブーツは上質の革だ。

「気分はどうだい?」

 この場に似つかわしくない、高くも低くもない穏やかで柔らかい声が降りてくる。

「少しは反省してくれたかな?」

「……あの子を思っての行動に反省が必要とは思えませんが」

 ヒリヒリ痛む喉から掠れた声が洩れる。首に嵌まる忌々しい銀の輪から伸びた鎖を、鉄格子の向こうに立つ男は無遠慮に引いた。

「……っぐ……ッ」

 僅かに体がずり上がって首が締まる。

「すまないね、苦しかったかい?だけど飼い主に歯向かう犬にはお仕置きが必要だ。そうだろう?」

 本当はこんなことしたくはないんだよ、と嘯く口を縫い付けてやれたらどんなにいいか。

「あの子が戻ったら出してあげよう。それまではここでイイコにしておいで」

「……戻っては来ないでしょう」

 必ず幸せになれ、と送り出したのだから。誰が好き好んでこんな場所へ戻るというのか。

「お前はあの子をわかっていないね」

 男がクスクス笑う。そして聞き分けのない幼子に向けるような口調で告げた。

「お前達は本当に良く似た兄弟だ。自分の事より相手の事が大切なのだろう?ならば何より大切なお前を残して、一人逃げ出しはしないよ」

 ◇

 ドーン、と腹に響く雷の音が聞こえると同時。左隣のアサギがビクッ!!として頭から毛布を被った。

「大丈夫、ここには落ちないよ」

《頭を出してると雷神様に目をくり抜かれるんですよ》

 怖ぇなセンティスの雷神様!!
 そっか、だから小屋でもフード被り直してたのか。てゆーかそんな迷信……迷信だよな?迷信って事にしとこう。そんな迷信を大真面目に信じてるアサギがめっちゃ可愛いんですが俺はどうしたら。

「ここはアティベンティスだから大丈夫だよ」

 大きな目が物言いたげにじっと見てくる。

「……わかったわかった」

 同じように頭から毛布を被ると満足して微笑む。足が出てちょっと寒いんですが……微笑みがね……この微笑みが俺を惑わすんだよォォォお母さぁぁぁん!!
 ケイとセンのツッコミが入らないっていいよね!あー、可愛い!食べちゃいたい!
 何て俺の邪念なんか露ほども気付かないアサギは相変わらず毛布を握り締めて雷神様から身を守ってるご様子。雷神様より危険な男が側にいる、とか二人がいたら言われるんだろうけど。
 あの視界が悪い中ケイの発した一言は有効だったみたいで、敵は殆ど向こうに行った。

(無事だよな……)

 きっと……、いや絶対無事の筈だ。ふと気付いたら毛布の隙間から大きな目がまたこっちを見つめてた。

「どした?腹空いた?」

 そういやそろそろ飯時だもんな。でもアサギはフルフルと首を横に振って

《ごめんなさい》

 と、しょんぼりする。何が?って聞きかけて、ケイ達がここにいない事への謝罪だって気付く。やべ、顔に出てたかな。気を付けないと。

「大丈夫、俺達は元々そういうお仕事してるんだよ?これも想定内」

 それでもまだショボーンとしてるから二人分の雑嚢を漁ってちょっと考える。硬くてマズイ携帯食料を出して、ついでに小さな鍋を取り出した。

「すぐ戻るからちょっと待ってて」

 大穴付近に水溜まり出来てたから鍋を置いたら水が手に入る。水筒の水は次の水汲み場まで取っときたいしね。ホントは側離れるなんて危険な事しない方がいいんだろうけど、雷神様怖がってるのにここまで連れてくるの可哀想だし。アサギが周囲を警戒してる素振りはないからまだ大丈夫だ。
 鍋を置いて急いで戻ったけど、やっぱりちょっと不安そうな顔をしてた。

「ごめんね。でも水が溜まったらいいの作ってあげるから」

 良くわからないまま頷いたアサギの右側に座り直してマッズイ携帯食を二人でモソモソと食べる。やー、この両手で持ってハグハグしてるのマジ可愛い~。
 てゆーか今さらだけど!毛布の下パンツだよね!?チラッて捲ったらお肌見えちゃうって事だよね!?捲りたい!その神秘のヴェール……その向こうを俺に見せてェェェ!!
 と、猛る本能ってゆーか煩悩?をゴマ粒みたいな理性で頑張って押さえつけて。

「早く美味しい御飯食べたいねー」

 そろそろ暖かいメシに飢えてきたよ……。携帯食じゃ空腹は補えるけど満足感は得られない。アサギも同じようでコクコク頷いた。っと、食べ終えるまでは話かけない方がいいかな。会話しようと思ったら筆談になる。一生懸命食べてるのに邪魔しちゃ悪い。

「先に足の薬作ってるからゆっくり食べててね」

 セン程うまく出来ないけど、傭兵になるって決めた時に知識は一通り叩き込まれたんだ。アサギが食べ終えた頃には鍋には溢れるくらい水が溜まってて、それを持って戻って火に掛ける。何してる?って言いたげなアサギにはまだ内緒。先に足の手当てしよ、って包帯解いたらそこはまた血まみれになってた。そうだよね。走ったもんね。

「痛かったろ」

 大丈夫、と言うように首を横に振る。ホント我慢強いよなぁ、この子。絶対こんなん痛いのに。足に薬草の汁を染み込ませた布を当てて包帯を……ってやってる最中、また雷の音が。ちょっと近づいてきてるな。これだったら多分仮面マン達も迂闊に動けないだろ。その間に慣れてるケイ達なら逃げ切れる……って信じとこう。
 ふ、と視界が暗くなって何かと思ったら、手当ての最中ずり落ちた俺の毛布を頭まで引き上げて、どうやら雷神様から守ってくれてるみたい。
 あぁぁぁ!!可愛い可愛い可愛い~!!ギュッてしてもいいですかいいかないいよね!?
 実行しかけた瞬間今までの比じゃない轟音が響き渡ってついでに電気が走るバリバリ……ッ!!て音が。
 もしかして雷神様がお怒りなのか!?ホント怖いな雷神様!!危うくぶっ飛びかけた理性は戻ってきたから一応感謝するけど。
 それからしばらくして湯が沸いた頃。アサギはグツグツ煮立つ乳白色の液体を見つめて目をキラキラさせてる。相変わらず外は雷が酷くて毛布握り締めたままだけど、それよりも目の前の鍋に夢中な様子。それもその筈。その鍋の中身は牛の乳を特殊な材料で固めて作った携帯用ミルク。お湯で溶くとミルクに戻るんだよねー。そんでアサギの大好きな甘~い匂いがすんの。匂いだけで味は甘くないんだけど、ガッカリさせたくないから砂糖も入れる。
 固形ミルクって栄養価満点だからホントは寒い地方で遭難した、とか極端に体力が落ちた時に使う非常食なんだけど今回は特別。と、言うかこれだけ雨に打たれた後だし正直俺達のペースに合わせてるアサギの体力が心配なのもある。何の弱音も吐かないから余計に心配になるんだよな~。

「はい、熱いから気をつけてね」

 ケイが揃えてくれた旅のお供には毛布と携帯食料の他に、カップとか椀とかそういうお食事セット一式も入ってる。アサギの荷物は新人傭兵セット、みたいな感じかな。
 そのアサギ用カップを出して甘くしたミルクを入れて手渡すと、フンフン嗅いでプリンの時みたいに花を飛ばした。
 あぁぁぁもぉぉぉぉ!!可愛いよ、ホントに可愛いよ!!抱きしめるのがダメなら撫でてもいいかな!?
 自分のにも少し入れて、残りはアサギのおかわりに取っとこう。
 一生懸命フーフーしてるのもまた可愛い~。いや、確かにこれなら飼って愛でたくなる気持ちも……。愛で方にもよるけどな。
 ケイが訊きかけてた、アサギの隠してる部分。知らない事が命を守るって言った。知ってたら危ない相手って事か?向こうの情勢がどうなってるのか、なんて現代の俺達にはよくわからんし……。訊きたいけど、話してはくれないだろう。多分それは本当の意味で俺達を信用してないからだ。だったら少しずつ歩み寄って信用を得るしかない。
 普通の雇い主相手だったら信用してようがしてなかろうが知ったこっちゃないんだけどねぇ。俺達は金を貰えればそれでいいし、相手は目的が遂行できば満足なんだし。だからケイが相手の裏事情まで突っ込むのはそう多くない。全部知らないと仕事出来ないってわけじゃないしね。
 相手の裏がどうであれ俺達には知る必要がないし、仮にその所為で依頼達成が難しくなったり罠だったりしたなら締め上げてでも吐かせればいいし。それに基本ギルドを通す依頼は裏が取ってあるから、ギルドを通してない明らかに罠っぽい出来すぎた依頼なんてハナから受けないし。
 今回のは特殊な例。本来なら罠を疑うけど、……アサギがこんなんだから疑うだけ無駄だよね~。んで、国跨ぐ必要もあって今回はかなり難しい仕事、なんだけど。別にアサギの望み通りお兄ちゃんを助け出すだけなら囲ってる相手をどうしても知る必要はない。住んでる場所とかそういうのは教えて欲しいけど。俺達の役目はお兄ちゃんを助けてそれで終わり、後はどうぞご勝手に~、だ。本来ならその後連れ戻されようが殺されようが依頼を終えてるんだから関係がない。裏を知りたがるのはそれほどアサギを気にしてる証拠だ。助けた後の事を心配してるんだと思う。Sのくせに変なトコ優しいからね~。てゆーか、この愛らしさに放置出来なかった、が有力か。やっぱ何だかほっとけないし。危なっかしくて。

「ねぇねぇ、お兄さんてどんな人?」

 裏事情は教えてくれないかもだけど、これくらいなら教えてくれるかなぁ。

《優しい人です。こういう天気の日は一緒に寝てくれます》

 何だと羨ましい!!

《僕は外に出してもらえませんでしたから、外の色んな話を教えてくれました》

「ん?じゃあお兄さんは外に出てるの?」

《時折、連れ出される所を見ます》

 連れ出される?……割りと自由なのかと思ったけど……、やっぱ何か酷い扱い受けてる感じ。

「……お兄さんとはどれくらい歳離れてんの?」

《5つです。兄上は僕と違ってとっても綺麗な方ですよ》

 やっぱ美形の兄は美形だ!
 と、ゆーかこの子はホントに自分の事をわかってない。アサギも充分過ぎるくらい綺麗なのに。綺麗、なのは動きがない間だけなんだけど。動かないとお人形さんみたい。でも、動くと何だか小動物みたいで綺麗と言うよりは可愛い。

《それから、竪琴を弾くのが上手です》

「へぇ、どのくらい?」

《センティス1です》

 お兄ちゃん大好きなんだね~。いつもより沢山喋る……っつーか綴るし、ホントに得意げ。

「聞いてみたいなぁ……」

《お願いしたらきっと弾いてくれます》

「自慢のお兄さんなんだね」

 あんまり嬉しそうだからそう言ったら、今まで見たことないくらい満面の笑顔で頷いた。

 ◇

「とりあえず撒けた、か……?」

 雷が酷くなってる間に背の高い草の間を縫って走って、湿地帯は抜け出した。まだ気は抜けないけど雷が近い間は向こうも動きようがない筈。そうであることを祈ってケイとセンはソラ達のいる場所とは真反対にあたる森に到達した。森の奥にある岩場の隙間に隠れて敵と雷をやり過ごす事にしたのだ。

「大丈夫か?」

「流石にちょっと疲れたよ……」

 できるだけ屋根になりそうな出っ張りのある場所に身を潜めてるとは言え、容赦なく降り注ぐ雨に体温は奪われ続けている。慣れてはいるが、できれば早く濡れない場所に行きたい。

「アッ君は無事かな」

「ソラがついてんだ。大丈夫だろ」

「別の意味で危ない気もするけどねー」

「いくら変態でも同意なしに襲ったりしねぇよ」

 何だかんだと言いつつ二人共ソラへの信頼は厚い。敵の殆どを自分達へ引き付けられた以上、余程のヘマをしない限り向こうは安全な筈。

「雷がおさまるまで休憩だな」

「あー、早く風呂入りたい」

 コテン、とケイの肩に凭れかかる。

「寝るなよ」

「寝てたらキスで起こして~」

「寝るな。犯すぞてめぇ」

「ちぇー、追っ手いなかったらおれが襲うのになぁ」

 軽口を叩きあって、遠目にチラッと見えた追っ手の姿に溜め息をつく。一度だけ冷えた唇を重ね合った二人は雨の中を音もなく走り出した。

 ◇

 パチパチと火が爆ぜる。夜になっても雷雨はおさまらないし服もまだ乾いてないから、一応入り口には目立たないように罠張ってみた。多分一晩二晩は乗り切れる。
 ええ、勿論あれですよ。パンツのままで罠張りに行きましたよ。ついでにそのまま岩陰の比較的濡れてない木を集めてきましたよ。目撃されたら本物の変態だよね。周りに誰もいなくて良かったって心から思うわ。
 コックリコックリ舟漕いでるアサギ用に、俺の毛布を畳んで敷いて即席の寝床を作ってやる。このまま寝たら絶対痛いし。だけどそれに気付いたアサギがフルフルと首を振って俺と毛布を交互に指差す。

「ん?……あぁ、俺が寒いって?」

 今度はコクコク頷く。

「大丈夫だよ、火があるし」

 最初ここに着いた時よりは断然マシだ。明け方には服も乾くだろう。

「雷神様対策は……これ被っとく」

 さっきカップやら鍋やら大穴近くの水溜まりで洗って、それを拭いた後の布ですが。

「あ、何だその顔。納得してねー!って顔だな?」

 ものすげぇしかめっ面する頬をプニ、って引っ張ったらデコ叩かれた。
 ちょっと心開いてくれた感があるんだよな。お兄ちゃんの話題が良かったのかなぁ??なんて考えながら半ば無理矢理即席ベッドに押し倒した。
 いや、あれだよ!?疚しい行為に及ぼうとしてるわけじゃないよ!?ちゃんと倒してすぐ離れたし!!って俺は一体誰に言い訳してんだろう。動揺しすぎだろ。

「ホントに俺は平気だからちょっと寝な?」

 まだしかめっ面してるなぁ。

「お兄さん助ける前にアサギが倒れたらどうすんの」

 なんと!唇尖らせてる!!かーわーいーいー!!

「そんな顔してもダメー。どうしても寒くなったらちゃんと言うから」

 酷く渋々といった態の顔に苦笑い。髪を梳くように撫でてたら気持ち良さそうに目を細めて、……ありゃ。寝ちゃった。ホントは結構体力面とか辛いんじゃないかなぁ。文句1つ言わずについてくるけど……。でも二人きり……しかも戦えるのが俺しかいないこの状況でのんびりするわけにはいかない。せめてケイ達と合流するまでは頑張ってもらわないと。

 夜半過ぎ一度周囲を見回って(もちろんパンツですが何か)戻って、そのまま不寝番をしてたけど明け方流石にちょっとウトウトしてしまった。だから素肌の肩に何かが触れた時、びっくりしすぎて思わず銃口を向けてしまいました。でもびっくりしたのは向こうも同じみたい。ただでさえおっきい目がまん丸になってる。
 こんな時だけどごめんなさい。それもまたハムスターみたいで可愛いよぉぉぉ!!

「ご、ごめん!!」

 肩から滑り落ちたのは俺の毛布。ウトウトしてる間に起きたアサギが掛けてくれたんだ。それに気付いて、驚きすぎた所為で未だに向けたままの銃を慌てて下ろした。

「ごめんね」

《大丈夫です。それよりソラも少し寝てください》

 あ、初めて名前呼んでくれた!!

「あー、ちょっとウトウトしちゃったけど平気。まだ寝てていいよ」

 ケイ達がいないんだから気を引き締めないと。でもアサギはフルフル首を振った。マズッたなー。うたた寝とかしてたらそりゃ気にするよなぁ。

「今寝られたから俺は大丈夫」

 って言ってる間に滑り落ちた毛布を肩にかけ直してくれちゃいました。

《気配はわかります。追手が来たら起こすので今の内に寝てください。あなたに倒れられたら僕が困ります》

 そう簡単には倒れないけど……でもそうだな。今みたいに睡魔に負けて敵の接近を許したー、なんて事態になったらケイの飛び蹴りじゃ済まねぇな。センの最強魔法食らうかも知んないし。

「じゃあちょっとだけ」

 その言葉に少し考えて自分の毛布を取ろうとするから、流石にそれは辞退。

「服乾いたら着てていいからね」

 うたた寝前の感じだとあともうちょいで乾きそうだったし。頷くアサギに微笑んで、いくらなんでも横になるのはマズイよなー、って壁に寄りかかる。ふと轟音みたいな雨音の間に、女の人の声が聞こえたような気がして閉じかけた目を開けた。急にキョロキョロしだした俺を不思議そうにアサギが見つめている。……アサギしかいないよな??

「今、人の声しなかった?」

 首が横に振られるのを見て、だよな……??って思いつつ今度こそ目を閉じる。オバケじゃありませんよーに。

 ◇

 バシャバシャと足元で跳ねる泥を気にする余裕もなく走る。ほんの少し休息を取れたのが奇跡のような執念で相手は追いかけてくる。そろそろ夜が明けそうだ。

「しつけぇな」

「ホントに、アッ君だと思って、追いかけてきてるかは、微妙だね」

 センの息が上がっている。出来れば少し休みたい。しかし背後から同じようにバシャバシャ聞こえる足音がそれをさせてくれない。

「くそ、幻聴じゃねぇだろうな……」

 追われている、という強迫観念からくる幻聴であればまだ良かったのだがどうやら本物だ。

「っとにもー、こんな、しんどい思いして、アッ君無事じゃなかったら……っ、ソラしばかなきゃ」

「無事でもしばくけどな」

 その頃のソラはオバケにびびってたけど二人には知るよしもない。

「……っ、はぁ……っ、ごめ、ケイ……、おれ限界……っ!心臓、やぶれそ……っ」

「チッ、しょうがねぇ……。殺るか」

 ソラだったら例え自分達が戻らなくてもアサギを連れて師匠達の元へ辿り着ける筈。そして師匠達がいればアサギの依頼をきっと達成してくれる筈。ならば自分達の役目は1つ。ここでこいつらを足止めして少しでも人数を減らし、少しでも長くアサギから遠ざける事。

「……気が向いたら逃げろよ」

「ジョーダン、でしょ。ケイ置いて、逃げるような、気は向かないよ」

 ゼーハーと荒い息を吐きながら隠していた杖を取り出す。手の平サイズだったそれはセンの魔力に反応して元の1メートル程の長さになった。

「アティベンティス2位の魔導師を本気にさせたらどうなるか、思い知らせてあげるよ」

「2位は盛りすぎじゃね?」

「もお、ケイ煩い!!」

 その二人の背後に、黒い影が忍び寄っていた。

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