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第一章 勇者の聖剣が呪われてた
探査魔法
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気を取り直して、改めてループ魔法対策を練る。
魔術師が近くにいるかどうかはすぐには判断できない。向こうが殺気でも放ってくれれば王族組は一発でわかるだろうが、今の所そんな気配はない。
ならば次の手は、風の魔法を使いその流れを読むことである。物に風が当たれば風はそれを避けて流れる。その流れが異様な部分がないかを確かめるのである。
この中で風魔法が得意なのはミズイロだ。しかし、魔法で探索している間無防備になるのが嫌らしいミズイロに
「探してる間に魔物に襲われたらどうするんですかぁ!」
と泣かれたアズラルトが
「その間は守ってやるから早くしろ!」
と怒鳴った為アナスタシアンは尊死しかけたという。
脳内では「お前の事は俺が守ってやる」「王子様……」と見つめあう二人の光景が展開されていたが実際は泣きべそをかいたミズイロの頭をひっぱたくアズラルトがいただけである。
そんなやりとりの後、そもそもループを何とかしなければここから出られない事実を思い出したらしいミズイロが未だかつてないやる気を見せて展開した風魔法に王族組は驚いていた。
レベル4の探査魔法は恐らくこの遺跡全体を包めるのでは、という魔力量だったからである。
「……ミィちゃん、魔力高かったのね」
「普段全然使わないから大した魔力はないと思ってた」
ミズイロが本気を出せばアズラルトの魔法より威力が高いだろう。しかしそれが出来ないのはひとえに彼が他人の想像を絶する臆病だからである。
魔物が出ればパニックになって詠唱どころではないし、そもそもほとんど家から出ないのだから使う機会はなかったし。
しかし彼が名の通りミズイロだったならば一番の戦力になっていた筈だ。
だが悲しいかなミズイロは名前負けの臆病者である。先ほどから恐らくただの岩に当たる感覚だけでもびくり、びくり、と飛び上がっている。この調子で本当に魔道具、もしくは魔術師本人を見つける事が出来るのか王族組は微妙に不安そうだ。
だが不意にミズイロが首を傾げた。
「何か……あります」
岩ではない風の流れ。
魔術で探索している時に岩や物に当ると風は滑らかに流れない。その形に合わせて歪に流れる感覚があるらしい。しかし今ミズイロが見つけたそれは滑らかに風を受け流している。こういう風が流れるのはそこに何かしらの球体がある時だ。それは本当に球体の時もあるし、人の頭の時もある。
「人か……何か丸いものがあります」
場所はあの火を焚いた岩場があった所だろうか。球体の周りは風の流れが歪で恐らく岩か何かに囲まれている様子である。これまで通って来た道で無数の岩があったのはあの岩場だけだ。
「魔術師本人がいるのかしら?行ってみましょう」
「でも普通に近寄ったら逃げられるんじゃね?」
あの岩場に昨晩もいたのだとしたら、相当身を隠す事に長けている。というか、もしもいたとしたら相当気持ち悪い。だって人が寝ている側で一晩隠れていたという事なのだ。何をするでもなく、そこにいるだけの誰かを想像してミズイロはぞぞぞ、と体に怖気が走った。
「……へ、変態の人ですかね……」
「それは見つけてみないとなんとも言えないけど……安心してミィちゃん!もしも貴方の寝顔を一晩中愛でてたとしたら私の鉄拳で沈めてあげるわ!!」
いや、そもそも心配すべきは女性である王女様の方では、とミズイロは思った。あ、でも変態の人が男とは限らない。熱狂的なアズラルトのファンかも知れない。それなら危険なのはアズラルトだ、とミズイロはその顔を見上げる。しかし思った。この魔王に匹敵する悪漢をどうこう出来る女性がいるのだろうか、と。
「今なんか失礼な事考えたな?」
片手でむに、と頬を抓まれてミズイロはアヒル口になってしまう。
「かんがえへまひぇん」
離してください、とぽかぽか胸を殴るとすぐ手は離れたけれど、背後から邪悪な気配が流れてきてミズイロはびくりと飛び上がった。
「王……」
「見るな!!」
言わずと知れたアナスタシアンの慈愛の微笑みにミズイロは大きく身震いをする。
怖い。怖すぎる。どうして慈愛の微笑みを浮かべているのにこんなに邪気を感じるのだろう。どうして毎回手を合わせられるのだろう。もしかしていつか命を奪おうとしていて今から冥福を祈られているのだろうか。本当に怖い。この遺跡から無事に帰った暁には王女の旦那が迎えに来たりしないだろうか。
ミズイロは不安からぎゅ、っとアズラルトの服の裾を掴んだけれど、それがまた邪気を濃くする原因だとは露知らずただただ怯えてその裾に縋った。
アズラルトはこの顔の姉がろくでもない事を考えていると知っている。しかしそのろくでもない事の内容までは知らないし気付いていない。まさか姉の脳内で「失礼な事を考える悪い子はお仕置きが必要だな」と言ったアズラルトがミズイロにねっとりいやらしいキスをしている妄想をされているなんて全く気付いていない。
ちなみにアズラルトよりミズイロの方が二つ年上だが見た目が幼いので実はアナスタシアンもアズラルトもミズイロをアズラルトより年下だと思っている事実を本人は知らない。
魔術師が近くにいるかどうかはすぐには判断できない。向こうが殺気でも放ってくれれば王族組は一発でわかるだろうが、今の所そんな気配はない。
ならば次の手は、風の魔法を使いその流れを読むことである。物に風が当たれば風はそれを避けて流れる。その流れが異様な部分がないかを確かめるのである。
この中で風魔法が得意なのはミズイロだ。しかし、魔法で探索している間無防備になるのが嫌らしいミズイロに
「探してる間に魔物に襲われたらどうするんですかぁ!」
と泣かれたアズラルトが
「その間は守ってやるから早くしろ!」
と怒鳴った為アナスタシアンは尊死しかけたという。
脳内では「お前の事は俺が守ってやる」「王子様……」と見つめあう二人の光景が展開されていたが実際は泣きべそをかいたミズイロの頭をひっぱたくアズラルトがいただけである。
そんなやりとりの後、そもそもループを何とかしなければここから出られない事実を思い出したらしいミズイロが未だかつてないやる気を見せて展開した風魔法に王族組は驚いていた。
レベル4の探査魔法は恐らくこの遺跡全体を包めるのでは、という魔力量だったからである。
「……ミィちゃん、魔力高かったのね」
「普段全然使わないから大した魔力はないと思ってた」
ミズイロが本気を出せばアズラルトの魔法より威力が高いだろう。しかしそれが出来ないのはひとえに彼が他人の想像を絶する臆病だからである。
魔物が出ればパニックになって詠唱どころではないし、そもそもほとんど家から出ないのだから使う機会はなかったし。
しかし彼が名の通りミズイロだったならば一番の戦力になっていた筈だ。
だが悲しいかなミズイロは名前負けの臆病者である。先ほどから恐らくただの岩に当たる感覚だけでもびくり、びくり、と飛び上がっている。この調子で本当に魔道具、もしくは魔術師本人を見つける事が出来るのか王族組は微妙に不安そうだ。
だが不意にミズイロが首を傾げた。
「何か……あります」
岩ではない風の流れ。
魔術で探索している時に岩や物に当ると風は滑らかに流れない。その形に合わせて歪に流れる感覚があるらしい。しかし今ミズイロが見つけたそれは滑らかに風を受け流している。こういう風が流れるのはそこに何かしらの球体がある時だ。それは本当に球体の時もあるし、人の頭の時もある。
「人か……何か丸いものがあります」
場所はあの火を焚いた岩場があった所だろうか。球体の周りは風の流れが歪で恐らく岩か何かに囲まれている様子である。これまで通って来た道で無数の岩があったのはあの岩場だけだ。
「魔術師本人がいるのかしら?行ってみましょう」
「でも普通に近寄ったら逃げられるんじゃね?」
あの岩場に昨晩もいたのだとしたら、相当身を隠す事に長けている。というか、もしもいたとしたら相当気持ち悪い。だって人が寝ている側で一晩隠れていたという事なのだ。何をするでもなく、そこにいるだけの誰かを想像してミズイロはぞぞぞ、と体に怖気が走った。
「……へ、変態の人ですかね……」
「それは見つけてみないとなんとも言えないけど……安心してミィちゃん!もしも貴方の寝顔を一晩中愛でてたとしたら私の鉄拳で沈めてあげるわ!!」
いや、そもそも心配すべきは女性である王女様の方では、とミズイロは思った。あ、でも変態の人が男とは限らない。熱狂的なアズラルトのファンかも知れない。それなら危険なのはアズラルトだ、とミズイロはその顔を見上げる。しかし思った。この魔王に匹敵する悪漢をどうこう出来る女性がいるのだろうか、と。
「今なんか失礼な事考えたな?」
片手でむに、と頬を抓まれてミズイロはアヒル口になってしまう。
「かんがえへまひぇん」
離してください、とぽかぽか胸を殴るとすぐ手は離れたけれど、背後から邪悪な気配が流れてきてミズイロはびくりと飛び上がった。
「王……」
「見るな!!」
言わずと知れたアナスタシアンの慈愛の微笑みにミズイロは大きく身震いをする。
怖い。怖すぎる。どうして慈愛の微笑みを浮かべているのにこんなに邪気を感じるのだろう。どうして毎回手を合わせられるのだろう。もしかしていつか命を奪おうとしていて今から冥福を祈られているのだろうか。本当に怖い。この遺跡から無事に帰った暁には王女の旦那が迎えに来たりしないだろうか。
ミズイロは不安からぎゅ、っとアズラルトの服の裾を掴んだけれど、それがまた邪気を濃くする原因だとは露知らずただただ怯えてその裾に縋った。
アズラルトはこの顔の姉がろくでもない事を考えていると知っている。しかしそのろくでもない事の内容までは知らないし気付いていない。まさか姉の脳内で「失礼な事を考える悪い子はお仕置きが必要だな」と言ったアズラルトがミズイロにねっとりいやらしいキスをしている妄想をされているなんて全く気付いていない。
ちなみにアズラルトよりミズイロの方が二つ年上だが見た目が幼いので実はアナスタシアンもアズラルトもミズイロをアズラルトより年下だと思っている事実を本人は知らない。
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