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第一章 勇者の聖剣が呪われてた
多分ゴリラ
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「そんなわけで民にいらない不安を与えないように噂を流したのよ」
「……何もそんな噂じゃなくても良かったのでは」
弟からの至極当然な突っ込みは華麗に無視し、アナスタシアンはミズイロの頭を撫で回している。ミズイロは女性にここまで接近されたことがなく今にも倒れそうだ。
「民に魔王復活を知らせるのは時期を見てからね」
今公表していたずらに不安感を煽るより、各都市領主に早急に万全の体制を取らせ民に安心感も持たせられるようにしてから公表する事にしたらしい。期限は二か月。それ以上は魔王側が待っていてくれる保証はない。
公表後は現在の状況をこまめに発信していく事になっている。
「私はあなた達に手を貸すように言われてここに来たの」
「……また家出したんだろ」
ボソッと呟いたアズラルトの頬をひゅっと掠めた何かがそのシミ一つない綺麗な頬に一筋の傷をつけた。ごくごく浅い、しかし確実に血が滲む傷である。ミズイロは卒倒した。アズラルトは静かに一歩引いた。アナスタシアンは返り血のついた拳を握り、とてもいい笑顔で言った。
「アティ、今何か言ったかしら?」
「イイエ、アネウエ。ナニモイッテマセン」
棒読みである。
この姉に逆らってはいけない。アズラルトは21年の生においてその事実を熟知している。
王の娘であるアナスタシアンではあるが現在の法律で女性王族に王位継承権はなく、扱いは一貴族と同等である。それ故に彼女を貶めようとする令嬢が過去にはいた。アズラルトはその猛者を尊敬している。この姉に辛酸を舐めさせようとするその根性、貴族令嬢ながらあっぱれだ。ーー因みにその企みはことごとく失敗し3倍返しに遭っている。
アズラルトはこの姉が恐怖に戦き悲鳴を上げる、もしくは涙を流す。そんな姿を見たことがない。幽霊が出たと聞けばアズラルトを伴い夜の王城を探検し護衛騎士にしこたま怒られ、学園に入りおしとやかになるかと思いきや、想いを寄せる男子生徒に手籠めにされかけた所を返り討ちにして舎弟にし、嫁入りすれば領地で起こった暴動を拳一つで解決した。
もはや王女の皮を被ったゴリラだと思っている。しかも彼女の持つ固有スキルは【剛腕】。その細腕から繰り出されるパンチの威力はとんでもない。ゴリラだ。ゴリラに違いない。でもそれを口に出すととんでもない事になるのでアズラルトは生涯姉がゴリラである事実を黙して生きていくつもりである。
でもとりあえず想像の中で理不尽なゴリラの頭を殴っておいた。想像の中でも反撃されてえらい目に遭った。姉怖い。
「さて。話がまとまった所で先に進みましょう」
一つも纏まってはいなかったがゴリラに逆らうと命が危ないので従ーーいたい気持ちは山々であるが、目の前は行き止まりである。
「あ。姉上、ミズイロのデメリットの話は聞いてるか?」
この先一緒に行くのなら行き止まり云々の前にまずそれについて話さねばならない。
「ミィちゃんの?聖剣を使うと子供になっちゃう話かしら?」
叩き起こされたミズイロがつつつ……、とさりげなくアズラルトの後ろに隠れながらミィちゃん?と首を傾げた。
「ミズイロのミィちゃん。可愛いでしょ?」
「え……、僕可愛いよりカッコイイ方が……」
「可愛いわよね?」
バキィ、と指の骨を鳴らされアズラルトを盾にしながら高速で同意する。
「かかかかかか可愛いですぅぅぅぅぅ!!!」
逆らってはいけない。この人に逆らったら恐ろしいことが起こる。ミズイロは長年培った命大事に根性で瞬時に悟った。
ガタガタ震えてアズラルトの服の裾を握るミズイロに、アナスタシアンは
「あらあらあらぁ~」
と一人何故かご満悦である。
「お前、聖剣しまえ」
寄り添う(勝手にミズイロがくっついている)二人に満足げな姉は置いておき、まずミズイロのデメリットを認識させるべき、と判断する。占いオババにでも聞いたのか知識としては知っているようだが実物を目にした方が早い。
ミズイロもそう思ったか素直に聖剣を納刀した。途端にぼふん、と音を立て次現れたのは小さなミズイロである。
「……くぁ……ッ」
ゴリラ……もといアナスタシアンから変な声が出た。アヒルみたいな変な声が。こて、とミズイロが首を傾げるとアナスタシアンは大きく天を仰ぎ……次いで地に崩れ落ちる。
「お、王女様!!!?」
先の戦闘で実は傷を負っていたのか。遅効性の毒にでもあたったか。ミズイロはオロオロとアズラルトを見上げたがアズラルトはそこはかとなく虚無の表情である。
「王子様!王女様が……!」
「気にするな。こういう病だ。いや、こういう生き物だと思え」
「へ……???」
「尊死」
アナスタシアンはぐ、とサムズアップしたまま鼻血の海に沈んだ。世界広しと言えど鼻血を噴き出しいい笑顔になる王女などそうそういまい。やはり姉は王女ではなくゴリラだ。アズラルトは一人そう思う。
いやでもちょっとゴリラにも失礼な気がする。しかしそれ以外例えようがないからひとまずゴリラだという事で落ち着いた。
ゴリラが鼻血を噴くとかそういうことではなく、本能に生きる様がゴリラなのである。言ったら殺されそうだから口が裂けても言えないけれど。
「……何もそんな噂じゃなくても良かったのでは」
弟からの至極当然な突っ込みは華麗に無視し、アナスタシアンはミズイロの頭を撫で回している。ミズイロは女性にここまで接近されたことがなく今にも倒れそうだ。
「民に魔王復活を知らせるのは時期を見てからね」
今公表していたずらに不安感を煽るより、各都市領主に早急に万全の体制を取らせ民に安心感も持たせられるようにしてから公表する事にしたらしい。期限は二か月。それ以上は魔王側が待っていてくれる保証はない。
公表後は現在の状況をこまめに発信していく事になっている。
「私はあなた達に手を貸すように言われてここに来たの」
「……また家出したんだろ」
ボソッと呟いたアズラルトの頬をひゅっと掠めた何かがそのシミ一つない綺麗な頬に一筋の傷をつけた。ごくごく浅い、しかし確実に血が滲む傷である。ミズイロは卒倒した。アズラルトは静かに一歩引いた。アナスタシアンは返り血のついた拳を握り、とてもいい笑顔で言った。
「アティ、今何か言ったかしら?」
「イイエ、アネウエ。ナニモイッテマセン」
棒読みである。
この姉に逆らってはいけない。アズラルトは21年の生においてその事実を熟知している。
王の娘であるアナスタシアンではあるが現在の法律で女性王族に王位継承権はなく、扱いは一貴族と同等である。それ故に彼女を貶めようとする令嬢が過去にはいた。アズラルトはその猛者を尊敬している。この姉に辛酸を舐めさせようとするその根性、貴族令嬢ながらあっぱれだ。ーー因みにその企みはことごとく失敗し3倍返しに遭っている。
アズラルトはこの姉が恐怖に戦き悲鳴を上げる、もしくは涙を流す。そんな姿を見たことがない。幽霊が出たと聞けばアズラルトを伴い夜の王城を探検し護衛騎士にしこたま怒られ、学園に入りおしとやかになるかと思いきや、想いを寄せる男子生徒に手籠めにされかけた所を返り討ちにして舎弟にし、嫁入りすれば領地で起こった暴動を拳一つで解決した。
もはや王女の皮を被ったゴリラだと思っている。しかも彼女の持つ固有スキルは【剛腕】。その細腕から繰り出されるパンチの威力はとんでもない。ゴリラだ。ゴリラに違いない。でもそれを口に出すととんでもない事になるのでアズラルトは生涯姉がゴリラである事実を黙して生きていくつもりである。
でもとりあえず想像の中で理不尽なゴリラの頭を殴っておいた。想像の中でも反撃されてえらい目に遭った。姉怖い。
「さて。話がまとまった所で先に進みましょう」
一つも纏まってはいなかったがゴリラに逆らうと命が危ないので従ーーいたい気持ちは山々であるが、目の前は行き止まりである。
「あ。姉上、ミズイロのデメリットの話は聞いてるか?」
この先一緒に行くのなら行き止まり云々の前にまずそれについて話さねばならない。
「ミィちゃんの?聖剣を使うと子供になっちゃう話かしら?」
叩き起こされたミズイロがつつつ……、とさりげなくアズラルトの後ろに隠れながらミィちゃん?と首を傾げた。
「ミズイロのミィちゃん。可愛いでしょ?」
「え……、僕可愛いよりカッコイイ方が……」
「可愛いわよね?」
バキィ、と指の骨を鳴らされアズラルトを盾にしながら高速で同意する。
「かかかかかか可愛いですぅぅぅぅぅ!!!」
逆らってはいけない。この人に逆らったら恐ろしいことが起こる。ミズイロは長年培った命大事に根性で瞬時に悟った。
ガタガタ震えてアズラルトの服の裾を握るミズイロに、アナスタシアンは
「あらあらあらぁ~」
と一人何故かご満悦である。
「お前、聖剣しまえ」
寄り添う(勝手にミズイロがくっついている)二人に満足げな姉は置いておき、まずミズイロのデメリットを認識させるべき、と判断する。占いオババにでも聞いたのか知識としては知っているようだが実物を目にした方が早い。
ミズイロもそう思ったか素直に聖剣を納刀した。途端にぼふん、と音を立て次現れたのは小さなミズイロである。
「……くぁ……ッ」
ゴリラ……もといアナスタシアンから変な声が出た。アヒルみたいな変な声が。こて、とミズイロが首を傾げるとアナスタシアンは大きく天を仰ぎ……次いで地に崩れ落ちる。
「お、王女様!!!?」
先の戦闘で実は傷を負っていたのか。遅効性の毒にでもあたったか。ミズイロはオロオロとアズラルトを見上げたがアズラルトはそこはかとなく虚無の表情である。
「王子様!王女様が……!」
「気にするな。こういう病だ。いや、こういう生き物だと思え」
「へ……???」
「尊死」
アナスタシアンはぐ、とサムズアップしたまま鼻血の海に沈んだ。世界広しと言えど鼻血を噴き出しいい笑顔になる王女などそうそういまい。やはり姉は王女ではなくゴリラだ。アズラルトは一人そう思う。
いやでもちょっとゴリラにも失礼な気がする。しかしそれ以外例えようがないからひとまずゴリラだという事で落ち着いた。
ゴリラが鼻血を噴くとかそういうことではなく、本能に生きる様がゴリラなのである。言ったら殺されそうだから口が裂けても言えないけれど。
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