上 下
16 / 30
第一章 勇者の聖剣が呪われてた

第三王女現る

しおりを挟む
 アズラルトの問いに、ふ、と微笑んだ彼女はーー

「姉上なんて堅苦しい!!お姉ちゃん、って呼んでっていつも言ってるでしょ~~~!!久しぶり、アティーーーー!!!」

 ぎゅむ、とその豊満なお胸様にアズラルトの顔がめり込む。
 あぁ!羨ましい!!思わず本音が口から出そうになるのを何とか耐え、ミズイロは思った。お胸様に惑わされたとは言え、美形怖い病が発症しなかったのはこの瓜二つな顔の所為か、と。

 第三王女アナスタシアン慈愛持つ者。現国王の6番目の娘である。
 現国王の子供は全部で7人。末っ子のアズラルトとは4つ年が離れており、カルヴァンラークのマジョルタ公爵家に嫁いで早7年。6つになった一人息子は全寮制の魔法学院に入学したと聞く。

 公爵夫人として家にいるはずの彼女が何故ここに。アズラルトの疑問は最もである。彼は今乳の谷間で窒息しそうになっているけれど。

「ぶはぁ……ッ!!!殺す気か!!!」

「うふふ、お姉ちゃんに会えて死にそうなくらい嬉しいの?」

「そんなわけあるか!!」

「照れるな照れるな~」

(王子様が遊ばれている……)

 姉、恐るべし。ミズイロは一人っ子だから知らなかったけれど、姉という生き物はこんなに強いのか。
 なんてぽやぽや眺めていたら、その興味津々で輝く碧眼がミズイロを捉えた。 
 何故かギクリ、としてしまう。

「なるほどなるほどぉ~」

 ふんふん、ふむふむ。ミズイロの周りをぐるぐる回り上から下までしげしげと眺め、眼鏡を押し上げ顔をまじまじ見つめる。ミズイロは抜き身の聖剣を握っているがお構いなしだ。
 最後にふむ、と大きく頷いたアナスタシアンは何故かアズラルトにグッとサムズアップした。

「は?何……」

「いい!いいわ、アティ!流石面食いね!!」

「……はぁ?」

 何を言い出した、この姉は。アズラルトの頭に疑問符が大量に浮かんだ。

「王都では、第4王子が薬師の青年と愛の逃避行かけおちしたってもっぱらの噂よ?」

「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 今度の声はミズイロとハモる。あらやだ、息もぴったりじゃない、とハートマーク付きで言われアズラルトは頭を抱えた。
 この姉は頭がおかしいと思う言動が多いけれど嘘はつかない。と、いう事は今王都では……。

「こ、困りますぅ……ッ!!僕は可愛いお嫁さんをもらうんだから変な噂立てないでくださいぃ!」

 滂沱の涙を流しながらアズラルトに詰め寄るミズイロをベシッと地面に倒す。
 聖剣は未だ握られたままだが敵がいなければミズイロの身体能力が上がる事はないらしい。

「こっちのセリフだ!!」

 何が悲しくてこんなもっさりチビ眼鏡と駆け落ちをしないといけないんだ。そもそも駆け落ちなんてしなくても、周りの承認ぐらい自力で得て見せるわ!

 言い争いを繰り広げる二人をふむふむ、と眺めていたアナスタシアンは背後からミズイロを胸に抱き込んだ。豊満なお胸様が背中に当たり、魂が頭からふわ、と出てきているミズイロは置いておいて。

「でもアティ、貴方の好みドストライクじゃないの」

「はぁ!!?」

「小さくて、童顔で、髪がふわふわしてて、頼りなくて、守ってあげたくなるーーあと貧乳」

「貧乳も何もそいつ男ですけど!?」

 あと何故好みの女性像を知っている。  
姉、恐るべし。

「知ってるわ。だって薬師の“青年”と駆け落ちしたって聞いたもの」

「いやいやいや……疑問を持て!」

「愛に性別は関係ないのよ」

 背中のお胸様の圧力で昇天しかけていたミズイロは魂を呼び戻し、おずおずとアナスタシアンを見上げる。身長が160しかないミズイロより彼女の方がヒール分も合わせて背が高い。ちょっと悲しい。

「あの……王女様……」

「……いい……、いいわ、年下男子の上目遣い……!!!」

 私の未来の義弟が可愛いわ……!!!と鼻血を吹かんばかりの王女にミズイロは疑問をぶつけてみる。

「……僕は王様に言われて旅に出たはずなんですが……、どうしてそんな噂が流れてるんでしょう?」

 王命で(強制的に)旅に出たわけだが、その王都では謎の噂が流れているという。意図して流したとしか思えないそれは一体誰が流したものなのか。
 いつも鈍いミズイロにしては随分と冷静である。もしかして聖剣効果だろうか。

 やたら冷静になりやがって弱虫泣き虫のくせに生意気だぞ、なんて某ガキ大将のような事を思いつつ姉の顔を見る。

「噂の出所は占いオババね!」

「あのくそ婆……!!!」

 次に会ったら問答無用で斬りかかってやる!しかし次に続いたのは至極当然の理由だった。

「魔王が復活したなんて民に知られて御覧なさい?みんなパニックよ」

 前回の魔王の復活はおよそ300年前。その時の王都は国中からの避難者で溢れかえり民はみな度重なる災害に疲弊して人心は荒み盗難や強奪が横行する酷い有様だったという。
 その時代の勇者一行が魔王を倒し一時の平和を得たが、後の為に勇者が書き記した書物には魔王はまた復活する、と書いてあった。
 その事はいつかくる災厄の為の教訓として幼子に読み聞かせる物語でも扱われているくらいである。だが実際にその時が来たといきなり公表したらどうなるか。食料を蓄える為店から食料が消え、根も葉もない噂が先行し日用品を買い占める者が現れ、疫病に備えて薬もなくなり本当に必要とする人々に届かなくなってしまうだろう。それが人の世の常である。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

王道にはしたくないので

八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉 幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。 これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

学園の支配者

白鳩 唯斗
BL
主人公の性格に難ありです。

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

処理中です...