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第一章 勇者の聖剣が呪われてた
ミズイロの丸眼鏡
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その晩、何故か一つしかないベッドの取り合いの果てーー本来王族に譲るべきだろうがアズラルト本人が真剣勝負を挑んできたのでーー、いつの間にか疲れ果てて一緒に寝るという結果になったわけだが。
翌朝アズラルトは脳内の処理がフリーズ気味になりながら、現状を理解しようと固まっていた。
ミズイロのふわふわした淡い水色の髪がアズラルトの顎をくすぐっている。まだ夢の中なのかむにゃむにゃと何か寝言を言いながらも健やかな寝息を立てている。
アズラルトは己の腕が何を抱いているのかを手の平でまさぐって確かめた。
暖かく、柔らかさはないけれどスッポリはまっているこれは何なのか。
「んん……くすぐったい……」
さわ、さわ、と這わせたのはミズイロの腹付近で、その感触で目覚めたらしい迷惑気な声を聞いてアズラルトは思いっきり腕に収まっていた“それ”を蹴落とした。
「ふぎゃん!」
尻尾を踏まれた猫のような悲鳴をあげて床に落ちたミズイロがしばしの間の後涙目でむくりと起き上がる。
「ひ、酷いぃ……!!横暴狂暴暴れん坊王子!!朝から何なんですか!」
「やかましい!もう少ししたら出発するから起こしただけだ!」
自分だって今起きたばっかりのくせに、まるでさっきから起きてミズイロを待っていたような事を言ってみる。もちろん寝る時の軽装状態ではなんの説得力もないのだが。
ブス、と唇を尖らせたまま頭の中だけで罵詈雑言を吐いたミズイロはしぶしぶ準備を始める。顔を洗って今日もあっちへこっちへと跳ね飛ぶくせ毛を撫で付けつつ丸眼鏡を定位置にかけた。
実はミズイロの眼鏡は伊達である。童顔の所為で薬師としての腕前を疑われる事の多かったミズイロの為に母が送ったプレゼントなのだ。
ーーと、ミズイロは思っているけれど、今日も素敵にちょっとダサい丸眼鏡は童顔隠しという名目で送られた変態除けである。ミズイロは相手に信用されないのが童顔だから、と嘆いていたが母は知っている。女の、いや、母の勘で気付いている。うちの可愛い息子をあの手この手で家に連れ込んで事に及ぼうとしている変態が未だ一定数いる事を。
そしてそいつらは、ミズイロの薬は本当に信頼できるのか、と難癖をつけてくるのである。そうやって断りにくい状況を作り出して連れ出して家に行けたらそれで良し、無理そうなら連れ込み宿、いやいやいっそ路地裏で、と虎視眈々と狙われる息子に母は言った。
「いい事?ミズイロ。あそこの黒い悪い大人が襲ってきたら迷わずそこを思いっきり蹴り上げてやるのよ。遠慮はいらないわ。潰す勢いでやりなさい」
と。
しかしまずは原因を何とかしてしまった方が良い、とミズイロは童顔隠しの名目で成人男子ながら薄幸そうな美少年風の尊顔を今日も丸眼鏡で隠すのであった。
とりあえず、宿代が浮き昨晩倒した洞窟のモンスターから出たドロップアイテムと素材を売り、貧乏勇者ご一行は駆け出し勇者ご一行程度の金を手に入れた。
そうなればやる事は一つである。
「防具屋?それなら、ほら、あの角だ」
食事を取り宿屋をチェックアウトした二人が目指すのは防具屋である。
元々見習い騎士の革の鎧を着けているアズラルトはともかく、ミズイロは何の防御力もない布の服のままここまで来た。
勇者が王様に言われて旅立つ時は装備を整えられるだけの金か、むしろ装備自体を用意してあるのがセオリーではないのだろうか。もしくは初期装備から多少の防御力がある物を着ている人物が多いのではないだろうか。
それがどうだろう。ミズイロはくたびれた生成りのシャツにシンプルな紺のパンツ、短い黒のブーツ、背中側の腰に革のポーチ。そしてその一般人丸出しの服装のまま右腰には聖剣が煌びやかに存在を主張している。まるで聖剣が本体でミズイロがおまけのような様相だ。
どうやら左利きらしいミズイロだが、アズラルトがそれを知ったのは初めて一緒に食事を摂った時だったから最初から右腰にぶらさがった聖剣は流石というべきか、その人智を超えた感じが気持ち悪いというべきか。
まぁそんな事はどうでもいいか、とアズラルトと同じような革の胸当てを身に着けて店員と何事か話しているミズイロを見やる。
そ の軽装ながら防具を着込んだ姿がとんでもなくーー似合わない。
「今買える装備で防御力が一番高いのはこれだよ」
「うう……そうですか……」
【ミズイロ 装備
布の服
革の胸当て 防御力+3🔽】
ないよりマシ、程度の防御力にミズイロは悲しげな表情である。
王子様がいきなり来て、いきなり連れ出したりしなければ王都で貯金を使ってでもいい装備を揃えたのに……と背後に暗雲とモノローグを飛ばしながらジト目で見たアズラルトは知らん顔だ。
最ももしもミズイロの準備を待っていたら一生旅に出られなかっただろうからアズラルトの判断は正しかっただろう。
ミズイロの両親は突如現れ攫うようにしてミズイロを連れて行った自国の王子にぽかん、としていたが。
そんなこんなでミズイロの装備も整えて、いざ、と足を踏み出そうとして二人ははたと気付いた。
「次はどこに行けばいいんだ?」
翌朝アズラルトは脳内の処理がフリーズ気味になりながら、現状を理解しようと固まっていた。
ミズイロのふわふわした淡い水色の髪がアズラルトの顎をくすぐっている。まだ夢の中なのかむにゃむにゃと何か寝言を言いながらも健やかな寝息を立てている。
アズラルトは己の腕が何を抱いているのかを手の平でまさぐって確かめた。
暖かく、柔らかさはないけれどスッポリはまっているこれは何なのか。
「んん……くすぐったい……」
さわ、さわ、と這わせたのはミズイロの腹付近で、その感触で目覚めたらしい迷惑気な声を聞いてアズラルトは思いっきり腕に収まっていた“それ”を蹴落とした。
「ふぎゃん!」
尻尾を踏まれた猫のような悲鳴をあげて床に落ちたミズイロがしばしの間の後涙目でむくりと起き上がる。
「ひ、酷いぃ……!!横暴狂暴暴れん坊王子!!朝から何なんですか!」
「やかましい!もう少ししたら出発するから起こしただけだ!」
自分だって今起きたばっかりのくせに、まるでさっきから起きてミズイロを待っていたような事を言ってみる。もちろん寝る時の軽装状態ではなんの説得力もないのだが。
ブス、と唇を尖らせたまま頭の中だけで罵詈雑言を吐いたミズイロはしぶしぶ準備を始める。顔を洗って今日もあっちへこっちへと跳ね飛ぶくせ毛を撫で付けつつ丸眼鏡を定位置にかけた。
実はミズイロの眼鏡は伊達である。童顔の所為で薬師としての腕前を疑われる事の多かったミズイロの為に母が送ったプレゼントなのだ。
ーーと、ミズイロは思っているけれど、今日も素敵にちょっとダサい丸眼鏡は童顔隠しという名目で送られた変態除けである。ミズイロは相手に信用されないのが童顔だから、と嘆いていたが母は知っている。女の、いや、母の勘で気付いている。うちの可愛い息子をあの手この手で家に連れ込んで事に及ぼうとしている変態が未だ一定数いる事を。
そしてそいつらは、ミズイロの薬は本当に信頼できるのか、と難癖をつけてくるのである。そうやって断りにくい状況を作り出して連れ出して家に行けたらそれで良し、無理そうなら連れ込み宿、いやいやいっそ路地裏で、と虎視眈々と狙われる息子に母は言った。
「いい事?ミズイロ。あそこの黒い悪い大人が襲ってきたら迷わずそこを思いっきり蹴り上げてやるのよ。遠慮はいらないわ。潰す勢いでやりなさい」
と。
しかしまずは原因を何とかしてしまった方が良い、とミズイロは童顔隠しの名目で成人男子ながら薄幸そうな美少年風の尊顔を今日も丸眼鏡で隠すのであった。
とりあえず、宿代が浮き昨晩倒した洞窟のモンスターから出たドロップアイテムと素材を売り、貧乏勇者ご一行は駆け出し勇者ご一行程度の金を手に入れた。
そうなればやる事は一つである。
「防具屋?それなら、ほら、あの角だ」
食事を取り宿屋をチェックアウトした二人が目指すのは防具屋である。
元々見習い騎士の革の鎧を着けているアズラルトはともかく、ミズイロは何の防御力もない布の服のままここまで来た。
勇者が王様に言われて旅立つ時は装備を整えられるだけの金か、むしろ装備自体を用意してあるのがセオリーではないのだろうか。もしくは初期装備から多少の防御力がある物を着ている人物が多いのではないだろうか。
それがどうだろう。ミズイロはくたびれた生成りのシャツにシンプルな紺のパンツ、短い黒のブーツ、背中側の腰に革のポーチ。そしてその一般人丸出しの服装のまま右腰には聖剣が煌びやかに存在を主張している。まるで聖剣が本体でミズイロがおまけのような様相だ。
どうやら左利きらしいミズイロだが、アズラルトがそれを知ったのは初めて一緒に食事を摂った時だったから最初から右腰にぶらさがった聖剣は流石というべきか、その人智を超えた感じが気持ち悪いというべきか。
まぁそんな事はどうでもいいか、とアズラルトと同じような革の胸当てを身に着けて店員と何事か話しているミズイロを見やる。
そ の軽装ながら防具を着込んだ姿がとんでもなくーー似合わない。
「今買える装備で防御力が一番高いのはこれだよ」
「うう……そうですか……」
【ミズイロ 装備
布の服
革の胸当て 防御力+3🔽】
ないよりマシ、程度の防御力にミズイロは悲しげな表情である。
王子様がいきなり来て、いきなり連れ出したりしなければ王都で貯金を使ってでもいい装備を揃えたのに……と背後に暗雲とモノローグを飛ばしながらジト目で見たアズラルトは知らん顔だ。
最ももしもミズイロの準備を待っていたら一生旅に出られなかっただろうからアズラルトの判断は正しかっただろう。
ミズイロの両親は突如現れ攫うようにしてミズイロを連れて行った自国の王子にぽかん、としていたが。
そんなこんなでミズイロの装備も整えて、いざ、と足を踏み出そうとして二人ははたと気付いた。
「次はどこに行けばいいんだ?」
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