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第一章 勇者の聖剣が呪われてた

貧乏勇者ご一行、宿屋に泊まる……前に何か出た

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 洞窟の奥でキノコやらスライムやらと戦った結果、聖剣のデメリット発動は納刀後。相手の数や強さによって発動時間の長さが決まっている事がわかった。

 ミズイロは結局一人で洞窟掃除をさせられてゼーゼーハーハー息も絶え絶えである。ついでにレベルも上がった。

【ミズイロはレベルが2上がった!🔽】

【現在のパーティーメンバー
勇者  ミズイロ  LV4
魔剣士 アズラルト LV10🔽】

「王子様……フォローしてくれるって言いませんでしたぁ?」

「フォローしただろ」

「どこがですか!何回かお花畑が見えましたよ!!」

 ミズイロは涙目である。
 そしてその小さい体のミズイロに、アズラルトは大層弱い。自分でも気付きたくなかった事実である。断じて幼子が好きという性癖ではない。ただただ何処かにある父性のような物が大爆発を起こしてしまうだけである。つまりはアズラルトは過保護予備軍なのだ。こんな目に遭っているのが我が子であったならば……想像したら人が死んだからやめた。主に父王とか父王とか父王が死んだ。

「僕もうおうち帰ったらダメですか?」

 うっかりいいぞ、と言ってしまいたくなるけれど今は小さくなっているとは言え、中身は成人男子である。上目でウルウルした目で見られたって……グラグラ揺らぐけれど、ダメな物はダメだ。
 魔王が復活したと言うのが本当ならば誰かが魔王を倒さねば。そしてそれは勇者の聖剣を持った者にしか出来ないのである。
 しかしそこでふと気付いた。
 え、聖剣呪われてるけど大丈夫?と。

「……とりあえず、西の町に行く」

 思考を放棄して歩き出すアズラルトは無意識にミズイロの小さな手を握っている。
 ミズイロも置いて行かれたら敵わないので黙って手を繋がれたままついて行く。今回は聖剣を納刀するまでが長かった所為かなかなか成人サイズに戻らず、行きは聖剣に引きずられオラオラ行くぜモードでミズイロは喋る間もなくひたすら戦わされたけれど、帰りは至って平和に出口まで戻れた。ただ出口付近で元に戻ってアズラルトに地面に放り投げられた以外は。




 大型魔術二輪バイクは本日も軽快に走る。例え乗っている人物からどす黒い鬱々したオーラが出ていたとしても大型魔術二輪の走りは軽快だ。
 西の町に辿り着いたのは夕方頃の事。洞窟の魔物から採取した素材を売って多少の金は手に入れた。ひとまず宿も確保し野宿は免れた。ただし心もとない金なので一部屋だ。何が悲しくて一緒の部屋で寝ないといけないのか。お互いの頭にはそれしかない。
 アズラルトは王子ではあるけれど、王族の金は国民の税金である。故に王子と言えど簡単にポン、と大金は出せないし、国庫を取り仕切る王城経理部からの小遣い制なのでもらった金はタンス貯金だ。その貯金を出す間もなく、否、出せたところでいざという時用に貯めてある金をこの旅で使うつもりはないから、持ち出す時間があったとして初期費用500ゴールドの事実は変わらなかっただろう。
 ちなみに彼が騎士を目指すのは騎士になれば給料が手に入るからだ。自分で稼ぎ、自分で自由に使える金が。いずれ国王になる兄の補佐、という名目の元望むのは金銭的自立であった。
 その点ミズイロは下町と言えども王都に店を構える薬師である。しかもそうは見えないが薬師としての腕はすこぶる良い、と評判の薬師だ。それなりの貯蓄はもちろんある。しかし王都金融機関に預けた金は王都でしかおろせないので、こちらもまた初期費用は財布に入れていた1000ゴールドのみ。一度家に帰ったのに着の身着のまま連れ出された結果だ。

 そんなわけで個人的な貯蓄はあるものの手持ちの現金はほぼない貧乏勇者ご一行は、今日の所はお互い疲れているしーーアズラルトは背後で心の籠らない応援をしていただけだがーー、情報収集は明日にして夕飯を食べて寝てしまおう、と初めて互いの意見が一致した。
 この宿屋は近隣の飲食店と提携していて宿ではなく近隣の店に食べに出るスタイルで、追加料金で部屋まで届けてもらえるサービスもあるがもちろんそんな金は二人にはあるはずもない。
 なので隣の店まで足を運ぼうとした。そう、隣だ。宿屋出口から徒歩30秒である。たったの30秒。まさかその30秒で占いオババの言った例の魔物と遭遇するなんて誰が思うのか。

「キャー!!」

 と悲鳴が聞こえた方を咄嗟に振り返った目の前で、ゾワリと膨れ上がった影が町娘と思われる少女を飲み込んで消えた。
 影が消える瞬間にナイフ型の探知魔道具G P Sを投げて命中させたのはひとえにアズラルトの日頃の訓練の賜物である。金銭的自立のための努力は惜しまない。基本根が真面目なのがアズラルトの可愛い所、と宣うのは父王だ。

 そんなわけで反射的に探知魔道具を投げ、下手に魔物の居場所を追える立場になってしまった為彼らは町の人々に乞われ魔物を追う事になったのだ。断じて娘を助けたら宿代はタダ、という言葉につられたわけではない。断じて。


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