臆病勇者、(強制的に)旅に出る

ナナメ

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第一章 勇者の聖剣が呪われてた

禁域の洞窟

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 街道を一台の大型魔術二輪バイクがスイィィィと軽快に走っていく。

 車輪代わりに重力魔法と風魔法の核を埋め込んで地面スレスレを浮いて進む魔術二輪は、この世界の移動手段の一つである。黒い艶々ボディの下には魔術発動の証に青い光の輪が二つ。探知機能で地面の形を読み取って凸凹の道でも揺れずに進む優れもの。欠点は屋根がない為天候の変化に対応できない事か。
 スピードは人が振り落とされない程度だが、リミッターを外せば時速80キロで走るスピード型の魔物を振り切る速度が出る。ただそこまでのスピードを操りきれる運転手は少ない為、緊急時以外リミッターを外す者はほぼいない。

 今その軽快に走る大型魔術二輪の後部座席でミズイロはえぐえぐと泣きじゃくっていた。涙がキラキラと背後に流れていく。
 何で僕がこんな目に、ともはや呪いの呪文のように唱え続けるミズイロは、しかし運転手のアズラルトにがっちりしがみついたまま離れない。いや、離れたいのだけれどリミッター解除してどえらいスピードで走り続けるそこから飛び降りたら確実に体がクラッシュするから離れられないのだ。
 僕はまだ死にたくない。命大事に。
 その一心で泣く泣くしがみついているのである。

 大体勇者御一行の旅の始まりは徒歩じゃないのか。途中で乗り物を手に入れるのがセオリーではないのか。徐々にグレードアップしていくのが楽しいんじゃないか。

 けれどもここは大型魔術二輪という便利な乗り物が普及されている世界なので仕方ない。
 スイィィィとあくまでも軽快で爽やかな音を立てて大型魔術二輪は街道を爆走するのだった。

 そして辿り着いたのは王家の許可無しに入れない禁域にある洞窟である。勇者であるのならばこの洞窟にある他者には抜けない聖剣が抜けるはず。アズラルトは未だにミズイロが勇者であると信じていない。
 こんなに泣き虫な勇者がいるもんか!
 最早ちょっと意地である。何だったら父王への当て付けも含めて絶対認めたくない。
 彼は未だ絶賛反抗期中である。

「……ど、洞窟……っ、お化けいませんか……!?」

 そんな思いでイライラしてるアズラルトの袖をくいくい引っ張ってくるミズイロ。

「いねぇよ!!」

 ベシッと頭を叩かれてズレた眼鏡を直し直しさっさと歩いて行ってしまうアズラルトを慌てて追いかけその腕にがっちりしがみついた。

「何だてめぇこら!くっつくな!」

「イヤですぅ!絶対ここお化けいますもん!離しませんからねェェェ!?」

「何なんだお前は!スッポンか!?」

 スッポンというよりはグルグル巻き付く軟体動物のようだ。アズラルトがブンブン腕を振ったって全くもって離れない。逆にちょっと怖い。

「聖なる禁域に幽霊なんか出るわけねぇだろ!」

「出たらどうするんですかぁ!王子様責任とってくれますかぁ!?」

 あ、めんどくさい。
 アズラルトはスン、と真顔になると腕にミズイロをくっつけたまま先へ進む。

 大体何なんだその丸眼鏡。取ったら美形とかいう落ちか。ありきたりな。

「……」

 とりあえず片腕にぶら下がるミズイロの眼鏡をちょい、と上げてみる。

 無駄に長い睫毛とくりくりしたスカイブルーの瞳。小さな鼻と薄桃の唇。何事かとオドオド見上げる涙目の上目遣いが小動物のようで妙に愛らしい。

「愛らしいって何じゃーー!!!」

「王子様!!!?」

 ガンッと岩壁に頭をぶつけるアズラルトにびくりと飛び上がるミズイロ。

【アズラルト HP990/1000🔽】

 まだ魔物に出会ってもいないのにジリジリHPが減る勇者(仮)御一行。回復アイテムを使うまでもないがこの微妙な減り具合がこのあと凶と出ないことを祈るばかりだ。

 洞窟の中はほんわり淡く青い光が瞬き、全くの暗闇ではないが時折ピチョン、と落ちる水の音がどこか幻想的ながらも不気味な様相である。ミズイロはアズラルトの腕にぶら下がってガチガチ震え目を閉じたままなので辺りを見渡す余裕はないけれど、無造作ににょっきり生えているクリスタルは盗賊からしたら垂涎物の一品。換金すれば貧乏勇者(仮)御一行は一気に富豪勇者(仮)御一行に進化出来るだろう。
 しかし当然ながら禁域にあるものは目的の聖剣以外は持ち出し禁止。勿論王子であるアズラルトは禁域から盗みを働いたら何が起こるか知っているから手を出さないし、ミズイロに至っては目を開けていないから視界にすら入っていない。
 とても平和に、特に何事もなく最奥に辿り着いたのだった。

 最奥の間は王家の紋章が直に岩に掘られた祭壇のような場所になっており、中央の台座にポツリと剣が一本刺してある。一見無造作にも見える保管方法だが、何せ選ばれた者にしか抜けないのだ。まして無断で来るような輩はここまでのクリスタルの誘惑で盗掘防止の罠にはまり、転移陣で魔界の果てまでも飛ばされている事だろう。

 アズラルトはまだミズイロを認めたくはないので、ひとまず自分で引っ張ってみた。片手でも両手でも魔力まで使って筋力を強化させてでも、とにかくあらゆる手で勇者ミズイロの誕生を阻止しようとした。
 けれど、やはり剣は抜けない。

「お前、抜いてみろ」

「王子様が抜けないのに僕が抜けるわけないじゃないですかぁ!」

 ぷん!と怒りながら剣の柄に手を掛ける。
 白を貴重とした剣の柄は埃一つついておらず、柄の先にくっついた緑の玉は洞窟の淡い光の中でも一際輝いている。

 しかしいくら美しかろうとミズイロは勇者になりたくないものだから、柄を握って抜くフリだけして、抜けないから勇者じゃないので帰りまーす、と言うつもりだ。
 だからまさか柄に手をかけ、ちょっと力を入れただけでスポーンと抜けると思っていなかった。アズラルトもまさかこの泣き虫チビ助に抜けると思っていなかった。二人は同じような真ん丸目で思わず顔を見合せーーミズイロはそっ、と台座に剣を刺して戻した。

「戻すなーーーーッ!!」

 パァン!とミズイロの頭を叩く小気味の良い音が洞窟に響き渡った。

【ミズイロは聖剣を手に入れた!🔽】

【ミズイロは勇者の称号を手に入れた!🔽】

「うわぁぁぁん!!こんなのいりませんーー!!!」

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