ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 その部屋は、甘い香が薄く漂っていた。

 案内された広い洋間の、中央を囲むようにアンティーク調のソファーが配置されている。マホガニーのローテーブルに、飲み物の入ったグラスやオードブルが並んでいた。

 ソファーには既に、何人かが腰を下ろして寛いでいた。それぞれ隣に、連れを置いている。それは自分と同じような年の者から、中には十代になるかならないかの者もいた。

 男ばかりのこの空間で、彼らの関係は、推し量るに容易かった。

「こちらに」

 案内された部屋の中心に一番近いその席は、特に豪奢なソファーが配置されていた。ゆったりと腰を下ろす雅巳さんの、その目元はベネチアンマスクで覆われていた。

「掛けなさい、忍」

 腰を下ろすと目線の高さに丁度いい、中央の丸いステージに心拍数が加速した。
 そこには、キングサイズのベッドが1つ、置いてあった。

「お飲み物はいかがなさいますか」
「シャンパンを頼むよ」
「かしこまりました」

 男性が慇懃に頭を下げて立ち去った。
 雅巳さんが、私の顔を覗き込む。

「面白いところだろう? 日常とは切り離された空間だよ」

 口端を引き上げた雅巳さんは、私の頬をするりと撫でた。

「雅巳さん! 今日は雅巳さんがマスターなんだね」

 不意に背後から声が聞こえ振り向くと、16、17歳くらいの金髪の男の子がパタパタとソファーに回り込み、私とは反対側の雅巳さんの隣にトサッと座った。雅巳さんの腕に絡み付き、大きな目でにっこりと彼を見上げる。

ほたる。久しぶりだね」

 名前を呼ばれて嬉しいのか、ピンク色の大きな口から白い歯が零れた。

「そうだよ! なかなか来てくれないんだもん。でも今日は来てくれるって聞いてたから、上から見てた」

 蛍はにこにこと、雅巳さんの腕に絡み付いた。そこに、シャンパンのグラスが3つ、運ばれて来た。

「再会を祝して。乾杯」

 雅巳さんが持ち上げたフルートグラスに、蛍が嬉しそうにグラスを当てる。雅巳さんは振り返って、私を見る。私が手に取るのを待って、持ち上げたグラスにカチリとその端を触れて微笑んだ。ベージュローゼの液体が揺れる。

「忍、蛍くんだよ」

 彼の金髪が、雅巳さんの向こうからふわりと揺れてこちらを覗き込んだ。

「よろしく。この子が今日のドール? 僕の番だったのに」
「ごめんね? 今日はここでゆっくりするといい」
「うん! 雅巳さんを独り占めできるんなら、そっちの方が嬉しい」

 無邪気に笑う蛍に、心音がどくどくと早くなった。

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