ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 ちなみに、高嶺が奈津のことを知ったのは、やはり成瀬不在の披露宴で大野が大失敗をやらかしたあの日だった。

 大野の失敗はホテルとしても前代未聞だったらしく、仕事を早々に切り上げてメルマリーに様子を見に来た高嶺は、成瀬と共に通用口から出て行く奈津を見ていた。そして、大野からその日の報告を受け、奈津のことも色々と聞いたらしい。

 大野は自身の失態を補うかのごとく、何故か奈津を『あの成瀬さんが認める素晴らしい音響さん』とべた褒めし、結果余計に興味を持ってしまったと思われる。

 メルローズでの、あの妙なプレッシャーの原因は、大野に他ならない。いや、そもそも今回のことの発端は、大野ではないのか。

『大野……あいつ、いっぺんシメとくか……』

 苦々しく呟く成瀬の目は、全く笑っていなかった。

 いつ、高嶺とそんな話をしたのかと聞くと、あっさり白状してくれた。変な薬を飲まされたあの翌朝、奈津が眠っている間に電話をしたらしい。

『そんなの、もう一度釘刺しとくに決まってるだろう。きっちり話はつけたから、安心しろ』

 高嶺は、彼なりに成瀬を愛していたのだと思う……理解できるかどうかは別として。成瀬の大切なものに、興味が湧いたと言ったらしい。

『真一が私には見せたことのない顔をしていたからねぇ。真一のお気に入りを、もっと見てみたくなってね。……君は、変わったね。うん、いいんじゃないの? 少し、寂しいけどね』

 高嶺は掴みどころがないが、不思議と悪い人には思えない。あんなことをされたというのに、奈津は何故か、恨む気持ちになれなかった。あの時──自分を嬲っていた筈の高嶺の手は、優しかったのだ。

 成瀬の嫌がることはしないのなら、自分にも、きっともう何もしてこないだろう。ブルームーンのレギュラーは、ありがたく引き受けようと思う。

『ピアノを弾いているお前は、いいからな。応援してるよ』

 成瀬の言葉が、じんわりと心に沁みる。
 そういえば付き合いだした頃、奈津がピアノを弾くと言ったら成瀬はとても驚いていた。『楽器が弾ける人間は尊敬する』と言って、まじまじと奈津の両手を眺めていた気がする。

 今日のクリスマスイベントの演奏も、その頃の約束だったが、果たせて良かった。

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