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あまりに低い成瀬の声にぎくりとした奈津は、お腹にぐっと、力を入れた。あんな醜態を晒して、蔑まれるくらいなら、自分から別れた方がよっぽどいい。
「……もう」
──大丈夫だ、顔を見なければ、言える。
奈津は布団を掴む手にぎゅっと力を込めた。
「もう……別れて、ください」
「っ!」
「あっ」
成瀬が勢いよく布団を引き剥がした。
驚いている奈津の肩を、ぐいっと掴む。
「何言ってるんだ! 何で別れなきゃいけないっ!?」
急に気色ばんだ成瀬に、奈津の赤く腫れた瞳が大きく見開く。ここまで怒りを露わにした彼は、初めて見る。
──その目に、侮蔑の色などない。途端に、奈津の心はぐらぐらと揺れ出した。
「……っ、だってっ……だって、あんなっ……昨日、僕はっ……」
奈津の漆黒の瞳に、みるみる涙が溜まってゆく。
「……だって、あんなっ……っ」
ふいに、成瀬が覆い被さってきた。抱きつかれた弾みで、涙が溢れる。
「……ぅっ、……っ」
成瀬は、ぎゅっと抱きしめると、奈津の耳元で小さくため息をついた。
「……そんなことか」
成瀬の手が、奈津の髪に触れる。
「そんなこと、気にしなくていい」
「……っ、……」
「ていうか、気にすることじゃないだろう?」
成瀬の胸の中で、奈津は小さく首を振る。涙がぼろぼろと、零れ落ちた。
「──奈津。大丈夫だから、全部見せろ。恥ずかしいお前を全部見たって、絶対に、嫌いになんてならない。幻滅なんて、しない。当たり前だろう」
成瀬が、奈津の髪を優しく撫でる。布団から無理に引き剥がされた指先がじんじんと痛んだ。
「お前の恥ずかしいところも、みっともないって思ってるところも、全部俺のものだ。諦めて、全部俺によこすんだな」
「……っ、……ぅ」
「だから──別れるなんて、二度と言わないでくれ。……頼む」
指先の痛みも心の痛みも包み込むように、成瀬は抱きしめてくれる。覆い被さる温かい体にしがみつきながら、奈津はしばらく泣き続けたのだった。
「……もう」
──大丈夫だ、顔を見なければ、言える。
奈津は布団を掴む手にぎゅっと力を込めた。
「もう……別れて、ください」
「っ!」
「あっ」
成瀬が勢いよく布団を引き剥がした。
驚いている奈津の肩を、ぐいっと掴む。
「何言ってるんだ! 何で別れなきゃいけないっ!?」
急に気色ばんだ成瀬に、奈津の赤く腫れた瞳が大きく見開く。ここまで怒りを露わにした彼は、初めて見る。
──その目に、侮蔑の色などない。途端に、奈津の心はぐらぐらと揺れ出した。
「……っ、だってっ……だって、あんなっ……昨日、僕はっ……」
奈津の漆黒の瞳に、みるみる涙が溜まってゆく。
「……だって、あんなっ……っ」
ふいに、成瀬が覆い被さってきた。抱きつかれた弾みで、涙が溢れる。
「……ぅっ、……っ」
成瀬は、ぎゅっと抱きしめると、奈津の耳元で小さくため息をついた。
「……そんなことか」
成瀬の手が、奈津の髪に触れる。
「そんなこと、気にしなくていい」
「……っ、……」
「ていうか、気にすることじゃないだろう?」
成瀬の胸の中で、奈津は小さく首を振る。涙がぼろぼろと、零れ落ちた。
「──奈津。大丈夫だから、全部見せろ。恥ずかしいお前を全部見たって、絶対に、嫌いになんてならない。幻滅なんて、しない。当たり前だろう」
成瀬が、奈津の髪を優しく撫でる。布団から無理に引き剥がされた指先がじんじんと痛んだ。
「お前の恥ずかしいところも、みっともないって思ってるところも、全部俺のものだ。諦めて、全部俺によこすんだな」
「……っ、……ぅ」
「だから──別れるなんて、二度と言わないでくれ。……頼む」
指先の痛みも心の痛みも包み込むように、成瀬は抱きしめてくれる。覆い被さる温かい体にしがみつきながら、奈津はしばらく泣き続けたのだった。
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