ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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          ◆

「ん……」

 恐ろしい程の倦怠感の中で目を覚ました奈津は、一瞬、自分がどこにいるのか分からなかった。

(………)

 体を起こそうとして、身を捩る。

「ぅあっ! っつ……」

 全身に痛みが走り、再びベッドにうずくまった。一気に、記憶が蘇る。

(そうだ……僕は、昨日……)

 酔っていた訳ではないので、覚えている。ところどころおぼろげではあるが、自分が何を口走り、どんな痴態を晒したのか。何度も行為をねだって、何度も気持ちいいと叫び、何度も果てた。吐き気がするくらい……記憶に残っている。

(………)

 今度こそ、成瀬に合わせる顔がないと思った。

 ──軽蔑されたに決まっている。
 あんな醜態を晒したのだ。あんな、おぞましい……嫌だ、もうだめだ。とてもじゃないけど、耐えられない。成瀬だって、もう自分の顔なんて見たくもないだろう。

 一刻も早く、ここから立ち去りたい。……体さえ、動いてくれれば。

 ぎしぎしとあちこち痛む体に、昨夜どんな無茶な行為をねだったのかと思うと、このまま消えてしまいたくなる。

(………)

 もどかしさに鬱々としていると、寝室のドアが唐突にカチャリと開いた。

「奈津、起きたか?」
「っ、」

 奈津は布団を頭まですっぽり被って、身を固くした。

 静かに近付いてくる気配がして、ベッドのスプリングがぎしりと揺れる。成瀬の手が布団に触れてくると、奈津は更に身を固くした。

「そろそろ起きる頃だと思って、湯を張ったから……風呂に入らないか?」

 いつになく優しい声が、布団越しに聞こえた。

「………」
「奈津?」

 そろりと布団を捲られる気配に、奈津は慌ててぎゅっと布団を掴み直した。

「……あの」

 声を出してみて、自分の声が枯れていることに初めて気が付いた。そういえば喉が痛い。理由は、察しがつく。

「……すみませんが、もう少しだけ、1人にしてください。そうしたら、帰りますので」

 もう少し休んだら、動けるだろう。いや、這ってでも、帰る。

「何を言っているんだ。ゆっくりすればいい」
「……昨日は、すみませんでした。どうか……忘れてください」
「奈津、お前は何も悪くないんだから、謝るな」
「……忘れてください。僕のことは、もう……」
「──どういう意味だ?」

 成瀬の声が、ワントーン低くなった。

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