ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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「祖父はバラが好きな人でね、立派なバラ園を持っていたんだよ。──ここの、創設者だ。もう亡くなったけどね」

 国内でも有数のホテルチェーン・メルローズは、今年、創業50周年の節目を迎えた。

 メルローズは、同族会社だ。
 高嶺は、親族だったのか……祖父ということは、現社長の息子、ということになるのだろうか。

「私は三男坊でねぇ。お陰様で好きにさせてもらってるよ。相川くん、兄弟は?」
「え? ……いえ、ひとりっ子です……」
「そうか。……じゃあ、私と同じだねぇ」

 ──今、三男坊って言わなかったか?

「兄2人とは……何ていうか、隔たりがあってね。ああ、仲はいいんだよ。でも昔から……あまり話をしなかったね、私とは」

 ──今、仲はいいって言わなかったか……?

「はは、改めて言うとおかしいねぇ。昔はよく、兄のあとをついて回ったよ」
「………」
「子供の頃は、兄たちの仲が羨ましくってねぇ。2人で読んでる本とか、2人で食べてるお菓子とか、何故か特別なものの気がしてね。私には、分けてくれなかったからねぇ。父に言うとね、新しいものを買ってくれるんだよ。でも私は、兄たちの持ってるそれが、どうしても欲しくてねぇ」
「それは……」
「うん、子供のわがままだね。……相川くん、大丈夫?」

 高嶺が、奈津の顔を覗き込んだ。

「あの……ちょっと……」

 ──おかしい。何だか、体が熱い。酔ったのか? カクテル1杯で、こんなに酔うことがあるだろうか。でも、鼓動がだんだん速くなっている。頭が、ぼうっとする……

「あの……すみません。僕もう、失礼します……」
「気分が悪いの? 大丈夫かい?」

 立ち上がった奈津は、ふらりとよろけて、高嶺に支えられた。

「おっと! 危ないな。……少し、部屋で休んでいくといい」

 高嶺は奈津の体に手を回して、抱きかかえた。

「いえ、そんな訳には……」
「遠慮しなくていい。幸いうちには貸す程、部屋があるからね」
「でも……」

 仕事先の現場で、醜態を晒す訳にはいかない。しかも支配人に迷惑を掛けるなんて、もってのほかだ。

 さっきのカクテル──ブルームーンは、そんなにきつい酒だったのだろうか。ふと見ると、グラスにはあとほんのひと口程度が残っているだけだった。調子に乗って飲んでしまったことを後悔する。

「本当に、もう……」

 何とか自力で帰りたいのだが、足元も覚束ない。

「いいから、部屋で休んでいきなさい」

 入口に近い席だったため、フロアの客に気付かれることもなく、高嶺は奈津を抱えて、そっと店をあとにした。

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