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遠慮がちに答える奈津に、高嶺が微笑む。
「ここもねぇ、ピアニストを入れていたんだけど、ここ1年くらいやめていてね。あのピアノも、すっかり飾り物になってしまったよ」
高嶺はそう言うと、ふとフロア中央の白いグランドピアノに目を向けた。
「そうなんですか」
「相川くん、折角だから、何か1曲弾いてくれない?」
「えっ? 今ですか?」
「そう、今」
奈津は、今度こそ面食らった。まさか、ピアノを弾く羽目になるとは、想像していなかった。
「だめかな?」
高嶺は、じっと奈津を見た。その射るような視線に、断れないことを悟る。
「……どんな曲が、いいですか?」
「そうだなぁ。相川くんは、どんなのが得意?」
「専門はクラシックですけど、ジャズやポップスも大丈夫です」
「じゃあねぇ……あの曲。『ラプソディー・イン・ヘヴン』、弾いてもらえる?」
「『ラプソディー・イン・ヘヴン』……」
それは偶然にも、奈津にとって特別な、思い出のある曲だった。亡くなった母が、とても好きだった曲なのだ。クラシックとジャズを融合したような曲調は、不思議な旋律が聴く人を惹き付ける。
ただ、メインメロディーに癖がありすぎて、こういったバーラウンジではあまり弾かない曲だった。奈津もラウンジやレストランでピアノを弾いてきたが、現場でこの曲を弾いたことはない。
「うちのピアノ、象牙だからちょっと鍵盤重いと思うけど。調律はしてあるから、安心して。BGMを止めさせよう」
奈津の沈黙を了承と受け取ったのか、通り掛かったウェイターに、店内に流れているBGMを止めるように言った。
奈津は、立ち上がった。
「……行ってきます」
「うん」
奈津の母は、あまりにいつもこの曲を弾いていたので、その影響で奈津もいつしか諳んじて弾けるようになっていた。
きっちり全部弾くと、10分近くかかってしまう。それはいけないので、4、5分におさめようと思った。今まで店内は静かなジャズが流れていたので、あまり雰囲気を壊さないようにしたい。メインメロディーを少し軽めのタッチにして、ジャズ感を多めに出してみよう。
そんなことを考えているうちに、ピアノの前まで来ていた。
「ここもねぇ、ピアニストを入れていたんだけど、ここ1年くらいやめていてね。あのピアノも、すっかり飾り物になってしまったよ」
高嶺はそう言うと、ふとフロア中央の白いグランドピアノに目を向けた。
「そうなんですか」
「相川くん、折角だから、何か1曲弾いてくれない?」
「えっ? 今ですか?」
「そう、今」
奈津は、今度こそ面食らった。まさか、ピアノを弾く羽目になるとは、想像していなかった。
「だめかな?」
高嶺は、じっと奈津を見た。その射るような視線に、断れないことを悟る。
「……どんな曲が、いいですか?」
「そうだなぁ。相川くんは、どんなのが得意?」
「専門はクラシックですけど、ジャズやポップスも大丈夫です」
「じゃあねぇ……あの曲。『ラプソディー・イン・ヘヴン』、弾いてもらえる?」
「『ラプソディー・イン・ヘヴン』……」
それは偶然にも、奈津にとって特別な、思い出のある曲だった。亡くなった母が、とても好きだった曲なのだ。クラシックとジャズを融合したような曲調は、不思議な旋律が聴く人を惹き付ける。
ただ、メインメロディーに癖がありすぎて、こういったバーラウンジではあまり弾かない曲だった。奈津もラウンジやレストランでピアノを弾いてきたが、現場でこの曲を弾いたことはない。
「うちのピアノ、象牙だからちょっと鍵盤重いと思うけど。調律はしてあるから、安心して。BGMを止めさせよう」
奈津の沈黙を了承と受け取ったのか、通り掛かったウェイターに、店内に流れているBGMを止めるように言った。
奈津は、立ち上がった。
「……行ってきます」
「うん」
奈津の母は、あまりにいつもこの曲を弾いていたので、その影響で奈津もいつしか諳んじて弾けるようになっていた。
きっちり全部弾くと、10分近くかかってしまう。それはいけないので、4、5分におさめようと思った。今まで店内は静かなジャズが流れていたので、あまり雰囲気を壊さないようにしたい。メインメロディーを少し軽めのタッチにして、ジャズ感を多めに出してみよう。
そんなことを考えているうちに、ピアノの前まで来ていた。
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